ニチョーム・ウォー……ビギニング #2
ヤモトは祠の扉の閂を外し、開いた。そこには布製アミュレットや鏡、コケシ等がおさめられていた。ヤモトは無数の訪問者が残していった品々に、己のウバステの切っ先を加えた。扉を閉じ、手を叩き、合掌してオジギをした。身元不明の死者を弔うオジゾウの根本の土を堀り、柄側を鞘ごと埋めた。45
2014-04-21 23:21:16それからヤモトはニチョームのことを思った。ニチョームは、よい場所、かけがえのない場所だ。ヤモトを迎え入れてくれた。ヤモトはニチョームをまもるために戦うだろう。恩を返そう。 46
2014-04-21 23:29:34未明。ディクテイターは迎えに来た家紋リムジンに乗り込み、羽毛シートに深々と腰を沈めた。ガスマスクメンポの口元をオープンし、葉巻を咥えると、ヤクザが素早くライターで点火した。「なかなかコシャクなライターじゃねえか」ディクテイターは煙を吐き出す。メタルの表面にフェニックスの紋章。48
2014-04-21 23:43:20「こんな朝も早くからなァー、実際働き者な男だ、俺は」ディクテイターは繰り返し煙を吐き出す。家紋リムジンはしめやかに走りだす。「ン」ディクテイターが白い手袋で手招きすると、オイランがしなだれかかり、スパークリング・オーガニック大吟醸の瓶を差し出した。 49
2014-04-21 23:52:34「お前らンとこはアレか?クローン嫌いのアレか?ブードゥーか、ン?」オイランの胸を揉みながら、ディクテイターはヤクザに問いかけた。「今どきオーガニックヤクザばかりか」「へえ」ヤクザは表情を表に出さず、頷いた。「闇には闇のミーミーが必要てなもんなんで。それがウチのヤクザ・ドーで」50
2014-04-21 23:56:30「アッソ」ディクテイターはオイランが差し出すスシを食べ、その白い指をしゃぶった。「アーン!」オイランが悶えてみせた。ディクテイターはあくびをした。「つまらん世界だ。お前らは気楽だ。サケ、スシ、女。どこまで権力を極めようとな、お前、本質的には畜生と同じよ……ハハッハハハ!」 51
2014-04-22 00:03:24ゴゴウン……家紋リムジンがモジュール隔壁のラインを越えて遠ざかるのを、付近の電波塔の上で屈む影は見ていた。彼女ヤモト・コキは手近のビル屋上へ跳び下りると、眼下の道路に家紋リムジンの背を追いながら、ビルまたビルへと渡って行くのだった。 52
2014-04-22 00:06:47