『リボーン・イン・ディープ・スノー』 前編
(これから流すのは、深雪を主人公とした艦これ二次創作SSの前半でございます。キャラ崩壊、設定解釈の仕方などいろいろとまあありますが、生暖かく見守っていただければと思います。あとで感想などもらえると飛んで喜びます)
2013-12-19 20:02:43「いやだ…沈みたくない……まだ…なにもはじまってもいないのに……」声がする。誰の声?自分の声?それとも乗員の声?なにも見えない。すべては闇。だがいつごろからか、その中に一筋の光が見えた。だから私はその光に向かって泳ぎだす。そして光は広がり、私はそこへ吸い込まれていった。1
2013-12-19 20:03:12「深雪!?あなた、深雪なのね!」その声で私は目を覚ます。目の前には一人の少女。私は彼女を知っていた。「ん、ああ、吹雪か……ひっさしぶりだなぁ」吹雪。特型駆逐艦吹雪型の一番艦。今はこうして少女の姿をとっている。それは私もだけど。そう、私達はこうして、新たな生を受けたのだ。2
2013-12-19 20:05:14この世界がどこのどういう世界なのか、難しいことは私にはわからない。吹雪に聞いてもわからない。まあ私たちは艦娘と呼ばれる存在として蘇り、深海棲艦とかいう怪物と戦うらしい。『提督』という若い兄ちゃんが私達の司令官のようなのだが、私のような下っ端にはそいつと話す機会はほとんどない。3
2013-12-19 20:07:22私達の拠点である鎮守府はなかなかの広さだったが、その割に人の数は少なかった。私を含めても艦娘は15人程度。その他は様子を見に来る間宮さんみたいな出入りの人らと、作業をしている謎の妖精さんたちくらいだ。あと司令官。あの頃に比べて、格段に関わる人は少ない。妖精さんは多いけど。4
2013-12-19 20:09:31そんな艦娘6名ほどで艦隊を組み、深海棲艦と戦うべく出撃するわけだが、あいにくというかなんというか、すでに戦力は固定されつつあるようで、私はその枠から漏れてずっと鎮守府で留守番だ。吹雪も出撃したりしなかったりで、私が思っていたほど、艦娘も戦いに明け暮れているわけじゃないらしい。5
2013-12-19 20:11:39「暇だー!なあ吹雪ー、お前からも深雪さまが戦いに出られるように司令官に頼んでみてくれよー」「それくらい自分で頼みに行けばいいじゃない。それに、深海棲艦との戦いは遊びじゃないのよ」「そうだけどよー」それは私だって知っている。吹雪も時にボロボロの艤装で帰ってくることだってある。6
2013-12-19 20:13:41「それに、深雪は、ね……」「ええ、ええ、どうせ私はさっさと沈みましたよ!」そうなのだ。開戦前の訓練中に沈んだ私にはあの戦争の経験はないし、その後のことをなにも知らない。艦娘になって知識としてそのことを知ったが、実感が伴わない。司令官が私を信頼しないのも、まあ、無理はないか……。7
2013-12-19 20:15:46転機が訪れたのは、そんな話をしてすぐのことだ。「遠征護衛任務?」「うん、資材確保で遠征に出る任務で、ちょっとした経験も積めるんだって。深雪も志願してみない?」正直に言うと、あまり乗り気じゃなかった。拗ねていたのもあるし、正直、ちょっと恐怖心もあった。……ちょっとだけだぜ?8
2013-12-19 20:17:49それでも吹雪もいるし、他の艦娘とも話をしてみたいと思っていたので、私は思い切って志願した。そこで私は、あいつと再会を果たしてしまったのだ。「えっ、あっ、み、深雪さん……!?」特III暁型駆逐艦4番艦、電。あの頃の私と衝突事故を起こした艦だ。思わず身構えると、あっちも怯えていた。9
2013-12-19 20:19:52いや、わかってはいるんだよ。あれは事故なんだから悪気はないって。だが、怖いものは怖い。トラウマだな。「まあ、あの時とは違うんだし、みんなで仲良くやらないとダメだよー」しかもおあつらえ向きに遠征リーダーは那珂ちゃん(そう呼べといわれた)ときた。司令官、こいつはひどいぜ……。10
2013-12-19 20:21:53そんなわけでメンバーは私と吹雪と那珂ちゃん、そして電の4人だ。吹雪と那珂ちゃんがいろいろととりなそうとしてくれたんだが、結局遠征中、私はほとんど会話らしい会話もしなかった。それでも遠征がなんとか成功したのは、この任務自体がそう難しいものではなかったからだろうな……。11
2013-12-19 20:23:54結局その影響もあって、私が遠征に立候補したのはそれきりだった。吹雪はその後も何度か誘って来たが、私はそれを断り続けた。そうしているうちに鎮守府の艦娘も増えてきて、今や遠征任務自体も狭い枠だ。そうなると志願する気も消え失せて、私の日常は鎮守府で基礎訓練をするだけになっていた。12
2013-12-19 20:25:56でもそんな日常にも慣れてきて、もうこのままでもいいかなとか思いはじめたりしていたわけよ。生きてるだけで丸儲けってね。一方で吹雪は遠征任務をこなし続け、顔を合わせる機会はずいぶんと減ってしまっていた。まあ私が避けてたんだけどさ。しかしそんな時に、私たちの運命は動き出した。13
2013-12-19 20:27:58近々、駆逐艦のみで編成した艦隊で挑む作戦があるというのは私も聞いていた。まあ、私には関係ない話と思っていたんだけど、古参艦である吹雪は見事その一員に選ばれたわけだ。もっとも、私はあまり吹雪を祝福してやれなかった。なんか引け目とかがあって、まっすぐに吹雪を見られなかったんだ。14
2013-12-19 20:29:52そして作戦当日も、私は吹雪を見送りもせず、部屋でボーっと寝転がっていた。私なんかいなくても吹雪はやっていけるさ。そんなことを考えていたら、出発前の時間の無いときに吹雪の方が部屋に来て、わざわざ挨拶をしていったんだ。私は横になって背中を向けたまま、吹雪の顔も見ずに黙っていた。15
2013-12-19 20:31:45……作戦失敗の連絡が入ったのは、それから3日後のことだった。精鋭の駆逐艦艦隊といえども、戦艦級相手には歯が立たなかったらしい。砲撃戦で完膚無きまでに打ちのめされ、中でも吹雪はもっとも奮闘したがもっとも被害も大きく、そのまま病院へと搬送されていた。かなり危険な状態だという。16
2013-12-19 20:33:51通常、艦娘へのダメージはもう一つの本体ともいえる艤装が肩代わりするため、艦娘本人が怪我をすることはないんだが、今回の吹雪はその限界を超えてしまったらしい。集中砲火を浴びて艤装が完全に大破、ほぼ轟沈寸前のところを他のメンバーでなんとか鎮守府まで運んできたのだという。17
2013-12-19 20:35:51「……合わせる顔は、ないよな……」私は後悔の底にあった。せめてあの時、ちゃんと挨拶をしていれば……。そんなことばかりが脳内に積もっていく。艦艇時代には早々に沈んだ私だから、同型艦の誰の沈没も見てはいない。こんな思いをするために生まれ変わったのなら、ホント、皮肉すぎるぜ……。18
2013-12-19 20:37:41そんな私の状況を察して、多少顔見知りの駆逐艦はちょっと声をかけるだけで私を放っておいてくれた。もっとも、あいつらだって自分のショックと向き合うので精一杯で、私にかまっている余裕なんてなかっただけかもしれない。しかし、そんなふさぎ込んだ私の部屋へ、意外な訪問者がやってきた。19
2013-12-19 20:39:34「……深雪さん、いますよね?」そう言って扉をノックしたのは電だ。そういえばこいつも古参の駆逐艦であり、あの精鋭艦隊の一員だった。「何の用さ……」「吹雪さんのことで、お話があるのです」「帰ってくれよ」「いいえ、帰りません。深雪さんは、吹雪さんの話を聞くべきなのです!」20
2013-12-19 20:41:25電によって思いがけず強く扉が開かれて、あいつの身体が私に突撃してくる。ああ、あの時と同じだ。違うのは、私がもう沈んでいることか。電はそのまま倒れた私に馬乗りになると、大粒の涙をこぼしながら私の顔を見据えてきた。私にもう逃げ場はない。そして電は、静かに口を開き始めた。21
2013-12-19 20:43:19「吹雪さんは、深雪さんのために頑張っていたのです。深雪さんは、そのことを知っておかなければいけません……」「私の、ため……?」「はい……、あの任務の時、吹雪さんは、深雪さんの装備を使っていたのです」「えっ?」そう言われて、思わず部屋に置かれた装備品に目を向ける。22
2013-12-19 20:45:04艦娘の基盤ともいえる艤装はともかく、砲や魚雷などの装備品は鎮守府から供給される共通のもので、どれも変わらないとされている。だがそれでも些細な差は存在していて、自分に合う物を探して同じ装備内でもコロコロと変更を繰り返す艦娘もいれば、絶対に変えない艦娘もいた。私は後者だ。23
2013-12-19 20:49:13