その司祭の名前は何語なのか?

「アレッサンドロ・ヴァリーニャーノ」なのか「ヴァリニャーニ」なのか。
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Andrea Dei Ira Ducissa et Comitissa @And_Temp_Iap

@Latina_tan 16世紀に日本に来たイタリア人司祭に、アレッサンドロ・ヴァリニャーノ Alessandro Valignano という方がいるのですが、何故かこの方は、度々 ヴァリニャーニ Valignani と表記されることがあるのです

2013-12-28 15:48:43
Andrea Dei Ira Ducissa et Comitissa @And_Temp_Iap

@Latina_tan ネットで調べてみると、ヴァリニャーニの方は、彼の名のラテン語形が影響してるのでは、などと書いてあるページがありました。でもラテン語系ならヴァリニャーヌスですよねぇ…… http://t.co/SqeNguFKhl

2013-12-28 15:49:17
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ラテン語たん @Latina_tan

さて、こんなお話をいただきました。

2013-12-28 16:00:02
ラテン語たん @Latina_tan

お名前を「アレッサンドロ・ヴァリニャーノ Alessandro Valignano」さん。 ナポリ生まれのイエズス会のかたで、日本にも来られていて、少年使節団の派遣を計画したかたです。

2013-12-28 16:04:24
ラテン語たん @Latina_tan

さて、一般には「ヴァリニャーノ」さんですが、一部「ヴァリニャーニ」と書かれる場合がある、と。

2013-12-28 16:11:45
ラテン語たん @Latina_tan

この舞台裏にあるものを知るには、いくつかの事実を明らかにしていく必要があります。

2013-12-28 16:12:03
ラテン語たん @Latina_tan

まず、現代イタリア人の姓の多くが「複数形」であること。「プッチーニ」、「ザッケローニ」、「トスカニーニ」、「レスピーギ」…イタリア語の男性名詞の多くは -o で終わり、複数にするときは-i です。 ああ、ガリレオ・ガリレイもそうですね。彼の前姓「ボナユーティ」もそうです。

2013-12-28 16:14:37
ラテン語たん @Latina_tan

英語の姓でも、男性名に-sをつけたりします。Jones, Richards…これは「一族の祖とされる立派な人物の名前」や、単に姓を決めた時代の当主だったりするようですが。 イタリア語の「複数形の姓」がこれと源を一にするかは不明ですが、こんな雰囲気のものだと感じていただければ。

2013-12-28 16:17:37
ラテン語たん @Latina_tan

いいですか? 【イタリア語の姓には、複数形 -i を使ったものが比較的多い】。 これがひとつめです。

2013-12-28 16:18:43
ラテン語たん @Latina_tan

そして、今度は日本でのお話。日本におけるカトリックの伝統では、人名は「ラテン語の奪格形」で表記する慣習があります。Sanctus Petrus は奪格のSancto Petro を使って「聖ペトロ」です。…男性名の奪格は大抵「-o 」だから日本人になじみやすいからでしょうか?

2013-12-28 16:24:38
Andrea Dei Ira Ducissa et Comitissa @And_Temp_Iap

それは全く知らんかった!!衝撃!!

2013-12-28 16:26:04
ラテン語たん @Latina_tan

 また、この「-o」で終わる形、偶然にも現代イタリア語の形と一致することが多いのも便利なんだと思います。Petroは現代イタリア語だとPietro, Marco(聖マルコ)にいたっては完全に一致します。

2013-12-28 16:28:34
ラテン語たん @Latina_tan

で、話は冒頭の「アレッサンドロ・ヴァリニャーノ」さんに戻ります。

2013-12-28 16:30:52
ラテン語たん @Latina_tan

彼のナポリでのお名前はおそらく、そのまま「Alessandro Valignano アレッサンドロ・ヴァリニャーノ」でしょう。 教会ラテン語でのお名前はきっと「Alexander Valignanus アレクサンデル・ヴァリニャーヌス」(発音はイタリア語風)。

2013-12-28 16:34:11
ラテン語たん @Latina_tan

とはいえ、ラテン語名って「現代の名前から無理やり逆生成」ってことも大いにあるので、古典時代にはなかったような名前にもなりえます。

2013-12-28 16:35:55
ラテン語たん @Latina_tan

現在日本で使われている「ヴァリニャーノ」という形は、「カトリックの伝統であるラテン語の奪格形」でもあり、また偶然にも「現代イタリア語の語形」とも一致してるわけですね。

2013-12-28 16:37:00
ラテン語たん @Latina_tan

しかし、「多くのイタリア人の姓は複数」という感覚をお持ちの方は、「あれ?間違ってる?」とか「あれ?これって古い形?」と思ってしまい、正しい現代語に「修正」してしまうことがあるのだと思います。そうして生まれるのが「ヴァリニャーニ Valignani」。

2013-12-28 16:38:44
ラテン語たん @Latina_tan

しかも現代イタリア人の姓には Valignani も存在する…というかそっちのほうが多いのでさらにややこしいのです。

2013-12-28 16:39:17
ラテン語たん @Latina_tan

ですので、「ヴァリニャーノ【ラテン語による表記(の日本での慣用読み)】かつ【当時のナポリでの彼の本来の名前】。ふたつが同形なのはなかば偶然の一致。

2013-12-28 16:40:58
ラテン語たん @Latina_tan

「ヴァリニャーニ」は、「あれ?姓なのに複数になってないじゃん!」「現代イタリア人にヴァリニャーニさんいるし!」という早合点から生まれた【修正しちゃった後の語形】ではないかと推測できます。

2013-12-28 16:41:55
Andrea Dei Ira Ducissa et Comitissa @And_Temp_Iap

@Latina_tan なるほど!疑問が解けました!! 2日連続で質問に答えてくださって本当にありがとうございます! ラテン語たんに幸福あれ!!

2013-12-28 16:47:48
Andrea Dei Ira Ducissa et Comitissa @And_Temp_Iap

きゃーー!! ラテン語たんが女神様過ぎる!! O(≧∇≦)O ありがたや、ありがたや!

2013-12-28 16:50:17