『ザ・スウィル・オブ・ザ・ゴッズ』#1

南の孤島を舞台に繰り広げられる艦娘冒険活劇というかB級映画というか。 その始動編 第二話 http://togetter.com/li/677570 第三話 http://togetter.com/li/687755
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シャル819 @char819

(これから流すのは、艦これ二次創作SSでございます。適当に生暖かく見守っていただくなりスルーするなりしてければと思います。感想などもらえると飛んで喜びます。タグはないので、リプなりエアリプなり http://t.co/2zNmCPvNh4 なりをお使いください)

2014-05-04 21:37:35
シャル819 @char819

【ザ・スウィル・オブ・ザ・ゴッズ】#1

2014-05-04 21:39:41
シャル819 @char819

「提督殿。一つ、陸軍から相談したいことを預かっているのでありますが……」その不可思議な任務は、陸軍揚陸艦の艦娘であるあきつ丸の言葉から始まった―――― 1

2014-05-04 21:38:22
シャル819 @char819

南方地域にある名もなき島。便宜上、作戦ではその島をA島と呼んでいた。地球とは似て非なるこの世界において、A島がどのように誕生し、どういった場所であり、どんな役割を果たしているのかは誰にもわからない。提督や、新たな生と記憶を与えられた艦娘たちとて、世界の全てを知るわけではない。 2

2014-05-04 21:42:11
シャル819 @char819

わかるのは、その島にはなにか秘密があるということ。そして、それを解き明かすことこそが重要な任務だということ。陸軍から与えられた情報は限定的で、それだけではなにもわからない。しかし、そこまでして手に入れたい情報が、守りたい秘密が、その島にはあるのだろう。重大な秘密が。 3

2014-05-04 21:44:50
シャル819 @char819

提督は悩んだ末、陸軍からのその任務を受諾することにした。彼らに恩を売り、さらにあわよくば弱みを握ることは、今後役に立つはず。そう考えたのだ。この任務において陸軍から提示された条件は実に簡単なものだった。その任務の遂行にあたり、A島へある艦娘を同行させること。それだけだった。 4

2014-05-04 21:47:20
シャル819 @char819

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2014-05-04 21:47:42
シャル819 @char819

「以上で、今回の任務の説明は終わりだ。なにか質問は?」提督から説明のあったその遠征任務は、あまりにも特殊なものだった。内容はある島の調査探索と、そこにある陸軍施設の情報の回収。それを聞いたとき、吹雪は自分がなにをするのかを想像してみたが、いまひとつ具体的な形が浮かばなかった。 6

2014-05-04 21:49:24
シャル819 @char819

「こうやって揃って任務に出るのも久しぶりだなー」「本当ですね」「……がんばる」今回の任務にあたって集められたのは吹雪の他に、彼女もよく知っている同型艦の白雪、初雪、深雪の駆逐艦三隻と、旗艦を務める軽巡洋艦の天龍。そしてそこにもう一隻、特殊な艦が加わることになっていた。 7

2014-05-04 21:51:46
シャル819 @char819

その艦娘の名はあきつ丸。陸軍所属の揚陸艦で、最近になって陸軍から派遣されてきた新参の艦娘である。なんとかして鎮守府の雰囲気に馴染もうとする努力家で、その生真面目かつ純粋な性格も相成って他の艦娘たちもある程度心を許しつつあった。そんなあきつ丸が、今回の任務に同行するのだという。 8

2014-05-04 21:54:09
シャル819 @char819

陸軍施設の調査という内容やあきつ丸が加わっていることからもわかるように、この任務はそもそも陸軍からの要望であるらしい。本来は陸軍内部で片付けるべき問題なのだが、島の調査という性質上彼らだけではどうにもできず、強力な海上戦力である艦娘を擁する海軍へと泣きついてきたのだという。 9

2014-05-04 21:56:35
シャル819 @char819

「久々の大仕事だからな。オレも腕が鳴るぜ」天龍のその言葉には、どこか喜びに似た感情が込められている。それも仕方あるまい。天龍にしても今回集められた吹雪たち特型駆逐艦の面々にしても、既に第一線からは外されており、今ではたまに遠征任務に従事する程度の日々を過ごしていたのである。 10

2014-05-04 21:58:51
シャル819 @char819

しかし今回の任務は、これまでの護衛や演習とはまったく意味合いが異なる。なにしろ調査と探索だ。実戦といかずとも、単調で退屈な作業ではないだろう。だが、吹雪の中でなにかが引っかかっている。「考えてみると、ちょっと奇妙な話ですね」それを形にできないまま、ぼんやりとそう口にした。 11

2014-05-04 22:01:10
シャル819 @char819

「なにがだ?」「調査というのは、なにか私達の役割の範疇を越えている気もします」「その点については、自分が代わってら謝罪させていただくのであります」吹雪の言葉を聞いて、隅で待機していたあきつ丸が大きく頭を下げた。「本来なら陸軍内部の問題なのですが、現状そうもいかないもので」 12

2014-05-04 22:03:31
シャル819 @char819

「深海棲艦、ですか……」「はい、陸軍ではほとんど奴らに太刀打ちできるすべもなく、A島にたどり着くことさえできない、のであります。自分も力不足でありますし……」あきつ丸の言葉に一同も真剣な表情となる。深海棲艦。それこそがこの世界の最大の問題点であり、艦娘が戦う理由でもあった。 13

2014-05-04 22:05:54
シャル819 @char819

その神出鬼没な海の怪物によって、世界を相手に戦争をしていた時以上に制海権と制空権は崩壊し、いまや艦娘の力無くしては、まともな航海など不可能となっているのだ。だからこそ、海上輸送の護衛も艦娘たちの重要な任務なのである。そして今回は、その護衛対象もまた艦娘ということだった。 14

2014-05-04 22:08:16
シャル819 @char819

とはいえ、今回の任務において、あきつ丸は調査官にして護衛対象でありつつも、実際には海軍に対する監視役ということなのだろう。多くは語らないが、島に残された陸軍の情報の隠蔽なども請け負っていると考えられる。「それで、オレらを利用しようって腹なわけか?」天龍から鋭い言葉が飛ぶ。 15

2014-05-04 22:10:37
シャル819 @char819

「そう取ってもらってもかまわない、のであります」それに対してあきつ丸は、天龍の言葉を否定もせず、静かにそう告げるだけである。その瞳と口調には天龍に対する反発の色さえなく、ただ任務への強い決意のみがにじみ出ており、あきつ丸という艦娘の特異性を示しているかのようであった。 16

2014-05-04 22:13:08
シャル819 @char819

彼女の芯にあるのは、なによりも任務を優先させるという軍人の精神だ。そのためならおそらくどこまでも非情にもなれるし、容易に人間性も捨てられる。少なくとも、そういう風な訓練を受けてきたはずである。比較的自由に過ごしている従来の艦娘たちとは違う、強い使命感を持った目をしている。 17

2014-05-04 22:15:24
シャル819 @char819

「なるほどな……、ま、オレは暴れられればそれでいいさ」そん態度を隠しもしないあきつ丸に、天龍は諦めの表情を浮かべつつそう言って首を振った。「だからお前が好きにするのもかまわねえよ。だがな……」そう口にして、再び表情が真剣なものに戻り、その右目が眼光鋭く陸軍の艦娘を射抜く。 18

2014-05-04 22:17:53
シャル819 @char819

「これだけは覚えておけよ。……オレらの邪魔をするようなら、その時は容赦しねえ」「肝に銘じておく、のであります」天龍の刺すような視線にも一切動じることなく、あきつ丸はただ静かにそう答える。こうして、その奇妙な任務は幕を開けることになったのである。 19

2014-05-04 22:20:04
シャル819 @char819

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2014-05-04 22:20:18
シャル819 @char819

そして艦隊は、あきつ丸の先導の元、南方のA島を目指していた。出発前にはどこかギスギスした空気こそあったものの、幾度かの深海棲艦との戦闘もあり、とりあえず今は協力関係といえる程度には修繕されている。少なくとも、吹雪から見ればあきつ丸は謙虚で物静かな艦娘にしか思えなかった。 21

2014-05-04 22:22:35
シャル819 @char819

そしていつしか深海棲艦も現れなくなり、艦隊はただ海を進む。「静かな海ね」最後方の警戒をしている白雪がそう漏らす。「敵も見当たらないしなぁ」深雪もそれを受けて、おどけて大げさに周囲を見渡してみせる。そこは波一つない穏やかな海。まるで自分たち以外存在しないかのように錯覚する。 22

2014-05-04 22:24:50
シャル819 @char819

「でも、少し静かすぎる気がする……」吹雪のそのひとりごとは、強い警戒心の現われであった。そもそも深海棲艦がいるからこその護衛なのだ。だがこの海域に入ってからというもの、まるで世界が止まってしまったかのようにその気配を感じない。天龍もなにか思うところがあるのか黙ったままだ。 23

2014-05-04 22:27:08