『リボーン・イン・ディープ・スノー』 前編

深雪を主人公とした艦これ二次創作SSの前編です。 後編 http://togetter.com/li/605299
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シャル819 @char819

とはいえ、その装備も最近はろくに手入れもせず部屋の隅に放置されていたんだが、確かによく見てみると、そこに置かれている砲も魚雷も、自分のものではなく吹雪のもののようであった。私の装備はこれほど手入れが行き届いていない。そもそも、こんな几帳面な手入れをするのは吹雪くらいだ。24

2013-12-19 20:51:11
シャル819 @char819

「でもなんで吹雪はそんなことを」「吹雪さん、深雪さんがまだ敵艦を倒したことがないのを気にしていたので。自分がそれを使って結果を出して、深雪さんにもできることを証明したいって……」「あいつは……」あいつはいつもそうだ。言葉より行動で引っ張ろうとする。うまく伝わらないくせに……。25

2013-12-19 20:52:53
シャル819 @char819

「とにかく、深雪さんは……」「ああ、もういい、もうわかったぜ……」私は電をどかせて立ち上がり、そのまま装備の元へ歩く。そこにはまだ、吹雪が残っているような気がした。「……次の作戦、私もメンバーに立候補するぜ」「えっ……」さすがに、その発言には電も言葉を失ったみたいだ。26

2013-12-19 20:54:36
シャル819 @char819

「例のあの作戦、まだ完了してないんだろ。なら私だって駆逐艦だし、出撃の資格はあるじゃないか」「そうですけど……」「ならいけるいける。今度は、私が吹雪の伝えたかったものを取り返す番だぜ」そう言って、私は吹雪の装備を手に取る。決意は固まった。もう、するべきことはわかってる。27

2013-12-19 20:56:18
シャル819 @char819

だが決意はあれど、私に力がないのは変わらない。だからまずは、力を身につけなければならない。実戦経験もないままでは作戦どころじゃない。そこで私は、鎮守府正面の海域へと飛び出した。なんでもいい、まずは敵を倒すんだ!それさえも出来ぬまま、どうやって吹雪と同じ場所までいけるってんだ。28

2013-12-19 20:58:02
シャル819 @char819

海の上で一人、私は敵を探る。ただ那珂ちゃんの指示通り目的地に向かって進めばよかった遠征任務の時と違って、なにをすればいいのかさえもわからない。「クッソーッ!出て来いよ!私と戦えよ!」私がそう叫ぶと、それに反応したのか、ゆっくりと、海の中から黒い巨大な影が浮かび上がってきた。29

2013-12-19 20:59:46
シャル819 @char819

「こ、こいつが、深海棲艦……」話には聞いていたが、それは艦艇とはまったく別の異形の姿だった。私たちが少女の姿だというなら、こいつはひとことでいうなら巨大な深海魚だ。誰が言い出したのか知らないが、深海棲艦とはぴったりな名前だな。あんまり艦って感じはしないが、それは私たちもだ。30

2013-12-19 21:01:31
シャル819 @char819

一説よれば深海棲艦は、沈められた艦の怨念が形になったものらしい。だがそういう意味では、私たち艦娘も、一歩間違えば深海棲艦と変わらないかもしれないな。実際、轟沈した艦娘も深海棲艦になるという噂は絶えない。吹雪はどうなんだろう。そしてそれと同時に、私はひとつの疑問が浮かんだ。31

2013-12-19 21:03:11
シャル819 @char819

だが、今は暢気にはそんなことを考えている場合じゃなかったんだ。ゆっくりと深海棲艦の側面部分から砲台が生えてきて、立ち尽くす私へと照準を向ける。「えっ?」冷たい砲口と、ギラギラと不気味な光を灯した深海棲艦の瞳が私を射抜き、そして間を置かずその砲が容赦なく火を噴いた。32

2013-12-19 21:04:55
シャル819 @char819

駄目だ、かわせない!そう思った直後には肩口に強い衝撃が走り、私は弾き飛ばされて海面を転がる。確かに外部的な怪我はないが、艤装は大きく壊れ、全身にもまだ衝撃の感覚が残っている。「こ、今度はこっちの番だぜ!」私もなんとか装備を構えなおし、狙いを定めて砲を発射しようとする。33

2013-12-19 21:06:38
シャル819 @char819

だが、訓練では何度か撃ったことがあっても、実戦はまったく別物だ。自分でもわかるくらいに手が震え、弾は明後日の方へと飛んでいく。深海棲艦はそんな弾の行方を気にすることもなく、今度は魚雷を私へと向けてくる。私もなんとか魚雷を構えて、深海棲艦を形だけでも威嚇する。34

2013-12-19 21:08:22
シャル819 @char819

魚雷の発射は同時で、それぞれ海面に白い線を残しながら水中を走っていく。そして再び衝撃。ヤツの魚雷は私に直撃し、艤装は完全に壊れてしまった。そしてそれによって、私は私自身の身体にダメージがあふれてくるのを感じ取る。痛みと同時に身体が水面から落ちる。ああ、つまりこれが轟沈なのか。35

2013-12-19 21:11:45
シャル819 @char819

身体の自由がなくなり、私は水底へと沈んでいく。空と海が同時に目に入り、そして、私の中にあった疑問が再び蘇る。『深海棲艦が沈められた怨念から生まれるのなら、私はどんな怨念で持って深海棲艦になるんだ……?』私は誰を恨み、誰に恨まれるのか。電?いや、それは筋違いすぎるぜ。36

2013-12-19 21:13:26
シャル819 @char819

『私はただ、なにもなさずに沈みたくないだけだ』37

2013-12-19 21:15:09
シャル819 @char819

「あれ?」気がつくと私は、鎮守府の側の浜辺に倒れていた。天国でも地獄でもないらしいが、なにがどうなったのかわからない。艤装は傷ひとつないまま残っていて、まるで、すべては夢だったかのようだ。ただ、装備は同じ物だったが、それは私が持ってきた物じゃない。吹雪のものだったからわかる。38

2013-12-19 21:16:50
シャル819 @char819

いったいなにが起こったんだろう。あの深海棲艦との戦いは夢だったのか?それはわからないが、とりあえず、私は鎮守府へと戻ることにした。冷静に考えると、私のしたことは大問題だ。無断出撃だぜ。飛び出してからどれくらい時間が過ぎたのかわからないが、なんとかして誤魔化さないと。39

2013-12-19 21:18:34
シャル819 @char819

だが鎮守府に戻ると、私の行動はただの無断外出程度に思われていた。まあ、艤装も傷ひとつないし、私が深海棲艦と一戦交えてきた(正確に言うなら一方的に倒されてきた)なんて信じてもらえないだろう。結局罰もお説教と軽い謹慎程度となり、私はその夜を営倉で過ごすこととなった。40

2013-12-19 21:20:16
シャル819 @char819

営倉の殺風景な部屋の中、私はいろいろなことを考える。吹雪のこと、私自身のこと、今日の戦いのこと。『ククク』その時、不意に笑い声がした。だが周囲には誰もいない。それは私自身の中から聞こえたが、私のものではない声だ。声は不愉快なノイズ交じりにこう言った。『オマエ、面白イ艦ダナ』41

2013-12-19 21:23:09
シャル819 @char819

『リボーン・イン・ディープ・スノー』 前編 終わり。

2013-12-19 21:24:06
シャル819 @char819

『リボーン・イン・ディープ・スノー』  前編 http://t.co/uMYpVMLZY4 後編 http://t.co/E04f0IHsCW

2013-12-21 11:29:13