投げ込み寺の主

診断メーカーの「進撃せよ!~まいにち調査兵団~」(http://shindanmaker.com/352448)のプレイログの一部抜き出し。 あとから作った前日譚「投げ込み寺の来訪者」(http://tl.gd/n_1rv4ud0) その続き 「投げ込み寺の囚人」(http://togetter.com/li/621400続きを読む
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お菊 @sara_yashiki

@tos 「かわいそうな子達」そっと呟き、細い指を静かに数珠に絡める。投げ込み寺には遊女たちの亡骸が投げ込まれる。今日は五人だ。「ねぇ、尼さん」頭巾をかぶった頭を振り向けると、髪をつぶし島田に結いあげた小柄な若い女性が立っていた。「わっちは死んだのでありんすか?」 #まい調時代劇

2013-10-19 10:00:59
お菊 @sara_yashiki

@tos 数珠から指をほどき、黒い法衣の袖をすっと振り、寺の主は供養塔を指さした。「君たちはこの下で眠っている」白い頭巾の中で目を細めて、女性の輪郭を見極めようとしている。「…ああ、あの仏様は君か。体も顔も折檻で滅茶苦茶。一番酷かった。足抜けでもしようとしたの?」 #まい調時代劇

2013-10-21 23:13:26
お菊 @sara_yashiki

@tos 遊女の幽霊は口に手を当てて、ふふふと笑った。「面白いお人。わっちを『君』だなんて…」「じゃあ、どう呼んでほしいの?」「『かほる』と呼んでおくんなんし」「かほる?いい名前だね」「尼さんは?」「私?みんなからは『尼さま』とか『久利羽尼』と呼ばれている」 #まい調時代劇

2013-10-18 13:33:15
お菊 @sara_yashiki

@tos 「ほな、久利羽さま」「なぁに?」「わっちには、いい人がおりんした」「その人と駆け落ちしようとしたの?」「あい」「でも、来なかったんだね?」遊女の幽霊は俯いて、それからしゃがみ込んだ。「…わっちは、源之信さまに捨てられんしたか?」「さあ、どうだろうね?」 #まい調時代劇

2013-10-21 13:34:41
お菊 @sara_yashiki

@tos 寺の主は法衣の裾を綺麗に折り畳んで座り、幽霊の顔を覗き込んだ。「ねぇ、かほる。その『いい人』に会いたい?」「へ?」「会いたいなら、会わせてあげる。君たちの魂を弔うのが、私の役目だから」幽霊は小さくうなずいた。「…会いたいでありんす」「そうこなくっちゃね」 #まい調時代劇

2013-10-21 22:22:23
お菊 @sara_yashiki

@TOS 空は日が暮れ、月が昇った。屋根から投げ込み寺の主たちを眺めていた烏の群れは、自分の巣へと帰っていった。風変わりな寺の主も、夜の勤めを終えて床に就いた。幽霊は供養塔の前に佇み、一人で月を眺めていた。「寂しい…誰か…誰か…わっちを一人にしないでおくんなんし」 #まい調時代劇

2013-10-30 00:47:38
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 投げ込み寺の裏門から、一人の女性が出てきた。美しい紫色の小袖、高島田に結い上げられた髪、品のある立ち姿。幽霊は横に立ち、ふふふと笑う。「綺麗なお嬢様に化けんしたね」「しぃっ、君はみんなには見えないの。話しかけても、答えられないからね。いい?」「あい」 #まい調時代劇

2013-10-17 23:28:22
お菊 @sara_yashiki

@tos 町は朝から賑わっていた。「…せなわけで、源之進さまは粋なお人でありんした」「ふぅん、聞こえないなぁ?」幽霊が幸せそうに語る惚気話を、武家の娘に扮した寺の主は無視して歩いた。「んもぅ、いけずなお人!…ねぇねぇ、久利羽さまにもいんせんか?心に決めたお人が」 #まい調時代劇

2013-10-18 22:00:28
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 寺の主は立ち止まって、ふぅっと笑った。「私が『いた』って答えたら、君は詮索するんでしょ?…さて、着いたよ。君の愛しの源之進さまのお店」目の前には大きな門構えの呉服屋があった。二人が暖簾をくぐると、店の中では番頭らしき男性と若い娘が親しげに話していた。 #まい調時代劇

2013-10-17 23:57:10
お菊 @sara_yashiki

@tos 「かほる!」寺の主は声をあげてから、ぱっと自分の口を押えた。女の名前に反応したのか、男は慌てた様子で振り返り、こちらを見ていた。寺の主は綺麗にお辞儀をして、幽霊を追って店の外に出た。呉服店の外に立って見回すと、幽霊は細い路地で顔を両手で覆って俯いていた。 #まい調時代劇

2013-10-18 22:24:54
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 「源之進さま…わっちは信じておりんした。ぬし様はわっちを…わっちを…」幽霊の声は震えていた。「かほる。君はどうしたい?報復するなら、私は手伝う。それとも…」幽霊は顔をあげて首を振った。「わっちは、それでも源之進さまを…」寺の主は微笑んだ。「わかった」 #まい調時代劇

2013-10-18 00:17:02
お菊 @sara_yashiki

@tos 幽霊は堰を切った様に喋り出した。想い人との運命的な出会いを、楽しく睦みあった日々を、耳元で囁かれた愛の言葉を。寺の主は紅をひいた唇を閉じて、幽霊の話に静かに耳を傾けていた。幽霊はため息を漏らした。「もっと早う、ぬし様にお目に掛りたかったでありんす」 #まい調時代劇

2013-10-18 13:30:27
お菊 @sara_yashiki

@tos 「そう?」「あい、ぬし様も粋なお人でありんす。源之進さまと同じ位に」幽霊は少し寂しげな顔をした。「何故、尼さんの格好をしているでありんすか?昨晩、ぬし様が枕元に置いていた骨壺…抱きしめ、囁きかけ、接吻をしていた…あれが本物の久利羽さまではありんせんか?」 #まい調時代劇

2013-10-18 22:40:36
お菊 @sara_yashiki

@tos 「…約束したんだ、妹と」寺の主はふぅっとあくどい笑みを浮かべた。 「僕が彼女の跡を継ぐなら、彼女のすべてを僕のものにしていいって」艶やかな紅色の唇は、にいっと歪んだ。「僕を拒み続けてきた彼女の最期の言葉。死に際の彼女は綺麗だった。青白い肌に、真っ赤な唇」 #まい調時代劇

2013-10-18 19:08:07
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 「彼女はそのまま事切れ、清らかなまま死んでいった」幽霊は生前の習慣で吐き気の様なものを感じたが、それをぐっと堪えた。「彼女の魂は極楽にいるのだろう。けれど、僕の魂は地獄に堕ちる。僕が生きて君たちを救済し続ける限りは、彼女は僕のものだ。僕だけのもの」 #まい調時代劇

2013-10-18 01:01:05
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 寺の主は、我に返ったように呟いた。「ねぇ、そろそろ逝きなさい。君の赤ん坊が賽の河原で泣いている」「わっちの?」「そう、君の。気が付かなかった?君のお腹には赤ん坊がいたんだ」幽霊は、そっと自分のお腹に触れた。「お母さんが行きんすよ。待っておくんなんし」 #まい調時代劇

2013-10-18 01:07:23
お菊 @sara_yashiki

@tos 幽霊は寺の主に微笑みかけた。「ぬし様も極楽に行けるかもしれんせん」「え?」「このままわっちらを供養し続けなんしたら、いつか閻魔さまも見逃してくれるかもしれんせん」幽霊は手を振った。「おさらばえ」そして、すうっと消え去った。寺の主は目頭を押さえて囁いた。 #まい調時代劇

2013-10-18 13:28:30
お菊 @sara_yashiki

@tos 「君の魂をもらいに行くよ。僕は必ず約束を果たす。だから、蓮華の花の上で待っていて」 #まい調時代劇

2013-10-18 13:26:55