小説家、榎田尤利(榎田ユウリ)さんによる重版などの仕組みについて
さて、読者様から「重版の仕組みがよくわかりません。読者のリクエストはどうやったら届くのでしょう」という旨のご質問をいただきました。せっかくの機会なので、ちょっとご説明してみたいと思います。まず、私たちがよく体験する『品切』で本が手に入らない状態。
2014-02-05 09:03:52「近所の本屋さんにない。アマゾンにもない……! なのにどうして出版社は重版とやらをかけないのか!解せぬ!」 こういう場合、実は在庫がないわけではない……というケースが多いです。なんだよう、どこにあるんだよう。それは「市中」にあります。市中在庫というやつです。
2014-02-05 09:07:43で、市中って具体的にどこ? それは全国津々浦々の「どこかの本屋さん」です。出版社の倉庫にはない。だって、本屋さんに送っちゃったから。そしてそれは全部売れたわけではない。そのへんは、POSデータその他でだいたいわかる。つまり、「どこかの書店さんの店頭、あるいはバックヤードにある」
2014-02-05 09:10:14「どこかの本屋さんにあろうと、今欲しい私の前にないなら、それはないも同じ! 重版したらよいであろうが!」とお思い方がおられるかもしれませんが、市中在庫があると、なかなか重版はかかりません。本というのは『書店さんに預けている(委託)』もので、売れなかったら出版社に戻ってくるから。
2014-02-05 09:13:32戻ってくる可能性がまだまだあるのに、重版したら結局は過剰在庫になります。印刷代、倉庫代が嵩み、返品率が上がり、取次会社(本を仲卸する会社)に叱られます。たとえば、私の本の返品率が高くなってきたとします。そうすると、私が次の本を出したとき、取次の仕入れ窓口担当者は、
2014-02-05 09:17:20「あー、榎田尤利ね……このあいだの本、返品率コレですよ? 今回は部数、絞らせてもらいます」 という具合になりかねない! ひい!(涙) というわけで、返品率はその後の本の部数にも大きく影響します。なので、出版社はそう安易に重版はかけられないのですね。
2014-02-05 09:21:23もちろん、ガンガン売れている本はすぐ重版します(笑) たとえば、発売前から重版になるケースもあります。予約が殺到した場合などですね。そういう素敵な本は置いといて(笑)、重版するかどうかビミョーなラインというのは結構あると思います。最近は「品切なら電子にしよう」という選択もあるし。
2014-02-05 09:23:42拙著にも『手に入りにくいけれど、市中在庫はまだある』という本が何冊かあると思います。欲しいのに入手できない読者さまには、大変申し訳ないです。ですが、先日お知らせしたラブトラシリーズのように、ある程度の時間をかけてじわじわと市中在庫も減り、また、読者様のお声が出版社に届き、
2014-02-05 09:27:11ちなみに、『増刷』も重版とほぼ同じ意味です。厳密には違うのですが、最近はいろいろデジタル化していて『版』の感覚が薄くなってきているので……。もともと、印刷物は「木版画」だったわけで、その「版木」から「版」という言葉はきているそうです。つまり重版は「版を重ねる」こと、ですね。
2014-02-05 09:38:27ちなみにその2。『絶版』というのはその「版木」がなくなること。つまり、もう絶対に刷れなくなることで、『品切』とはまた別のものです。業界でよく使われるのは『品切重版未定』という言い回しで、これは「絶版ってわけじゃないし、重版しないって決めたわけでもないけど、いつになるかわからない」
2014-02-05 09:44:42