ツバメ・フライズ・ネオサイタマ#2
- EVO_Hitachi
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(これまでのあらすじ:シロヤギチャン・ユウビン社勤務のヒキャク、オジロ。その日、彼はすべての配送業務を終了させた後、ある特別な仕事を任されていた。はたして、その仕事の内容とは?それは、数日前亡くなった社長の葬儀で明らかとなる!)
2014-04-20 21:05:16*(なお、実況やケジメ案件の発生には #owl_nj をお使い頂くと通常より20%ほど便利という独自調査があります しよう)*
2014-04-20 21:07:18社葬の参列客もまばらとなった頃、オジロはヤギ未亡人に呼び出された。ボンズによる読経の最中も気丈に涙をこらえていた彼女が、葬儀テンプルの空き部屋にオジロがやってきたと見るや、オジロにすがりつき声を上げて泣き出した。 1
2014-04-20 21:09:36「お、奥さん?!」「オジロ=サン! 私、悔しくて……悔しくて……!」((ウワーッ! 奥さんの豊満が!))「お、奥さん落ち着いてください!」喪服の上からでもわかる心地よい圧力に不可抗力で体温が上がるが、オジロはヤギ未亡人を根性で引きはがした。 2
2014-04-20 21:13:23「そりゃあ俺だって悔しいですよ。こんな形で亡くなるなんて」オジロの言葉に未亡人は首を横に振った。「あの二人は殺されたのよ」「殺された?」思わず聞き返す。「殺されたなんて、そんな」「理由ならある」未亡人は充血した瞳でオジロを見つめる。その迫力に、思わずオジロは気圧された。 3
2014-04-20 21:16:55「……実は、カラカミ・ファンドから、ウチを子会社化したいっていう話があったの。それを、あの人はずっと断り続けていた」「カラカミってあの、社長がよくテレビに出てる?」オジロは顧客以外の企業に詳しくない。子会社化についてもよく分からない。オジロの想像力と教養はその程度だった。 4
2014-04-20 21:21:34未亡人は続ける。「実はあの人達は子会社化なんて名ばかりで、ウチの配達記録が欲しいだけだった。ウチの取り扱いデータを、投資……金儲けの材料にするため」オジロに分かるよう言葉を選んでくれた未亡人の説明で、オジロも事態のおかしさが飲み込めた。 5
2014-04-20 21:24:43シロヤギチャンにとって、顧客情報は守るべき大切な秘密だ。誰にどんな郵便や荷物がどのぐらい来るのか、そこから人となりや職業を類推することも難しくない。だからこそ、そうした情報は配達以外には使わない。「個人情報保護、ヨシ!」と、朝ミーティングで全員復唱するぐらいだ。 6
2014-04-20 21:27:12顧客情報を使って金儲けするのは、職業倫理をバイオスモトリのエサにすれば容易いことだ。けれど、ヤギ社長がそんな事を承諾するはずがない。「社長は、それが分かったから断って……?」未亡人はうなずく。 7
2014-04-20 21:30:30「あの夜は、担当者と話をつけてくるって、タイシロをつれていったの。あの子は法学部出だから、契約に法的な問題があるなら、それを指摘してもらうため」そして二人はその帰り道に亡くなった。 8
2014-04-20 21:32:52未亡人は目元を白いハンカチでおさえる。「無理矢理契約が結ばれたとしても告発の準備ができていたの。こんなところで死んだりはしない」「奥さん……」オジロは強く拳を握った。悔しかった。未亡人の話が本当ならば、社長たちは会社を守るために理不尽に殺されたことになる。 9
2014-04-20 21:36:17それに、ヤギ未亡人はオジロの密かな憧れだった。社長への恩と敬意により表に出すことはなかったが、何か間違いが起こってくれたらという夢想をしたことは少なくない。そんなヤギ未亡人がうちひしがれている。 10
2014-04-20 21:38:59「オジロ=サン……!」そんなヤギ未亡人から、再びすがりつかれる。「頼みがあるの。あの人の無念を晴らしてちょうだい!」引き受けなければ一生後悔する。オジロは詳しい話も聞かず、半ば夢心地で即答した。「よ、ヨロコンデー!」 11
2014-04-20 21:42:1112階建てマンションの屋上で、オジロは未亡人から託された物の感触を確かめる。今回の買収について告発しようとした社長が遺していたデータと、不当契約書の電子コピーだ。これを、社長が生前連絡を取っていたジャーナリストの元へ配達すること。それが、オジロのミッションだった。 12
2014-04-20 21:47:50((このミッションが成功すれば、買収の話もつぶれて、奥さんの株も……いや、オジロ。待て。焦るな。『急いだヒキャクがカロウシする』。ミヤモト・マサシも言ってる))まずは確実に仕事をこなすこと。いつもと同じように。ヘイキンテキを保つことだ。 13
2014-04-20 21:49:54オジロはそう己に言い聞かせてマンション屋上から移動を始めた。配達先は、エンガワ・ストリートと隣のブロックの境目にある立体駐車場だ。妨害にあう危険を考え、待ち合わせて受け渡すことにしたのだ。エンガワ・ストリートまでは最短距離を選べば10分もかからないだろう。 15
2014-04-20 21:53:30常人の三倍はあるサイバネ脚力で「おうどん」「全額返金」の看板を跳び渡り、オジロは周囲より一段高い雑居ビルへ着地する。((ノビドメの運河迂回して、タノシイとかチョットの辺りから攻めるか))ルートを考えるオジロに、突如青黒い突風が襲いくる!「イヤーッ!」 16
2014-04-20 21:57:26「グワーッ!」その風からタックルを受け、オジロは屋上出入り口の壁に激突!跳ね返って床に体を打ち付ける!何が起こった?サイバーサングラスには「背部軽傷な」のアラートがポップアップ。うつ伏せに倒れたオジロが顔を上げると、タタミ10枚分ほど先に、一人の男が立っていた。 17
2014-04-20 22:01:45まずその場違いさをオジロはいぶかった。ボディラインに張り付いたラメ生地コスチュームはLEDラインを配し、青から黒に変わるグラデーション。首回りには豪勢な羽根飾り。口元はヴェールのような布で覆われている。大道芸人か、歓楽街の歌劇ゲイマイコか。 18
2014-04-20 22:06:32なんとか立ち上がると、強化肺に空気を送り込み、せき込む。「……誰だ、テメェ」「ドーモ。オジロ=サン。クワドラプルです」LED装束存在が名乗った。オジロの背筋が震えた。本能的な恐怖がオジロを寒からしめたのだ。「ヒキャク。荷物を渡してもらおうか」「ドーモ、オジロ・メグロです」 19
2014-04-20 22:10:45ヤギ未亡人の依頼が漏れたのか。オジロはそう判断した。「あいにく今日の配達は終わったぜ」タフガイじみた態度で応じようとしたオジロだが、「イヤーッ!」クワドラプルと名乗る男の放った何かが彼の左手小指をケジメし、悲鳴を上げて転げ回る。 20
2014-04-20 22:13:52「グワーッ!グワーッ!」オジロのちぎれた小指には、鋭いスリケン状の氷が刺さっていた。((氷……?ナンデ?スリケン?))「小虫が私に逆らうんじゃない。いいか、貴様は、書簡を持っているはずだ。それを寄越すんだ。素直に応じぬなら次は眉間だ」「アイエエエエ……!」 21
2014-04-20 22:17:58