カシマレイコは赦さない【第一章(二)】

コクドー(黒道P)@mpblacklordの小説用アカウント@mpb_karateで連載している小説、「カシマレイコは赦さない」のまとめ。 感想はハッシュタグ#mpbkrt、もしくは@mpb_karateへ。 最初「【カシマレイコは赦さない】序」http://togetter.com/li/660683 前「【カシマレイコは赦さない】一(一)」http://togetter.com/li/660684 次「【カシマレイコは赦さない】一(三)」http://togetter.com/li/668290 続きを読む
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テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

【『カシマレイコは赦さない』一(二)】

2014-05-05 00:34:05
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

(ここまでのあらすじ:ちびかわトシぴーことトシは、赤牟田高校の一年生が集まって作った部活『オカルト研究部』に所属する男の子。そんな彼は、部長・清水タカコより、高校に伝わる十三不思議に関する調査およびその発表を命じられてしまう)

2014-05-05 00:39:17
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

(続き:発表内容に困りながら、オカ研の友人・タイゾーと共に帰宅するトシ。彼が人気のない帰り道で目撃したのは、宇宙的恐怖を湛えた瞳を持つ、奇妙な女性のシルエットだった。気付いた時には消えていた彼女について、なるべく考えないようにしながら、トシは家路を急ぐのであった……)

2014-05-05 00:42:40
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「ただいま」玄関のドアを開け、僕は少し大きな声で言った。ほんのひと月ほど前に僕達のものになったこの家は、前の家より声を出さないと家族に挨拶が届かない。ちょっと古いのは気になるけど、広さなら今回の家の圧勝だ。僕の部屋が広くなったこともあり、僕はこの引越しにおおよそ満足している。 1

2014-05-05 00:45:41
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「ただいま」僕はもう一度、今度はもう少し声を出して言った。返事がない。おかしいな。僕は訝しんだ。いつもなら母さんがキッチンだかどこだかにいて、「おかえり」と言ってくれるはずなんだけど。外は暗くなりかけているのに明かりもついていないこの家は、今、奇妙な静寂に包まれている。 2

2014-05-05 00:48:31
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「母さん、いないの?」僕の声は、虚しく廊下に響くばかり。僕はちらりと後ろを向いた。僕が先ほど脱いだ革靴の隣には、母さんがいつもちょっと出掛ける時に履く靴が並んでいる。出掛けてはいない。となると、どうしたんだろう。僕が考え始めたその時だ、階段の上から物音がしたのは。 3

2014-05-05 00:51:05
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ごとり、ごとり、という音と、何かを引きずるような音。たとえるならば、何かが這いずりながら、こちらに近付いているような。僕は顔を上げて、目の前にある階段の一番上を見た。ゆっくりと移動するそれは、闇の中から腕を伸ばし、階段の一段目に手をかけた。「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ」 4

2014-05-05 00:54:16
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「……何ふざけてんの母さん、地獄の底から来たみたいな声して」僕は階段の電気をつけた。そこには、階段を這い降りようとする母さんの姿があった。顔面を蒼白にし、長い髪を振り乱している。見る人が見たら幽霊か何かと間違えそうだ。「おかえりトシ、助けて。ママね、腰やっちゃった」 5

2014-05-05 00:57:48
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「何してたの?」僕はため息をついて階段を上り、カバンを置いて母さんを見下ろす形でしゃがみ込んだ。「DVD見ながら美容体操してたの。ちょっと張り切りすぎちゃって。てへ」「てへじゃないよ、歳考えなよ」「トシだけに?」「やかましいよ。母さん、自分が腰弱いっていい加減学習してよね」 6

2014-05-05 01:01:17
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「実際さ、胸にスイカさん二つもぶら下げてみてよ、腰の負担ヤバいって。このプロポーションと美貌を維持する為に日々努力してるママのこと――」「はいはい、綺麗綺麗、母さんが世界一綺麗です」白雪姫に出てくる鏡の気分だ。まあ、スタイルがいいのも綺麗なのも、ある程度事実なんだろうけど。 7

2014-05-05 01:04:05
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「で、僕は何したらいいの?」「えっとね、まずベッドまで運んでくれる?あとは添い寝してくれればいいから」「しないよ。ほら、支えるから立ってみて」僕は母さんに肩を貸した。何度か悲鳴を上げつつ、母さんはよたよたと立ち上がり、生まれたての小鹿のように歩き出した。 8

2014-05-05 01:07:08
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「あっ、トシ、もっとゆっくり、ダメ、そんな激しくしたら壊れ――」「うるさい」「はい。でもマジで痛いから加減して」僕は寝室のドアを開け、母さんをベッドまで連れて行った。前の家から大事に持ってきているダブルベッド。母さんが一人で寝ると結構な広さがある。そしてその機会は割と多い。 9

2014-05-05 01:09:34
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「じゃ、安静にしててね」「えー、一緒に寝てくれないの?」「やだよ、寝るくらいひとりでしてよ」「ちぇ。あ、ご飯作れてないから出前か何か頼んで」「はーい」母さんの声を背中で聞きながら部屋を出る。なんだかどっと疲れた。廊下に置きっぱなしのカバンを掴んで、僕は自分の部屋へと戻った。 10

2014-05-05 01:12:44
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

部屋のドアを開けるなり、僕はベッドに向かってカバンを放り投げた。ボフッと鈍い音がして、布団は飛んできたそれを受け止めた。別に八つ当たりとかじゃないし、大した意味はない。変に習慣付いてしまっているだけだ。そして今晩の出前のことを考えながら、僕はSサイズの制服を脱ぎ始めた。 11

2014-05-05 01:14:47
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

制服をハンガーにかけながら、ふと本棚を見ると、一番下の段にあるホラーDVDコレクションが目に入ってきた。そうだ、オカ研から宿題が出てたんだった。憂鬱な気持ちになりつつ、僕は着る服を探した。暦の上ではもう五月だけど、下着姿では寒くて仕方ない。窓から入ってくる風のせいだろう。 12

2014-05-05 01:16:23
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

僕は窓を見た。外からやって来る異様に冷たい風を受けながら、カーテンが静かに揺れている。そう、窓が開いている。僕は窓なんか開けて出掛けただろうか。少なくともいつもならそんなことはしない。母さんが開けたのだろうか。それも有り得なくはない。だけど一体なんだろう、この胸騒ぎは? 14

2014-05-05 01:23:04
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

僕の記憶にフラッシュバックするのは、帰り道に見かけたあの奇妙なシルエット。僕の背中を、おぞましい予感が駆け抜けた。僕はその場で勢いよく振り向いた。そこにあったのは、ベッドだ。先ほど僕がカバンを放り投げた、ベッド。 15

2014-05-05 01:25:15
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

冷たい汗が流れ出す。カバンが布団に着弾した時の感じが、そういえばいつもと違わなかったか?というよりも、この布団、いつもと比べて何か少し盛り上がっていないか?たとえるならば、そうだ、誰かが頭まですっぽりと布団を被っている時のように。 16

2014-05-05 01:28:47
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

心臓が早鐘を打ち始める。手がわなわなと震えているのが分かった。僕はベッドに近付いていく。一歩、一歩。空気にかすかに乗っている臭い、これは、まるで鉄のような。喉の奥から何かがこみ上げてくる。ここに何があるっていうんだ?この布団を一枚隔てた向こうに、一体何が? 17

2014-05-05 01:32:13
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

僕は布団にそっと手をかけ、そして、頭の方から静かに布団をめくった。 18

2014-05-05 01:35:27
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

現れたのは、顔だった。長く艶やかな髪を持つ女性の顔。口の周りには、まだ真新しい血の跡がべったりと。それは今この瞬間も溢れ出し、頬を伝わり、顎を伝わり、首を伝わり、布団へと滴り落ちている。その目は虚ろに見開かれ、限りなく白目に近い状態。知っている、この顔は、この目は…。 19

2014-05-05 01:38:42
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

不意に、その目がぐるりと動いた。その瞳は、僕の瞳をまっすぐに見つめた。そうだ、帰り道と同じ。闇そのものに見られている感覚。今度は、こんなに近くから。僕の喉から「あ」に近い音が何度も漏れる。僕はその場で尻餅をついた。それを見た『彼女』は、ぎこちない動きで上半身を起こした。 20

2014-05-05 01:42:08
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

腰まで届くあまりにも長い髪が、ばさりと顔にかかる。それは彼女の顔の半分ほど、そして体の一部を覆い隠していた。彼女は服を着ていなかった。その肌はあまりにも、生気を感じられないほどに、蒼白。口から流れ続ける血液は、重力に従い、彼女の鎖骨、豊満な胸へと伝っていく。 21

2014-05-05 01:45:02
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

髪に片方隠された彼女の目は、あまりにも静かに僕を見下ろしている。その場で後ずさろうとすることしかできない、あまりにも無力な僕のことを。今すぐここから立ち去って、横になっている母さんに助けてと言いたい気持ちでいっぱいなのに、声すらも上げることができなくなっている僕のことを。 22

2014-05-05 01:46:59