まるで…… 「黒が消えれば扉が消えるみたいに見えて、不快だわ」 ええ、不快。とても不快。……大丈夫、私はまだ、大丈夫だわ。 少女の口は笑みを作る。 「行きましょうか」 前回、私は欠けるなとは言わなかった。それは欠けても黒は残れると思っていたから。でも今度は →
2013-08-15 23:41:03「死ねば黒は終わるから」 私も、貴女も。 「他の罪のように、ただ居なくなれると思ったら大間違い」 どちらが死んでも、両方死んでも、私は許さないから。 「だから」 だから貴女は 「体が欠けても心が欠けても、罪を欠けさせてはだめよ?」 本当に許さないから。
2013-08-15 23:43:29「……ああ、もちろん」 黒が終わることだけは、あってはならない。 「この『削落(罪)』は僕だけのもの」 画面を閉じて立ち上がる。手が、するりと離れる。 「この『黒(大罪)』は僕たちのもの」 紅に塗り潰させなど、しない。→
2013-08-16 00:01:19音もなく、再び広間に現れる扉はふたつ。既にレリーフは刻まれている。行くべき先は、決まっている。 「先に行っていてくれないかな」 少しやり残したことがあるから、と憤怒へ告げる。
2013-08-16 00:01:34「構わないわ」 少女は一足先に扉へ進む。コリュっと割れた靴が鳴る。 これは、もうダメね。 扉の前で靴を脱ぐ。ヒトは自殺するときに靴を残すというけれど……。少女は裸足で扉を進む。ぺたりぺたり、裸足のままで。
2013-08-16 02:07:16髪を引きずり、靴をその場に置いて裸足で歩く少女の姿が、扉の向こうに、消えた。 残されたのは自分、それから割れた木靴だけ。しばし、憤怒を呑み込んでかき消えた扉を見つめていたが、ぱたりと瞬いて視線を外す。 もう一度、広間を見渡した。→
2013-08-16 03:59:03永い時を此処で過ごしてきた。ここに在った顔ぶれは幾度も変わった。入れ替わり、時には足りなくなりながらも、空になってしまうことは、なかった。 なかったのに。 今、此処に在るのは、静寂。虚ろな寂寞が満ちている。→
2013-08-16 03:59:16片づけを任せてきたテーブルは確かにきれいに片づけられている。ただ、ひとつだけ、遺されている。 独特のフォルムをしたガラスの瓶に近いかたち。水タバコ。 『彼』はいつでもここにいた。眺めて、時に茶々を入れて、ここに在った。→
2013-08-16 03:59:38パイプの吸い口を手に取って、落とすのは口づけ。触れるだけの、小さな。 「…………さよなら」 吐息と共に絞り出すような、別れ。 口では何とでも言える、けれど。僕は、もう、此処には戻ってこないだろう。――戻って、こられないだろう。→
2013-08-16 03:59:53白のワンピースをゆらりはためかせて、扉の前に立つ。見上げる。揺らぐ世界が用意する無慈悲な扉は、『大罪』に、立ち止まるという選択肢は与えない。 「――さよなら、『僕の知り得る世界』」 そして扉は、閉じられる。すべての『罪』を呑み込んで。
2013-08-16 04:00:09