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「スリー・ニンジャズ・アンド・ベビー」#2 ――『ニンジャスレイヤー』二次創作小説

サイバーパンクニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』(@NJSLYR )の二次創作小説、連載第二回です。 ・第一回(http://togetter.com/li/590041 ) ・第二回(このまとめ ) ・第三回(http://togetter.com/li/600028 ) ・第四回(http://togetter.com/li/605167 ) 続きを読む
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うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ンじゃ、アバヨ」女がひらひらと手を振り、赤い頭にヘッドホンをかぶせた。託児所のラグジュアリーBGMにシャカシャカと不快なサウンドが混じる。女の言動に呆れ返りながらも、ヤツハシはキョート風に奥ゆかしくオジギ。慌ててジンもそれに倣った。 40

2013-11-22 22:28:12
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

空を覆う灰色の雲から細かい雨が降り出した。人体に有害な重金属成分を多量に含んだ毒の雨。薄暗い街路を行く人々は荷物から傘を、PVCカッパを取り出し身にまとう。近未来都市ネオサイタマにはありふれた光景だ。 42

2013-11-22 22:31:03
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

午後四時。トコシマ地区カミオンナ・ストリートの商業ビルのひとつから、いま、無数のジッパーと鋲 に彩られた、黒い耐酸性コート姿の痩せた女が現れる。小刻みに頭を振りながら歩く女の、燃えるような色の頭にはヘッドホン。漏れる音は......アンタイ・ブディズム・パンク。 43

2013-11-22 22:32:11
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ビル守衛がその胡乱な佇まいに眉を潜める。女は気にした風もなく。「チッ、やンなッちまうな」唇を尖らせ、ショウウィンドウの一つに顔を写す。炎のような髪はへたり、目の下には隈。充血した目をぐるりと動かす。「雨、雨、雨......ジメジメしやがッていけすかねェ街だ」 44

2013-11-22 22:35:29
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

女......イグナイトはメイクを確かめ、特異な髪型をいじる。湿った指ざわりに唇をひん曲げた時、懐でBEEP音。耳を聾す音に買い物客が振り返る。イグナイトはヘッドホンを外して、IRC携帯通信機を取り出し確認。「メッセージでいいじゃねェか」呟いて通話オン。45

2013-11-22 22:36:40
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

IRC通信機から聞こえる相手の声に、「おォ、ちゃんと行ってきたよ」とイグナイト。「あァ、あァ、わかッてるって......監視だろ監視。ダイッジョブ」相手の返事に耳を澄ませながら、口に指を突っ込み、ガムを取り出す。ショウウィンドウになすりつけた。 46

2013-11-22 22:38:34
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「いいよ……アタシがあのネエちゃん苦手なの知ッてンだろ」イグナイトは相手……アンバサダーには答え、背後のビルの四階、七色のカワイイポップゴシック体で書かれた「ンヤチギサウ」の文字を見上げ、せせら笑う。「ヘッ、お優しいこッて……」 47

2013-11-22 22:40:17
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

やがて、通話を終えたイグナイトは、再び頭にヘッドホンを被ると、コートの襟を立てて歩き出した。「清々したぜ」つぶやく彼女の、赤い瞳が暗い陰りを帯びたことに気がつくものはいない。 48

2013-11-22 22:42:40
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

……八時間後。子供四人をそれぞれの家庭に送り届けたジンが帰宅。半額パック・スシの夕食を取りながら、ヤツハシは奥のフスマに目をやる。「実際どう思う?」訊かれたジンは嘆息した。「俺もおかしいとは思う。だけど、背に腹は変えられない、だろ」「そうね……」50

2013-11-22 22:44:46
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ウサギチャン託児所」はネオサイタマ市の認可を受けた歴とした託児所である。しかし、その経営は逼迫している。契約家族はより大規模な企業経営の託児所に鞍替えし、最近市の助成金も減った。その挙句が家賃滞納……キョート風を謳ったことが裏目に出たか。 51

2013-11-22 22:46:10
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

そもそも、二人がこの仕事を始めたのは、ジンが務めていたトーフ工場が先年、謎の火災によって操業停止に追い込まれたことに端を発する。当時、夫と離婚しキョートからネオサイタマにやってきたヤツハシは、オスモウ・バーのオイランをしながらジンと暮らしていた。 52

2013-11-22 22:48:21
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

オイラン稼業は客からのチップが頼みだ。しかし、キョート風の奥ゆかしさを身につけていても、さして美しくもないヤツハシには基本給を超えるチップを稼ぐことはできなかった。客とネンゴロになる選択肢もあったが、ジンの存在とヤツハシのプライドがそうさせなかった。 53

2013-11-22 22:50:26
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

生活は困窮し、オカラを買うカネにまで困るようになった(オカラなどそれまでジンが職場から持ち帰っていたというのに!)。そんなある日、ヤツハシはオスモウ・バーの同僚からベビーシッターを頼まれた。非番の日にアルバイトができると承諾したことから、ヤツハシの眠れる母性が甦った。 54

2013-11-22 22:52:41
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

キョートカチグミ子弟に嫁ぎ、厳格な姑の教育的指導に耐え、やっと授かった息子とは英才教育のためと離れて暮らす非情運命に逆らい、涙も凍る冷たい家庭を去ってから、二度と愛を求めまいと誓ったヤツハシだった。ジンとも将来を考えぬ乾いた共生関係だった。しかし……彼女は母性に未来を見た。 55

2013-11-22 22:54:22
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

そして、二人は、ジンが内臓を売って得たカネでこの部屋を契約、少なくないソデノシタ(注:賄賂のこと)により市の認可も得た。街頭占い師のサイバー占星術に従い、縁起のよい「ウサギチャン」の名前を着けた託児所は、マッポーのメガロシティにぬくもりをもたらす……はずであった。 56

2013-11-22 22:56:57
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「それで、迎えはいつ?」「明日の昼に見に来ると言っていた」「じゃあ、引き取りはなし?」「そういうことだ」「なんてこと……」ヤツハシは頭を抱えた。これではまるでユーレイが産んだ子をキャンディとともに託児するホラーストーリーめいて不可解!理不尽!「そういえば、あの子、名前は?」 57

2013-11-22 22:58:21
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ちょっと待て」ジンが立ち上がり、書類を調べた……「ブッダミット!空白だ」「アナヤ!」まさか名前すらないとは!ヤツハシの胸に怒りの炎が灯った!ウサギチャン託児所始まって以来の珍事であるし、ヤツハシの倫理観に照らし合わせてもこれはあまりにもむごい! 58

2013-11-22 23:00:20
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ちょっと、それ貸して」ヤツハシはジンの返事を待たず、書類をひったくり記載の連絡先にIRCコール。「……ンあ?」女の声にヤツハシの胸の怒りが増す!「ドーモ、こちら、ウサギチャン託児所ですけれども」「あア、なに?」「本日お預かりしたお子さんのことなんですけれども……」 59

2013-11-22 23:02:42
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「チッ……なンだよ?」「お名前の欄が空白で……」「そンなことか。アー、そっちで適当につけといて」「そんなわけには参りません!」答えるヤツハシの声に思わず怒気が声に混じる。「大切なお子さんでしょう!」「アー、アー、うるせェな。わかッたわかッた、今から行くよ」……通信途絶。 60

2013-11-22 23:04:18
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「スゴイ・バカ!」憤懣やるかたないヤツハシは、そのたるんだ尻をドスンとソファにたたきつけた。「……どうした?」とジン。「今から来るって……なによ、近くにいるっての?」「アー、まあ、そういうこともあるのか」「ジン=サン、そんなことでいいと思ってるの?」「そう言われてもな」 61

2013-11-22 23:06:28
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ヤツハシの剣幕に及び腰のジンは、空のスシ・パックを手にキッチンに逃れた。ヤツハシはいらいらと煙草を探し、託児所イメージ重点のために禁煙していたことを思い出した。「シット!」頭をかきむしりながら立ち上がると、隣室へのフスマに向かう。荒々しく引き開けなかったのは保母のならでは。 62

2013-11-22 23:08:26
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

灯りに慣れたヤツハシの目に、ブラインドをおろした寝室は暗く静か。一時間前には空腹でむずがっていた赤子は、今はおとなしく眠っている。「かわいそうに……」静かにベビーベッドに歩み寄ったヤツハシは、その寝顔を見下ろし囁く。……その時だ! 63

2013-11-22 23:10:07
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

BEEP!インターホンが鳴る。「ハイ、タダイマ!」ジンの声がし、玄関のサイバー錠が解除される音。「お母さんかしらね……ううん、違うわ」ヤツハシは愛しい赤子の寝顔を見下ろし、苦々しげにつぶやく。「あんなのが母親なわけない」手を差し伸べ、柔らかい頬に触れる。優しい手触り……。 64

2013-11-22 23:12:29