投げ込み寺の囚人(投げ込み寺の主3)

診断メーカーの「進撃せよ!~まいにち調査兵団~」(http://shindanmaker.com/352448)から派生した物語。 ツイロンガーで修正版をアップするつもりですが、無修正版をこちらにも。 単発で考えていたものが増えてきて、シリーズ化してもいいんじゃないかと思いはじめてきました。 続きを読む
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お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「ねぇ、寒いよ」白い陶器の骨壺に頬を寄せ、男は囁いた。「君は冷たいね」外では真綿のような雪が降っていた。例年より暖かかった今冬の初雪だった。物音に気づき、男は白い頭巾をかぶった。「すぐに戻るよ」寺の主は骨壺に口づけし、部屋を後にした。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-28 23:57:41
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 身寄りのない者たちの亡骸が眠る投げ込み寺の朝は、雪の降る音が聞こえそうなほどに静かだった。外に出た寺の主は、供養塔の前に丸まる小さな背中を見つけた。後ろで束ねられた髪に、簡素な薄手の着物。幽霊かと思い近づくと、その背中は息をしていた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-29 10:17:44
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 寺の主は少女に尋ねた。「何をしているの?」少女は合わせた手の平を離さずに顔を上げた。「へぇ、かほる姐さんに会いたくて」その顔はあどけなく、頬はほおずきの実のように赤かった。「君、かほるの知り合い?」「姐さんに優しくしてもらいました」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-29 10:27:45
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 寺の主はある魂のことを思い出していた。小柄でくるくると笑う、愛嬌のある遊女のことを。「尼さんは姐さんを知っているの?」「うん。中で話をしようか。風邪をひくよ」少女の手を取り、寺の主はハッと息を飲んだ。少女の手は白く滑らかで、陶器のように冷たかった。 #日刊調査兵団

2013-12-29 10:42:58
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女は火鉢の前に座り、ふうふうとお茶を啜っていた。寺の主は「るり」と名乗る少女に呆れていた。男衆に泣きついて遊郭を抜け出し、ここまで来たと言うのだ。「外出がバレたら、どんな目に遭わされるかわかっているの?」「へぇ。でも、すぐに戻るし」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-29 15:37:06
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 歳は十五ぐらいか。身売りされて日が浅い少女は、まだ何も知らないのだ。るりは夢見るような表情で言った。「かほる姐さんは、幸せにならはったん?」少女の妙な言葉遣いがいじらしく、寺の主は笑いを堪えて軽く頷いた。「うん、魂は安らかに逝ったよ」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-29 23:20:29
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl るりは隣に座る寺の主に寄り掛かり、鼻をふんと鳴らした。「尼さん、いいにおいがする」「いいにおい?」寺の主は少女の顔を覗き込んだ。「お日様を浴びた蜜柑みたい」屈託のない少女の笑顔が、寺の主の心に呼び掛けてきた。懐かしい声で「兄さん」と。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-29 23:38:48
お菊 @sara_yashiki

@tos 「そう」寺の主は何気なさを装って答え、少女の唇にゆっくりと自分の唇を近づけた。るりは目を丸くして首を傾げた。「尼さん?」そして、二人は触れ合った。鼻と鼻の先が。寺の主はカアッと赤面し、慌てて顔を引き離した。「ごっ…ごめん、今のは忘れて!」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-02-08 01:58:58
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「へぇ?」「なっ、なんでもないんだ!本当に!」慌てふためく寺の主の姿に、るりはくすくすと笑い出した。「おかしな尼さん!」そして、笑い涙をそっと拭って、立ち上がった。「尼さん、ありがとやんした。ほな、さいなら…じゃなかった、おさらばえ」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-29 23:49:25
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女が去った静かな部屋で、男は一人ため息をついた。「ねぇ、笑っているの?」骨壺は答えない。「どうせ、僕は不器用だよ」男はふぅっと笑った。「でも、君と愛し合うのに、不自由はしないと思うんだ」男はぬくもりを求めて、冷たい骨壺を抱きしめた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-30 09:58:39
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 次の訪いは、梅のつぼみが綻びはじめる頃だった。寺の主は戸惑った。綺麗に結われた髪に、整えられた眉、紅をさされた赤い唇。そして、相変わらずの薄着だった。「尼さん、また来てしまったでありんす」寺の主の姿を見つけて、るりは嬉しそうに笑った。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-30 11:24:37
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「綺麗に…なったね」寺の主は縁側から庭に降りた。「あい、自分でやったでありんす。かほる姐さんに見てもらいたくて」「ねぇ、その…水揚げは…」寺の主は頬を赤らめて、口を押さえた。「水揚げ?」少女は首を傾げた。「ああ、お客はまだでありんす」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-30 11:40:43
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 寺の主は目を細めた。「まだ見習い?」「あい、春ぐらいまでは」「ふぅん」寺の主は気のない風を装い相槌を打った。そして、真面目な口調で少女をたしなめた。「るり、もう来ちゃ駄目だよ。見つかったら、本当に酷い目に遭うんだから。私と約束して」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-30 17:55:28
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「でもぉ…」るりは口をへの字に曲げて、頬を膨らませた。寺の主は懐を探り、赤い紐がついた小さな鈴を差し出した。「君にあげる。約束の印。君は年期が終わって遊女を辞めるまで、遊郭を勝手に抜け出さない。私はかほるの冥福を祈り続ける。いい?」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-30 23:20:35
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女は鈴を手に取り、にっこりと笑った。「わぁ、綺麗な鈴」寺の主は眩しそうに目を細めた。「かほるは私の大切な友達。その妹分を危険な目に遭わせたくないの。わかってくれる?」「あい!尼さん、お願いがありんす。本当の名前を教えておくんなんし」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-30 23:34:38
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「本当の…名前?」「あい。尼さんもわっちらと同じで、二つ名前があると聞いたでありんす」「私は、おきゅ…」寺の主はふぅっと優しい笑みを浮かべた。「…ううん、利だよ」るりは鈴を握りしめた。「利さま。わっちの勤めが終わるまで、おさらばえ」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-30 23:49:36
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 骨壺の前で、男はきちんと正座して問い掛けた。「ねぇ、怒っているの?」骨壺は答えない。「だって、今日の君はいつもより冷たい。鈴をあの子にやってしまったから?」そして、骨壺を膝に乗せた。「あれは、泣き止まない君をあやすためにあげたものだ」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-31 00:28:57
お菊 @sara_yashiki

@tos 男は骨壺を軽く揺り動かした。「君にはもう必要がないはず。…お久、死ぬまで肌身離さずに持っていてくれたなんて…見つけて、僕は死にたくなったよ」骨壺はカラリと乾いた音を立てた。「大丈夫、僕は死なない。まだ死ねない。君の許に行けなくなるからね」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-27 01:59:17
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 男はくすくすと笑い出した。「妬いている?十も年が下の娘に?僕が愛しているのは…そうか」男は笑うのをやめて、すっと目を細めた。「君を僕のものにしたつもりが、僕が君のものになっていたんだ」男は法衣の袖を口元に当てて呟いた。「君のにおい…」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-31 01:10:15
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 眠れる小さな桜のつぼみを揺り起こそうとして、春一番が吹き抜けた日の夜。寺の主は一日の勤めを終え、床に就こうとしていた。ふと気配を感じて、縁側に出て庭を見渡すと、白い影がゆらりと動いた。寺の主は驚き、影に向かって「るり!」と呼び掛けた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-31 02:54:12
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「…利さま」応じる少女の声は弱々しかった。「どうしたの?」寺の主は裸足のまま庭に降りて、少女の許へと駆け寄った。「利さまぁ…」少女は膝からくずおれ、わっと声をあげて泣き出した。「わっちは利さまに会いたくて…渡したくて…約束…破って…」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-31 03:05:10
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl るりの手には、赤い簪が握られていた。「私に、これを?」「約束…印…わっちから…」寺の主が受け取ると、少女は声を噛み殺して啜り泣いた。月明かりに浮かぶ少女の青白い頬は、赤く腫れていた。寺の主は身震いした。「…ねぇ、誰かに乱暴されたの?」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-31 03:15:20
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女の目から大粒の涙がぽたりぽたりとこぼれ落ちた。「わっちは…あたいは…利さまに会いたくて…会いたくて…また見逃して、って…お願い…して…そしたら…」少女の言葉は途切れて、嗚咽に掻き消された。「るり」寺の主は少女の体を胸に抱き寄せた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-31 03:28:13
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「利さまぁ…」るりは寺の主の胸に頬を押し付けた。少女の体は温かく柔らかで、甘い酸っぱい香りがした。「るり、怖かったね」寺の主の指は、ぎこちなく少女の髪を梳いた。突然、腕の中で小さな肩がビクンと動いた。「あんた…あたいを騙していたの?」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-31 08:50:50
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl るりは激しく暴れだし、寺の主を押しのけて睨みつけた。「あんた…男だ…」寺の主は目を見開き、薄い寝間着の上から自分の固い胸に手を当てた。「あんた…あいつと同じにおいがする。あんたもするの?あいつと同じこと…したいの?優しいフリして…」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2013-12-31 09:05:00