原子力発電所の耐震について(原子力学会誌ATOMOS2月号)

興味深い連続ツイだったので資料用にまとめました。
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Flying Zebra @f_zebra

原子力学会誌ATOMOSの2月号に、原子力発電所の耐震についての興味深い記事が掲載されていたので簡単に紹介しておこう。なお、耐震設計の審査指針は東日本大震災を受けた改訂で重要度分類が従来の4分類からS、B、Cの3分類に変更されている。

2014-01-30 21:42:51
Flying Zebra @f_zebra

地震動が構造物に及ぼす影響のパラメータには、ピークパラメータと積分パラメータの2種類がある。ピークパラメータというのは初通過破壊に対する指標で、瞬間的な最大加速度と考えてよい。積分パラメータというのは、累積疲労破壊に対する指標だ。

2014-01-30 21:44:17
Flying Zebra @f_zebra

地震動による構造物の応答が破壊レベルに達しなくても、長時間継続すると累積値があるレベルに達したところで疲労破壊などが起きる。東日本大震災でも多く見られた吊り天井の落下などは継続時間の長い主要動による破壊の特徴的な例だ。

2014-01-30 21:45:19
Flying Zebra @f_zebra

原子力プラントが設計基準を越える地震動を経験したことは、日本では2005年の宮城県沖地震以来5回あり、計26基の原子炉(いずれもBWR)が経験している。この中で、クラスSに分類される安全関連設備の損傷は報告されておらず、クラスB、C設備の損傷も極めて限定的だ。

2014-01-30 21:46:33
Flying Zebra @f_zebra

小さな地震でも発生しやすい損傷はボルトのせん断破壊や薄肉円筒型タンクの座屈など(いずれもクラスC)で、これらは主に初通過破壊だ。発電能力に影響が出るのはタービンの損傷で、軸方向に大きな力が掛かると軸受けがずれてしまう。これも初通過破壊だ。なお、これらは火力発電でも共通だ。

2014-01-30 21:47:23
Flying Zebra @f_zebra

一方、溶接配管の損傷は累積疲労破壊で、最大加速度よりも振動の継続時間などが重要な要素となる。もっとも、これまで地震に起因する溶接配管の損傷事例は極めて少なく、耐震技術者の間では通常の溶接配管は地震では損傷しないとい考えられているらしい。

2014-01-30 21:50:34
Flying Zebra @f_zebra

2004年にNUPEC/JNESが実施した大型振動台による実規模配管終局強度試験では、壊れやすい条件にした上で地震動波形を5回繰り返して、ようやくエルボ部に貫通亀裂を生じさせることに成功したとのことだ。

2014-01-30 21:52:31
Flying Zebra @f_zebra

この時の4回目加振完了までの標準CAV(米国で用いられている累積絶対速度の指標)を福島第一6号機の原子炉建屋での実測値と比較すれば、10倍以上の耐震余裕があることになる。私もよく知らなかったが、プラントの配管というのは地震ではまず壊れないものらしい。

2014-01-30 21:54:43
Flying Zebra @f_zebra

もちろん、腐食やエロ-ジョンで減肉が進んでいたりサポートの支持間隔が広すぎたり、または基礎が移動して配管に強制変位が加われば破断の可能性はあり、適切な維持管理や基礎の強度担保は必要だ。しかし、実際の地震で原子力プラントの地震動に対する強靱さが証明されていることは重要だ。

2014-01-30 21:57:37
Flying Zebra @f_zebra

日本では、観測された地震動の大きさ(かなり低く設定されている)によって原子炉を自動停止するシステムの設定が義務付けられていて、小さな地震でもすぐに止まる。これは、最初に導入した黒鉛減速ガス冷却炉(東海1号)の制御棒挿入を確実に行うための施策であった。

2014-01-30 22:02:09
Flying Zebra @f_zebra

現在主流の軽水炉では地震時の制御棒挿入性が実証されているため、地震計の信号による原子炉自動停止は不要との考えもあり、米国ほか諸外国の多くでは実施していないそうだ。この背景には地震後の電力供給を重視していることもある。

2014-01-30 22:10:05
Flying Zebra @f_zebra

大地震発生時には、社会的安全性の観点から電力供給は極めて重要となる。発電能力に影響が出るとすればタービン損傷の可能性が高く、その弱点は火力発電でも同様だが、設置条件の厳しさから原子力プラントの方がより大きな地震動に耐えられる可能性が高い。

2014-01-30 22:10:58
Flying Zebra @f_zebra

地震によって原子炉の安全計設備が損傷して過酷事故に至るというハザード(危険)は非常に大きいが、発生頻度(確率)を掛けた「リスク」は必ずしも高くない。原子炉を自動停止させる地震動の設定レベルを必要以上に低くすることには、安全上の合理性はない。

2014-01-30 22:15:23
Flying Zebra @f_zebra

実際には多くのプラントで技術的な根拠もなく、妥当とされる設計基準地震動程度よりもかなり低い値に設定されていてる。必要以上に小さな地震で発電施設が止まれば、社会に大きな混乱と生命の危険をもたらす停電のリスクが増える。安全にとっては、むしろマイナスとなる。

2014-01-30 22:16:37
Flying Zebra @f_zebra

以上、原子力学会誌ATOMSの2月号に掲載された原子力安全推進協会(JANSI)の落合兼寛氏による解説「原子力発電所の耐震性能を知る」より概要を紹介した。原子炉の再稼働を前提とした議論で気に入らない人もいるだろうが、社会にとって「安全」とは何か、今一度考えてみたい。

2014-01-30 22:17:16