投げ込み寺の三人(投げ込み寺の主5)

診断メーカーの「進撃せよ!~まいにち調査兵団~」(http://shindanmaker.com/352448)から派生した物語。 ツイロンガーで修正版をアップするつもりですが、無修正版をこちらに。 単発で考えていたものが増えてきて、シリーズ化してもいいんじゃないかと思いはじめてきました。 続きを読む
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お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 少年は慌てて自分の口を押えた。しかし、その叫び声は自分のものではなかった。少年は立ち上がり、障子を開き縁側に出て、裸足のままで庭に飛び出した。そして、悲鳴が聞こえた方向へと走り出した。井戸の側には、少女が一人うずくまって震えていた。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-07 23:26:11
お菊 @sara_yashiki

@tos 少年は男の存在に気がついた。その男は井戸の縁に腰掛けて、蒼褪めた顔で少女の姿をじっと見下ろしていた。少年は少女の名を叫ぶ。少女は顔を上げ、少年に訴えかける。「兄さん、助けて…怖い…」少年は少女を自分の胸に強く抱き寄せ、髪を撫でてやった。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-22 23:53:45
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 「大丈夫、怖くない。あいつは何もしてこない。そこにいるだけで、何もできないんだ」「怖い…兄さん…嫌だ…怖い…」少年は優しく諭したが、少女の頭は恐怖でいっぱいだった。少年は懐から赤い紐がついた小さな鈴を取り出し、チリリンと鳴らした。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-07 23:38:49
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 少女はハッとなって、少年の胸から顔を離して鈴を見つめた。少年は少女の耳元で囁く。「ご覧、この鈴には不思議な力がある」蒼褪めた顔の男も、興味深げに鈴に視線を向けていた。しかし、何も起こらない。男はもの問いたげに少年の顔に目をやった。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-07 23:46:11
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 少年の目は冷たく男に告げていた。「彼女を傷つけるなら、容赦はしない」と。男は井戸の縁から立ち上がり、自分の亡骸がある井戸の底へと戻っていった。少年は微笑む。「もう大丈夫。井戸の方を見てご覧」少女は少年の顔を見つめ、そして振り返った。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-07 23:52:44
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 「…兄さん、さっきの男は?」「鈴の音に驚いて逃げてしまった」少年は少女の手に鈴を握らせた。「またあの男が出たら、この鈴を鳴らすんだ。鈴の音が君を守ってくれる。奴は君に手出しができなくなる」少女は明るく笑った。「ありがとう、兄さん」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-08 00:02:00
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 少年はずっと不思議に思っていた。自分の腕の中にいる少女は、自分と同一の存在なのに、何故親たちは異なるものとして扱おうとするのか。親しく話したり、触れあうことを許してくれないのか。そして、ようやく理解できた。少年は男で、少女は女だ。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-08 00:09:12
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 話したり、触れてはいけない理由もわかった。少年は少女の頬に触れ、唇でそっと涙を拭ってやった。「兄さん、くすぐったい」少女はくすくすと笑い、少年の胸にもう一度顔を埋めた。「大丈夫、私もう怖くない」少年は心の中で呟く。もう君を離さない。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-08 00:19:02

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お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 「ふぅん…あなたの恋人は、お久(きゅう)さんというの?」男は声に驚いて飛び起きた。美しい女の幽霊が枕元にきちんと座り、男の顔をニヤニヤと覗き込んでいた。男は頬を赤らめて口をとがらせる。「ちょっと、椎崎!勝手に入らないでくれないかな」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-08 13:16:21
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 「あら、失礼ね。開いていたから入ってきたのよ」幽霊がしれっと答えると、寺の主はロウソクに灯りをともして、ピッタリと閉じた障子戸を指さした。「どこが?」「壁をすり抜けることに慣れて、気づかなかったわ」「着替えるから、早く出て行ってよ」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-08 13:19:20
お菊 @sara_yashiki

@tos 「私は構わないけれど」「僕がいやなの!」「ふふっ、ウブな人」幽霊がすぅっと障子を抜けて出ていくと、男は白い寝間着を脱ぎ、黒い法衣を身にまとった。「昔の夢をみたよ」枕元に置かれた骨壺に口づけし、白い頭巾をかぶって、男は「寺の主」となった。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-22 23:55:55

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お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 投げ込み寺の朝は早い。身寄りのない者たちを弔う供養塔を、朝日が照らし出す頃には、寺の主は朝の勤めを終えて、住み込みで働く古屋加次郎と朝食をとる。食事はいつも三人分用意されている。寺の主と加次郎と、加次郎の妻である幽霊のおきぬの分だ。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-10 08:35:16
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 太陽は、今日も空の高いところに昇る。「尼さん、こーんにちは!」子供たちが手を振ると、寺の主も手を上げて答えた。「みんな静かに眠っているから、あんまり騒ぐんじゃないよ」「はーい!」加次郎の教え子たちが来ると、寺は一気に賑やかになった。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-10 09:01:24
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 子供たちの声に惹きつけられて、痩せこけた女がゆらりと立ち上がった。寺の主が「ごめん、君の子供じゃないんだ」と伝えると、我が子を失った幽霊は寂しそうに俯いた。おきぬが幽霊に寄り添い、優しく子守歌を口ずさむと、幽霊は再び眠りについた。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-10 22:29:24
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 生前のおきぬは、遊女だった。その名は広く知れ渡り、この界隈に「椎崎太夫」を知らぬ者はいなかった。美しい女の幽霊はふふと笑う。「私は面倒見がいいのよ。たくさんの妹分たちがいたから」誰もが羨む高級遊女は、冴えない小男のために命を捨てた。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-10 23:59:45
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 寺の主に話しかける時、おきぬは無邪気な少女のようだった。「ねぇ、部屋にナデシコが生けてあったの。彼が摘んできてくれたんだわ。私が一番好きな花。教えたこともないのに…ああ!あの夜に着ていた着物の柄よ。きっと、覚えていてくれたのね」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-11 00:09:12
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「はいはい、よかったね。ごちそうさま」寺の主が肩をすくめて言うと、女の幽霊は寂しそうな顔をした。「本当はあなたじゃなくて、加次郎に言いたいのよ。彼のしてくれることがどんなに嬉しいか、どんなに彼に感謝しているか、私が今どんなに幸せか。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-11 00:17:10
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl でも、彼には私の声は聞こえないし、私の姿を見る事もできない。もちろん、触れることも…抱きしめることも、愛しあうことも…だから、あなたに言うのよ。彼に言う代わりに、あなたに」夫と子供たちの笑い声を聞き、女の幽霊は目を細めて微笑んだ。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-11 00:23:49
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 寺の主は、ふぅっと笑う。「のろけ話を聞かされた僕は、どうすればいい?彼の夕飯のおかずを一品増やしてあげる程度なら、協力するけれど」女の幽霊は「あら、素敵」と、肩をすくめて見せた。「お久さんに聞きたい。こんな男のどこがいいのかしら?」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-12 00:58:18
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「僕も聞きたい」寺の主は法衣の上から、そっと自分の体を抱きしめた。「何故、僕を残して逝ってしまったのか?声を聞くことも、姿を見ることもできなくても、君が側にいてくれる。花を受け取ってくれるし、喜んでくれる。僕は加次郎が羨ましいよ」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-12 01:26:08
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 女の幽霊は曖昧な笑みを浮かべた。「あなたには私の姿が見えるから、そう思うだけよ」そう言って、痩せこけた幽霊に視線を向けた。「ねぇ、さちは何があったの?」寺の主の顔から表情が消えた。「彼女は、自分の子供を守れなかった悲しみで死んだ。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-12 20:38:43
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl ずいぶん前のことさ。僕は幽霊になったばかりの彼女と出会い、彼女の望みを叶えてあげた。報復だ。さちの夫は気が狂って、物見櫓のてっぺんから転落した」法衣の裾を綺麗に畳んで、寺の主は縁側に腰かけた。「苦しみのたうち、無様に死んでいったよ」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-12 23:04:08
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「でも、幸せそうには見えないわ」「間違っていたんだ。彼女の願いも、僕のやり方も。彼女は狂い、逝くこともできずに、こうしてここに留まり続けている」話が聞こえたのか、痩せこけた幽霊は眠りながら身じろぎをした。女の幽霊は「そう」と呟いた。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-02-15 09:04:13