カシマレイコは赦さない【第一章(三)】

コクドー(黒道P)@mpblacklordの小説用アカウント@mpb_karateで連載している小説、「カシマレイコは赦さない」のまとめ。 感想はハッシュタグ#mpbkrt、もしくは@mpb_karateへ。 最初「【カシマレイコは赦さない】序」http://togetter.com/li/660683 次「カシマレイコは赦さない【第一章(二)】」 http://togetter.com/li/663036 入口 http://togetter.com/li/668298
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テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

【『カシマレイコは赦さない』一(三)】

2014-05-16 21:59:22
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

(これまでのあらすじ:高校一年生のトシは、オカルト研究部に所属している。ある日家に帰る途中、彼は奇妙な人影を見た。人間の女性に見えるが、それにしてはあまりにも不気味な目。彼はなるべくそれについて考えないようにしながら、最近越してきたばかりの家に帰った)

2014-05-16 22:00:27
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

(続き:家では母親が腰を痛めていた。呆れながらも彼女をベッドへ連れて行き、自身も着替えてひと息つこうとしたトシ。ところが服を脱いでいる途中気付いたのだ、ベッドの中に、何か恐ろしい存在が潜んでいることに)

2014-05-16 22:02:32
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

(続き:布団をめくったトシ。そこにいたのは、先程見た、あの不気味な目の女。口から血を流しながら、彼女はゆっくりと起き上ると、腰を抜かして動けなくなったトシにこう言ったのである。「トシ。会いたかったよ」と……!)

2014-05-16 22:04:24
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

会いたかった?僕に?彼女の放った言葉の意味が、僕には分からなかった。当然だ、僕はつい数十分前まで、こんなものがこの世に存在することすら知らなかった。ストーカーか何か?いや、そんな常識の範囲に存在するものじゃない。いくら異常者でも、人間を相手に、僕はここまで怯えられない。 1

2014-05-16 22:06:05
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

彼女は首をひねりながら、ベッドからずるりと這い出して、両腕で床に着地した。彼女の体は僕よりかなり大きい。身長にして百八十近いだろう。獲物を喰い散らかした後みたいな口の周りも相まって、彼女はさながら死肉を食む獣。僕はそれに狙われ、ただ震えることしかできない草食動物だ。 2

2014-05-16 22:07:47
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

彼女の右腕が、僕の太腿に伸びた。僕は小さく悲鳴を上げた。冷たい。その手には人間的な温度はおよそ感じられなかった。それどころか、彼女の肌にあったのは、僕の魂を直接吸い上げるような冷たさ。続いて、左腕が僕の肩へ。太腿を触っていた右腕も、続くようにもう片方の肩へ。 3

2014-05-16 22:11:31
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

僕は、彼女に抱きしめられる格好になった。裸の彼女と、着替え途中で下着姿だった僕の肌は、多くの部分が接触している。その触れている部分全体から、僕は体温を奪われているのだ。彼女は赤い口を僕の耳に思いっきり近付け、そして心のざわつく声で囁いた。「待ってた、こうできるの、ずぅっと」 4

2014-05-16 22:14:10
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

何をする気なんだ?『こう』って何だ?僕の思考は最早停止しているにも等しかった。スペックの低いパソコンに負荷を掛けすぎたみたいに、もう何も分からない。彼女の顔が僕のすぐ目の前にある。そして近付く。近付く。近付く。やがてその距離は限りなくゼロに近付いて――。 5

2014-05-16 22:19:13
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

張りつめた雰囲気を切り裂くようなその音によって、僕は一気に冷静さを取り戻した。何だこの音。そうか、僕のケータイのバイブレーションだ。制服を脱ぐ時にポケットから取り出して、そこに置いたんだ。彼女は音のする方向を見た。これはひょっとして、チャンスなんじゃないか。 7

2014-05-16 22:24:46
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

彼女はそう長く向こうを見てはいないだろう。この得体の知れないものから逃げられるとしたら、まさに今しかない。僕はこの一瞬に全てを賭けた。全身全霊の力を込めて、僕は彼女の肩のあたりをドンと押した。不意を突かれた彼女は少し後ろに突き飛ばされる。僕と彼女の間に、距離が生まれた! 8

2014-05-16 22:27:04
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

……そう、距離が生まれた。そのはずだ。だけど、どうしてだろう。 9

2014-05-16 22:27:55
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

どうしてまだ、抱きしめられている感覚が残っているんだろう。 10

2014-05-16 22:29:24
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

ぽかんとした顔で尻餅をついている彼女。その腕が本来あるべき場所には、今何も無い。あるのは、赤黒い噴水。では、本来あるべきものはどこにあるのだろう?答えはすぐ側にある。僕の首の周りに。タオルをかけるようにぶら下がっている、長くて細い、白くて赤い、彼女の両腕! 11

2014-05-16 22:31:24
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

僕は、彼女に出会ってから初めて、叫び声を上げた。いや、こんな叫び声を上げたのは、生まれて初めてだったかもしれない。彼女の目から涙が零れているのが見える。赤い涙が。口元も赤い。床もベッドも赤い。僕も赤い。ああ、赤、赤、赤!僕の意識を、真っ赤が侵蝕していく! 12

2014-05-16 22:34:11
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉあああああああぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアアッ!」 13

2014-05-16 22:35:12
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

僕は目を覚ました。暗くてあったかい。どこだここ、僕に覆いかぶさってるこれは何だ。この感触は布団か。とすると、ここはベッドの中だ。なんだ、僕は寝ていたのか。何かとてもおぞましい夢を見ていた気がする。もう朝だろうか、時間が分からない。ケータイはどこだろう。僕は布団をめくった。 15

2014-05-16 22:41:36
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

うん、どうやらまだ朝じゃないみたいだ。部屋は真っ暗。時間は……あれ、ケータイはどこだ。普段なら寝る前に枕元で充電を始めているはずだ。机の上とかだろうか。部屋の明かりをつける。やっぱり無い。制服のポケットの中とか?僕は立ち上がって確認してみた。それでも無い。変だな。 16

2014-05-16 22:46:10
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

そんなことより、すごくお腹が空いている。ひょっとして夕飯も食べずに寝たんだろうか。あれ、夕飯?そうだ、お母さんがギックリ腰になったんだっけ?僕が夕飯の出前を頼まなきゃいけないんだったかな?いや、それは夢の話か?どうも記憶がごちゃごちゃしている。 17

2014-05-16 22:49:19
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

そもそも僕は、なんでパジャマを着ているんだろう。家に帰ったら即パジャマに着替えるという習慣は僕に無い。よほど疲れていて、帰ると同時に就寝してしまったのだろうか。わざわざパジャマに着替えて?うーん、まあいいや。僕は部屋から出た。冷蔵庫の中身を何か適当に食べよう。 18

2014-05-16 22:54:39
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

廊下に出ると、一階の電気がついているのが分かった。それに何やら話し声もする。母さんの声みたいだけど、話している相手の声は聞こえない。電話でもしてるのかな。声の調子から察するに、相当盛り上がってるみたいだ。なんだ、元気じゃないか。僕は階段を降りた。 19

2014-05-16 22:57:57
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「――で、結局ダーリンがこの町を気に入っちゃって、ここに引っ越そうってなったわけ。まあ、その気に入った張本人は今全国ツアーで九州にいるんだけど。お陰で寂しくて欲求不満よ」 一階の廊下に立つと、母さんの声がよく聴こえるようになった。どうやら父さんの話をしているらしい。 20

2014-05-16 23:03:53
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「あーあ、疼くわぁー。もう若いコ家に連れ込んで不倫しちゃおっかな」またそんなこと言って。母さんが父さんの愚痴を言う時はこれで締めるのが定番だ。どうせ家に帰ってくれば父さんにベッタリなんだから、そんなことできるはずない。僕は小さく笑いながら、リビングのドアを開けた。 21

2014-05-16 23:07:21
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