『ザ・スウィル・オブ・ザ・ゴッズ』#2

南の孤島を舞台に繰り広げられる艦娘冒険活劇というかB級映画というか。 その接触編 第一話 http://togetter.com/li/662967 第三話 http://togetter.com/li/687755
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シャル819 @char819

(これから流すのは艦これ二次創作SS togetter.com/li/662967 の続きです。適当に生暖かく見守っていたりスルーするなりしてければと思います。感想などもらえると飛んで喜びます。タグは #cr819_ss を用意しましたので適当にご利用ください)

2014-06-08 13:00:13
シャル819 @char819

『ザ・スウィル・オブ・ザ・ゴッズ』#1 - togetter.com/li/662967

2014-06-08 14:31:22
シャル819 @char819

【ザ・スウィル・オブ・ザ・ゴッズ】#2

2014-06-08 13:00:49
シャル819 @char819

ジャングルの調査を始めると、海岸線を見渡せるすぐの場所に、巧妙に隠されたトーチカを発見することができた。しかし周囲に相変わらず音もなく、トーチカもまた、無音を保ったままである。「どうやら、人の気配はなさそうか……」その様子を遠巻きに観察しながら天龍がそうつぶやく。 1

2014-06-08 13:01:10
シャル819 @char819

「誰かがいるとしたら、おそらく既に私達の姿を見た時点で動いているはずです」白雪の言葉に、天龍も確認するかのように頷いた。「よし、なら突入するぜ!深雪はオレに続け、初雪は外の見張り、他の奴らは入口から援護を頼む」それだけ言って天龍は扉を叩き開け、刀を構えて中へと飛び込んでいく。 2

2014-06-08 13:02:54
シャル819 @char819

しかし、やはり内部はもぬけの殻だ。「なーんだ、もう去ったあとか」「でも、先ほどまで人のいたような気配もあります。敵の襲撃でもあったのでしょうか?」「いや、それにしては戦闘の形跡はないな」だが、あまり広いとはいえないトーチカだが、丈夫ではあるし、理由もなく放棄するとは思えない。 3

2014-06-08 13:04:49
シャル819 @char819

「あっ、ここに何かあります!」吹雪が指摘したのは作戦机の裏側。そこにはいくつかの暗号文が残されていた。「読めるか?」「大丈夫、であります」天龍が視線を向けると、あきつ丸は小さくうなずき、静かにその内容を読み上げ始める。『【作戦】は第一段階の終了を確認。これより第二段階に入る』 4

2014-06-08 13:06:38
シャル819 @char819

「作戦?作戦ってなんだ?」「自分にもわからない、のであります」「わからないって、お前。そもそもこの調査の目的は……」「ヒイイィィ!」天龍はさらに追求しようとしたが、その後に続くはずだった言葉は、外で見張りをしていた初雪の悲鳴と、それに続く砲声によってかき消された。 5

2014-06-08 13:08:30
シャル819 @char819

「初雪!何事よ!」飛び出した吹雪たちの前に飛び込んできたのは、腰が抜けたかのように座り込む初雪と、彼女の砲撃によってできたと思われる地面の小さな穴だった。「なんか……いた」「敵か!?」深雪がすぐさま砲を構え警戒態勢をとるが、初雪は座ったまま首を横に振った。「……たぶん、違う」 6

2014-06-08 13:10:21
シャル819 @char819

それぞれ緊張した面持ちで鬱蒼と茂る木々を睨む。「あれ、でしょうか?」最初に口を開いたのは白雪だ。彼女が指差す先に目を凝らすと、雑多な植物の青緑の中に、より際立った奇妙な青黒緑の存在がある。歪で、世界との調和を捨てたかのような混色。吹雪も目を凝らし、その正体を確認しようとする。 7

2014-06-08 13:12:05
シャル819 @char819

それは、人間の腕ほどの大きさのトカゲだった。ヌメりとざらつきの混在する表面と、無機質な輝きを放つ瞳。確かにそれはトカゲではあったが、その大きさも色合いも、吹雪たちの常識からは考えられないものだ。トカゲの方もこちらに気がついたらしく、観察する間もなくすぐに物陰へと消えていった。 8

2014-06-08 13:13:47
シャル819 @char819

「デ、デカかったなあ……」誰もが思っていたことを深雪が臆面もなく口にする。「ようやく島の動物に遭遇できましたね」「そうだったか?」吹雪の言葉に対し、天龍も他の駆逐艦たちも特に気にするようなことはない。だがただ一人、あきつ丸だけは冷徹な視線でそのトカゲのいた場所を見つめていた。 9

2014-06-08 13:15:29
シャル819 @char819

「あの、あきつ丸さん?」吹雪がそっと声をかけると、あきつ丸は飛び上がるかのように驚き、吹雪の顔を見た。「な、なんでしょうか、吹雪殿」「いえ、やけに真剣にトカゲを見ていたので」吹雪の言葉に、あきつ丸は小さくかぶりを振った。「……自分も、あれほどの大きさとは思わなかったもので」 10

2014-06-08 13:16:35
シャル819 @char819

そう語るあきつ丸の言葉と態度は明らかに不自然だったが、吹雪はそれ以上追求する言葉を持っていなかった。「いずれにしても、もう少し調査を進める必要があるな。ほら、立てるか?」天龍は座ったままの初雪を引き起こし、森の奥を見据える。「【作戦】とやらも気になるし、調査を進めないとな」 11

2014-06-08 13:18:20
シャル819 @char819

その言葉の後、天龍がちらりとあきつ丸を見ると、その陸軍の艦娘はゆっくりと頷いた。「もしかしたら他の場所にも、先ほどの【作戦】について情報が残っているかもしれない、のであります」そう語るあきつ丸に対し、天龍はそれ以上何も言わなかったが、吹雪は、いまだ違和感を拭えずにいた。 12

2014-06-08 13:20:01
シャル819 @char819

あの時トカゲを見ていたあきつ丸の眼には、明らかになにかしらの意図を秘められていた。それは驚きや好奇心ではない、もっと明確な意識の元でトカゲを見つめていたように思えるのだ。だが、吹雪にはそこにあったものが何だったのかはわからない。それこそが、あきつ丸の調査の目的なのだろうか。 13

2014-06-08 13:21:42
シャル819 @char819

そんなことを考えながらも、吹雪は天龍の後についてジャングルの奥地へと進んでいく。あきつ丸が見ていたものを自分も見出そうと、吹雪は先ほどの光景をずっと思い出している。ジャングルの中の巨大なトカゲ。青と黒と緑の混ざった奇怪な模様。他の動物の姿はなし。ならばあのトカゲの正体は? 14

2014-06-08 13:23:25
シャル819 @char819

一行はトーチカから森へと伸びる電話線をたどりながら、さらに奥へ奥へと進む。鬱蒼と茂る足元の草は、一見するとまったく道もわからないような場所ではあるが、電話線沿いには明らかに人の踏み鳴らしたような跡があり、この場所には元々、それなりに人の行き来があったことを示していた。 15

2014-06-08 13:25:04
シャル819 @char819

「しっかし、足がチクチクするなー。早くどこかで休みたいぜ」脚に当たる草の感覚に、深雪が愚痴をこぼす。長くないスカートであるし当然の感想だろう。しかし、艦娘は外見こそ人間の少女と同等だが、その存在は異質である。雑草程度で傷がつくこともないし、雑菌などから病気になることもない。 16

2014-06-08 13:26:47
シャル819 @char819

その存在はいわば、妖精、もしくは艦の付喪神的な妖怪の一種であるとされ、多くの特殊な神秘と技術によってこの世界に顕現しているのだという。もっとも、本人たちにその自覚があるかといえばまったくなく、普通に日々を過ごし、戦い、眠り、食事をして、様々な感情と共に生きているだけだ。 17

2014-06-08 13:28:29
シャル819 @char819

「安心しろ、どうやらひとまずゴールみたいだぜ」深雪の愚痴を宥めるように、先頭を進んでいた天龍からそんな声が上がった。ジャングルの先に、わずかだが人工物らしきものが見えている「くぅ~、やっとかー!さあ急ごうぜ!」深雪のいかにも嬉しそうな叫びと共に、一行の足取りも軽やかになる。 18

2014-06-08 13:30:12
シャル819 @char819

たどり着いた先にあったのは、よく整えられた、拠点足りうる宿営地だった。しかし、そこにもやはり人の気配はない。「食いかけで放置された皿に、いかにも作業途中の机。奇襲でもあったか?いや、それにしては死体や血痕は見当たらねえし、武器も放り出されてる。いったいなにがあった……」 19

2014-06-08 13:31:51
シャル819 @char819

「まるで突然、ここにいた人が消えてしまったような感じですね……」確かに白雪の言うように、この宿営地の状況はそう考えるのがもっとも自然だ。海岸沿いのトーチカに比べても、より人がいた気配を感じさせるのがなにか嫌な予感をかき立てる。なぜ人々は消えたのか。そしてどこへ消えたのか。 20

2014-06-08 13:33:33
シャル819 @char819

そしてなにより吹雪の心に引っかかるのは、あの【作戦】についてだ。第一段階の終了と宿営地のこの状況は、何か関係があるのだろうか。どこまでが予定通りで、どこまでが想定外なのか。それに答える者はいない。ちらりとあきつ丸を覗き見るが、感情に乏しいその表情からは何も読み取れない。 21

2014-06-08 13:35:15
シャル819 @char819

「とりあえず、オレらの活動もひとまずここを拠点にしよう。日も暮れつつあるからな。今日は大がかりな調査はここまでにしておくか」天龍の言葉に、各人から大きな安堵の息が漏れる。「まったく、歩くのはしんどいぜ」深雪にいたってはそう言ったかと思うと、早速その場へ座り込んでいる。 22

2014-06-08 13:36:57