暗礁艦隊その２

CF型マシニーカhir @hir_CF

「そうそう。リ級の改造が終わったよ」 「そうか。見に行こうか」 よっこいしょと立ち上がる魔法使い提督。 鎮守府では責任を取れる人間が提督しかいない。なので何をするにも秘書艦と提督の立ち会いは必要だ。 #暗礁艦隊

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工廠という名の掘っ建て式ガレージは面積だけは広かった。天井は電気代節約のため透明波板という徹底ぶりである。 隅で妖精さん達が囲む中では、半分バラバラになった深海棲艦のパーツと、一人の艦むすが横たわっている。 「見ない型だな」 「起動させる？解体しちゃう？」 「起動だ」 #暗礁艦隊

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提督の意志を時雨が妖精さん達へ伝える。妖精さんと意志疎通できるのは艦むすだけだ。なので提督には翻訳係として秘書艦が必要になってくる。このコミュニケーション能力も艦むすが強ければ強い方が優れる傾向にある。時雨の練度は150あった。指輪がきらめく。 #暗礁艦隊

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時雨の指示を受け、妖精さんの一隊が艦娘の穴という穴から体内へと入っていく。これより彼らは艦娘の乗組員として文字通り一体化するのだ。妖精さんの集団と艦娘の船体。どちらが欠けても艦娘の自我は生まれない。一説には妖精さん一人が人間の脳細胞数十万個に相当する働きをするという。 #暗礁艦隊

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@ryorinovels @jings_sinki 妖精さんがアナログなんだと思ってます。コンピューターとか扱えないんだ！！

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妖精さんの正体は謎に包まれている。一説には江戸時代、隅田川の工事を手伝った河童は妖精さんだったという。あるいは北海道の地に伝わる小人コロボックルがそうなのだとも。近年の都市伝説で登場する小さなおっさんも妖精さんなのかもしれない。真実は政府ですら把握していないらしい。 #暗礁艦隊

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ギクシャクした動き。やがて落ち着いたのか滑らかになり、瞳を開く。 ここが最も緊張するところだ。うっかり砲が誤作動したら提督はミンチより酷い物体になってしまう。備えるためにも秘書艦がいるのだが。 「はーい！衣笠さんの登場よ。青葉ともども、よろしくね！」 起動は成功だ。 #暗礁艦隊

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深海棲艦の死体は貴重な資源だ。上手く損傷の少ない死体を組み立てれば艦娘の船体が低コストで建造できる（その目的で死体を拾ってくることを提督間のスラングでドロップと言う）し、できた船体は自我を発生させる前に解体して鋼材、油などの消耗品を取れる。捨てるところがない。 #暗礁艦隊

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「ほう青葉型か」 鎮守府には青葉もいる。相部屋でいいか。 重巡にしては低コストなのだが、性能自体は控えめだ。ただし青葉は夜戦がやたら強かった。 「こちらこそよろしく。私がこの鎮守府の提督だ。人は私を魔法使いと呼ぶ」 #暗礁艦隊

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「るんるんるん」 鼻歌交じりに1tくらいありそうな屑鉄の山を積んだリヤカーを引いて歩いている給糧艦娘がいた。彼女の名は間宮。かつて帝国海軍最高の給糧艦と呼ばれた女。 提督業をするならまず彼女を含む三人の支援艦艇娘を建造しなければならない、重要な艦娘である。 #暗礁艦隊

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廃棄物処理場から買い入れてきた屑鉄は妖精さんの手で鋼材へと再生され、鎮守府で用いられる資材となる。いつもならば業者がトラックで運んで来てくれるのだが、今日は深海棲艦上陸騒ぎのため大事を取って間宮が出向いたのだ。普通に歩いているように見えるが時速20㎞以上という高速だ。 #暗礁艦隊

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道路を行き交う車はなく寂しい限り。日はまだ高いが、早く帰りたいところだ。 「─？」 ふと違和感。間宮は原型艦同様逆探を装備しているが、なにやら不自然な電波が。スマホや携帯とは違う。旧式のアナログ機器のようなこれは─ 結論は向こうから来た。 #暗礁艦隊

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轟音。爆発。 まるで5インチ砲が撃ち込まれたかのようにリヤカーが粉砕される。もったいない。 咄嗟に伏せた間宮の頭上を飛び越した砲弾の仕業だ。間宮は全周波数で救難信号を発信しつつ艤装を展開。武装は14㎝単装砲二門だけだ。 #暗礁艦隊

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間宮は砲弾の来た方向を確認する。─いた。藪の中に大きな口を開いた醜悪な化け物が。サイズは虎程度。深海棲艦の駆逐艦だ。 ずささささ 二匹。三匹。四、五、六匹。一個艦隊。最悪。 #暗礁艦隊

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緊急救助要請を受け、市街地をMTBでパトロール中だった軽巡娘達は即座に郊外へと移動を開始した。鎮守府が艦娘への福利厚生の一環として一括購入した自転車は時速50㎞をマーク。艤装を展開していない状況限定だが非常に優秀な移動手段だ。 #暗礁艦隊

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「あーもう！なんでキコキコ自転車漕いでんのよ私たち！面倒ね！？」 キレる五十鈴。 何故皆自転車で移動しているのかといえば、鎮守府の艦娘は建造一年未満の者ばかり。原付免許でも要15歳なので誰も免許が取れず、自動車を運転出来ないのだ。自前の機関を使うと体重で道が壊れる。 #暗礁艦隊

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「そ、そんなこと言われても…ふぇぇ」 と、名取。彼女を始め皆Tシャツとハーフパンツという軽装だ。 「こら五十鈴！名取をいじめないの！」 叫ぶ長良。風でめくれたシャツの下から見える、鍛え上げられた腹筋が美しい。彼女はこの腹筋が戦艦の砲弾も弾き返すと信じている。ほんとか。 #暗礁艦隊

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爆発音。日頃聞き慣れた五インチ砲の音だ。近い。 長良達は自転車を乗り捨てると艤装展開。緩やかな坂になっている間道を駆け上がる。 頭上が開けている限り地形は艦娘の視界を遮らない。向こう側を見て取った長良は身振りで妹たちを散開させると自らは直進。坂を登りきる。 #暗礁艦隊

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その瞬間、五インチ砲弾が長良に殺到した。こちらに見えるなら深海棲艦にも見える理屈だ。彼女はあえて全身で砲弾を受けた。限界まで近代化改修された彼女の肉体、否、鋼の体は砲弾を苦もなく弾き返す。反撃とばかりに手にした小銃型主砲と全身の14㎝単装砲が火を噴いた。 #暗礁艦隊

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足を止めての零距離射撃。外す余地はない。長良へ砲撃していた駆逐イ級が粉々になる。 即座に第二目標を全砲塔へ指示。全身の単装砲の連射速度は分十発。妖精さんが額に汗して人力装填してくれる賜物だ。これだけは換装している小銃型の15.5㎝三連装砲の再装填を待たず、「撃てー！」 #暗礁艦隊

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駆逐イ級に囲まれた間宮がまず考えたのは時間を稼ぐことだった。訓練でしか扱った事のない主砲を足下へ向ける。 発砲。 砕け散ったアスファルトの破片は数十メートルにわたり飛び散った。混乱に陥った深海棲艦どもはデタラメに発砲する。それを、伏せた間宮は耐えしのいだ。 #暗礁艦隊

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砲撃が一通り止むと同時に艤装を格納してダッシュ。海の上でそんな事をすれば沈んでしまうがここは陸上。艤装を格納している間の間宮の体重はせいぜい二百㎏。普通に走れるレベルだ。 後を追う駆逐イ級。 カチッ 轟音。 爆弾を踏んだ駆逐イ級は何をする隙もなく即死した。 #暗礁艦隊

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間宮が補給できるのは生鮮食料品だけではない。多少なら弾薬も可能だ。航空爆弾を持っていたのが役立った。この隙に逃げられるだけ逃げなければならない。脇にある貸し農園へ飛び込む間宮。耕された軟弱地盤の上をなんとか走る。だが駆逐イ級はそうはいかない。武装したままでは重すぎる。 #暗礁艦隊

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時々足を取られながら走る間宮の肩に砲弾が命中。しかし原型艦の基準排水量15820tは伊達ではない。砲弾は貫通するものの腕はちぎれ飛ぶような事はなく、しっかり繋がっていた。代わりに傷口から羊羹や最中、アイスクリームが飛び散る。体中で製造中のお菓子。シュールだ。 #暗礁艦隊

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命中弾を何発も受けつつも丘陵を越えた間宮を駆逐イ級は追いかける。近すぎて曲射出来ない。そしてちょうど丘を登りきったところで 「う、撃ってー！」 背後から撃ち込まれた14㎝砲弾四発、15.5㎝砲弾三発により粉々になった。 #暗礁艦隊