悪い男に騙される山城【最終章其ノ二『対』】
いえ、もう大丈夫ですわ。御迷惑お掛けしました。 すいませんでした、貴重な高速修復材まで使って頂いて…。 はい、全身快調そのものですっ! これなら榛名を殺せます。 ? いいえ? ふふっ、とりあえず姉様を捜してきますね、ありがとうございました。
2013-10-11 11:04:23姉様を捜し続けるが、どこにも見当たらない。 どこに行ってしまったのだろう。誰かに聞いてみても、何故か困ったり悲しそうにしたり、同情するような視線を送ってくる。誰かが私をドッグに連れて行こうとした。姉様を捜しているのに邪魔をしないでほしい。丁重にお断りした。
2013-10-11 16:49:21あれ? そう言えば姉様はもう何処にもいないんじゃなかったっけ? なんでいないの? 腰にいるはずの日向もいなくなってるし、姉様ももういないのかも知れない。 そんなわけはない。 姉様を呼ぶ。何処にもいない。周囲の人が離れていく。そのまま消えろ。
2013-10-11 16:51:57不意に名前を呼ばれる。 振り向くと、彼がいた。一瞬で何もかも忘れる。姉様を見付けるまで我慢しようと思っていたのに、そんな考えも霧散して消滅する。ごめんなさい姉様、山城は少し遅れます。 駆け寄り、胸に飛び込む。抱き留めてくれた。 会いたかった、会いたかったです!
2013-10-11 16:57:58彼の両手が背中を覆う。血液がどろどろに沸騰する。 片手が離れ、頭を撫でてくれる。脊髄がでちゅでちゅに熔ける。 顎を引かれ、唇を奪われる。世界が虹色の泥を撒き散らしてただの押し花になる。
2013-10-11 17:04:11姉様を捜していた気がしたけども、もうどうでもよかった。 日向がいない気がしたけども、もうどうでもよかった。 榛名を殺したかった気がするけども、もうどうでもよかった。 明日からの不安があったけども、もうどうでもよかった。 駆逐艦の娘達が顔を赤くして見てるけど、最初からどうでもいい。
2013-10-11 17:06:11彼の唇が離れていく。物足りなさに彼の肩に置いた手に力が入ってしまう。 「いいか、山城。よく聞け」 すぐ近くで聴く彼の言葉に膝が震える。 はい、なんでもおっしゃって下さい…! 私の返答に、彼が満足そうに微笑み。
2013-10-11 17:08:43数時間後、私はソファの上に彼の隣に座っていた。テーブルを挟んだ向かい側では提督が湯呑みを手にへらへらと笑っている。気持ち悪い。 「間もなく来ると思いますので」 提督が彼に告げる。 「はい、わかりました」 彼が静かに呟く。カッコいい。
2013-10-11 18:50:31ノックの後に声が聞こえ、ドアが開き榛名と金剛さんが姿を見せる。 榛名は私と目が合うや、その瞳を見開いて動きを止める。顔色が青褪めていく。 彼の言いつけを守り、放っておく。 今は。
2013-10-11 19:15:57一瞬で血の気が引く。提督がソファを手で差すが、入口から一歩も動けない。 奴の隣にぴたりとくっついて座っているのは、山城だ。 昨夜に本気で殺されそうになった事実は、思いの他私の中に喰い込んでいた。嫌な汗が背中を流れる。 対して山城は、ちらりとこちらを見ただけで特に変化を見せない。
2013-10-11 17:24:51「どうしたんだい、榛名」 動かない榛名に提督が首を傾げて問うけども、返事は来ない。 金剛さんだけが部屋に入り、榛名と榛名の視線の先の私とを見比べてから、腰に手を当てて榛名に指先を突き付ける。
2013-10-11 19:19:00首を振り、姉と提督に頭をわずかに下げてから部屋に入ってくる。 彼にも頭を下げた。何故か睨みながら。あぁ、殺したい。
2013-10-11 19:20:41「お会いした事はあると思うけど、こちら開発局副局長の…」 提督が彼を掌で差しながら彼の名を2人に教える。私もついさっき知った事だ。そんなに立場が上だとは思っていなかった。 今思えば部屋が広くて豪華だった事に気付く。
2013-10-11 19:24:38それぞれの既知な間柄は置いておいて簡単な自己紹介を終え、提督が神妙に本題を始める。 「扶桑君の事は、本当に残念だった」 榛名の肩がぴくりと動き、隣の金剛さんも睫毛を伏せる。私はお茶を啜る。
2013-10-11 19:29:51「私の担当した兵器に不備があった所為で、扶桑君に、更に君達にも多大な迷惑を掛けてしまった事を謝罪させて下さい。誠に申し訳無い…!」 彼が隣で深々と頭を下げる。見ていたくないので目を逸らす。お茶が美味しい。
2013-10-11 19:35:30山城は何の動きも見せない。 扶桑さんの名前にも、昨夜の出来事にも、その相違にも、何も反応しない。 山城…。貴女は…。 奴と目が合う。口の端をわずかに上げて私を見返す。 気付く。この状況も全て予測して、先日に私を動かしたのだこの男は。 遅かった。もっと早く気付くべきだった。
2013-10-11 17:44:20榛名が目を見開く。何かを言い掛ける。それを遮るタイミングで提督が言葉を継いで、姉妹と私を順に見る。 「こちらが無茶な納期で依頼したのも原因の1つであるから、間違っても工廠の人達を恨んだりしないようにな。どんなに気を付けても『暴発』というのは起きるものだ。君達も今後は…」
2013-10-11 19:40:07出撃前に、榛名さんが姉様の武器を弄っていました。私は注意したのですがやめませんでした。工廠の人達も見ています。 呟く。榛名が私を見る。無視する。 提督が眉をひそめる。 「榛名君、それはどういう事…」 彼が手を振ってその言葉を遮る。 「やめて下さい。全て我々の責任です」
2013-10-11 19:45:27「君達前線の子達の支えとならなければならない我々がしてはならない事でした。その事で君達が責め合うのを見たくはありません」 彼が辛そうにしている。皆殺しにしてやりたい。 「榛名君は真面目な子です。きっと点検をしていたのでしょう。それを姉想いの山城君が過敏になってしまった」
2013-10-11 19:49:12