茨の魔女と白百合の聖女

診断メーカーの「進撃せよ!~まいにち調査兵団~」(http://shindanmaker.com/352448)から派生させた物語。 茨の魔法使い・三部作の二番目の物語。 本編である「日刊調査兵団」とは似て非なる物語。 続きを読む
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お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 今にも雨が降り出しそうな、薄曇りの昼下がり。豊かな赤茶色の巻毛をかきあげ、女はソファに身を任せてくつろいでいた。女が頷くと、語り部は口を開き、物語は始まった。「むかぁし昔のお話でした。ある村に『白百合の聖女』と呼ばれる少女がいました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-11 11:33:13
お菊 @sara_yashiki

@tos 彼女は美しくて気立てがよく、誰からも愛される少女でした。冬の朝に降り積もる雪のように白い肌に、村の誰もが目を惹き付けられ、春の小鳥のさえずりのような甘い声には、村の誰もが聞き惚れずにはいられませんでした。ある日、彼女は森にでかけました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-13 00:08:18
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女はそこで、一人の魔女と出会いました。彼女は魔女に言いました。「あなたは誰?どこから来たの?」しかし、魔女は答えません。少女の声に気づかないのか、ぼんやりと湖を眺めていました。少女は村に帰って、村の大人たちに魔女の事を話しました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-11 12:02:36
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女の話を聞いた大人たちは「怖かったね」と、口々に少女を慰めました。そして、村の男たちは武器を持って、森へと向かいました。魔女は湖の側にいました。男たちは魔女を覆う茨に驚きました。けれど、勇敢な若者が飛び掛かると、みんなも続きました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-11 16:59:12
お菊 @sara_yashiki

@tos 茨に触れて引っ掻き傷を作った者もいましたが、魔女はあっという間に捕まりました。魔女は抵抗しませんでした。男たちは捕らえた魔女を連れて、意気揚々と村に帰りました。それから、もう魔女が悪さをしないように、村の聖堂の地下室に閉じ込めました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-13 00:24:57
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女は『白百合の聖女』でしたから、聖堂で暮らしていました。彼女は魔女を憐れに思い、大人たちには内緒で、魔女に温かいシチューを与えました。けれど、魔女はシチューを食べてくれません。次の日はパンをあげました。でも、見向きもしませんでした。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 00:13:59
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女は魔女に色々なものを与えました。真っ赤なりんごに、清潔な毛布、甘い香りの花や、銀色に輝く鏡。それでも、魔女は動きません。自分の影を見つめて、ジッとしているだけでした。少女もいつしか、大人たちのように魔女の存在を忘れてしまいました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 00:46:14
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl それから春が五回来て、五回過ぎ去っていきました。少女は『白百合の聖女』の名に相応しい、美しい乙女に成長しました。彼女の無邪気な眼差しは、夏の日差しのように人々の胸を熱くし、腰まで伸びた黒髪は、秋の実りのように人々の心を豊かにしました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 10:14:26
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl その年の夏は雨が一滴も降らず、作物が枯れてしまい、村中の者たちはひもじい思いをしていました。『白百合の聖女』である彼女は祈りました。朝も昼も夜も、一日中祈りました。しかし、祈りは天には届かず、今日も雲ひとつない青空が広がっていました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 10:42:17
お菊 @sara_yashiki

@tos 彼女も村の者たちも疲れていました。彼女はある日、地下室にいる魔女の事を思い出しました。地下室のドアに耳をつけると、中から鈴の音のように澄んだ笑い声が聞こえました。彼女が鍵を開けてドアを開くと、笑い声は止まり、すえた臭いが流れてきました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 23:50:13
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 魔女は五年前と変わらず、薄闇の中でジッとしていました。しかし、乙女は変化に気づきました。魔女は鏡を頬に押し付けて、微笑んでいたのです。乙女は魔女の首に縄をかけ、村の広場へと引きずり出しました。そして、叫びました。「魔女を殺せ!」と。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 11:13:41
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「悪い魔女を殺せ!」聖女の周りに人々が集い、狂ったように叫びました。村人たちは魔女を焼き殺そうとしました。けれども、魔女は死にません。茨が炎を遮るので、魔女には火が届きません。首を斬ろうとすると、茨が硬くて斧の刃が欠けてしまいます。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 11:59:05
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 水に沈めても、囲んで石を投げつけても、魔女は死にません。それどころか、うめき声一つ上げませんでした。首吊りにしようとしたら、茨の棘で縄が切れ、魔女は地面に落ちてしまいました。そして、むくりと立ち上がり、何も言わずに歩いていきました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 16:20:28
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 聖女は魔女を捕まえようとしました。その時、誰かが叫びました。「『茨の魔女』が出ていくぞ!」村中の者たちも口々に叫びはじめました。「悪者はいなくなる!」「災難は去った!」村人たちは肩を抱き合い大喜びです。聖女は魔女を追うのをやめました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 16:37:55
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 魔女は村から出ていきました。村人たちは平和な暮らしが戻ると信じていましたが、相変わらず雨は降りません。聖女は今日も祈りました。しかし、心の中は『茨の魔女』という言葉で一杯でした。その年の冬、死の疫病が村を襲い、村は滅んでしまいました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 17:04:52
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 乙女は疫病に掛かることなく、生き残りました。彼女を『白百合の聖女』と呼び、愛し崇める人々はもういません。彼女の役目は終わりました。もう祈る必要はありません。彼女は聖堂であった場所を離れ、旅に出ました。それは『茨の魔女』を探す旅でした。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 17:32:09
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 村を出てから、二回目の冬が訪れました。乙女はある場所にたどり着きました。そこは、捨て去られた王国の、忘れ去られたお城でした。お城は『茨の魔女』と同じように、茨で覆われていました。乙女は剣を振るい、茨を切り裂いて、城の中へと進みました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 17:33:06
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 鋭い茨の棘は、乙女の白い肌を赤く傷つけます。それでも乙女は構わずに、城の奥へと進みました。しかし、魔女はどこにもいません。気持ちがくじけそうになった時、乙女はベッドに横たわる少年を見つけました。美しい亜麻色の髪。彼は王子さまでした。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 17:41:57
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl かっては『茨の魔法使い』と恐れられ、愛する妹のために命を投げ出した王子さまは、茨のお城の最奥で深い眠りについていました。乙女は王子さまの横にひざまずき、甘ったるい声で言いました。「彼にキスするわ。私、この人を好きになってしまったの」 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 17:51:03
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 乙女は耳を澄ましました。すると、ビュービューと吹く、風の音だけが聞こえました。「聞いているんでしょ?何とか言ったらどうなの」乙女は王子さまにキスをし、辺りを見回しました。乙女は意地の悪い声で言いました。「じゃあ、これならどうかしら?」 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 17:59:44
お菊 @sara_yashiki

@tos 乙女は鞄からマッチを取り出しました。シュッと擦ると、マッチに赤い炎がともりました。彼女が手を離すと、マッチはベッドの上に落ちて燃え上がり、眠れる王子さまは炎に包まれました。乙女は甲高い声で笑いました。彼女の前に『茨の魔女』が現れたのです。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 23:51:05
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「ごらんなさい、燃えているわ。私が燃やしたのよ。あなたの大切な人なんでしょ?」乙女は笑いながら言いました。けれど、魔女は何も言いません。乙女は怒鳴りました。「ねぇ、泣かないの?怒らないの?叫ばないの?」魔女は、ようやく口を開きました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 18:28:41
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 『茨の魔女』は言いました。「…聞きたいの?呪われた私の声」その声は小さくて、冬の星空のように澄んでいました。乙女の身体は喜びのあまり震え出し、胸の奥が熱くなるのを感じました。かっては『白百合の聖女』と呼ばれた女は、剣を手に取りました。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 19:21:42
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 女は唇を歪めて笑いました。「私、あなたの悲鳴を聞きたいわ」女は剣を構えて、魔女に向かって突進しました。しかし、女の剣は魔女には届きません。女は立ち止まり、口から真っ赤な血を吐き出しました。魔女の茨が伸びて、女の体を貫いていたのです。 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 20:13:33
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl かって『白百合の聖女』と呼ばれた女は、胸を貫かれて血で真っ赤に染まり、かっては『茨の魔法使い』と呼ばれた王子さまは、焼け焦げて真っ黒になりました。『茨の魔女』は二人を眺めていました。そして、ポツリと呟きました。「…ねぇ、あなたなの?」 #白百合の聖女 #日刊調査兵団

2013-11-12 20:28:40