「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード4 「ウシミツ・アワー・ライオット」

B・ボンド&F・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台に繰り広げられるサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物のtwitter連載まとめ 第1巻「ネオサイタマ炎上」より
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私は数年前までトーフ工場で働いていました。老朽化した設備のせいで、私はジェネレーター内に転落して生死の境を彷徨い、半身不随の重症を負ったのです。わずか数万円の退職金と見舞金を渡され、私は強制解雇させられました。私と同じような境遇の元トーフ労働者が、ほかに何千人もいると聞きます」

2010-10-31 20:04:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「しかし私は幸運でした。その数万円でトミクジを買い、当選し……運よく、本当に運よく、カチグミになれたのです。今回皆さんに配ったバリキドリンクも、私のポケットマネーから出したものです」拡声器のエフェクトはギュオーンというスペイシーなものに変わり、その扇情効果は十倍にも跳ね上がった。

2010-10-31 20:31:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シガキは感銘を受けた。心臓がハレツしそうなほど速く拍動する。実存の意味を失いかけていた自分という点が、不意に無数の点と繋がりマンダラとなるような高揚感。だが、おお、ナムサン! 彼は気付いていないが、その衝動の大半は、ドリンクに混入されたズバリ・アドレナリンによる化学的反応なのだ。

2010-10-31 20:36:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カチグミになれて羨ましいと思っていますか? そんなことはない! ……いくら金が手に入っても、私の胸は空虚なのです。憎い! サカイエサン・トーフ社が憎い!」サイバーサングラスの液晶面に「怒り」「激しい」「怒り」という赤い電子ドットが点滅し、激しいサブリミナル効果をかもし出した。

2010-10-31 20:41:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドンコドンコドンコドンドン「イヨーッ!」スモトリたちが合いの手を入れると、太鼓のビートはさらに速度を増した。急性ズバリ中毒者たちの拍動と破壊衝動も、それに合わせヒートアップする。激しく踊りだす者や、その場に倒れて、浜に打ち上げられたマグロのように口をぱくぱくさせる者さえ出てきた。

2010-10-31 20:51:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「サカイエサン・トーフ社は暗黒メガコーポです。彼らの激安トーフには、発癌性物質と脳縮小物質が含まれています。皆さん、何個食べましたか? 百個? あなたは千個! ナムアミダブツ! もうオシマイだ!」 これを聞いた参加者たちの脳内化学反応は頂点に達し、天を仰いで泣き叫ぶ者すら現れた。

2010-10-31 21:00:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドンコドンコドンドンドンコドンコドンドン…。トレーラーの側面がゆっくりと閉じ、太鼓の音がフェイドアウトしていく。急性ズバリ中毒者たちは理性なき猛獣と化して吠え猛り、クローンヤクザのサスマタやヤリや電気ショック・ヌンチャクで追い立てられながら、黒いトレーラーに分乗し始めた。

2010-10-31 21:06:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

各トレーラーは荷台部分が三層構造になっており、1台で百人近い人員を収容できた。酷い悪臭だ。もとは水牛運搬用のハイウェイ・トレーラーだったのだろう。錆びたタラップが軋む。チョッコビン・エクスプレス社の水牛戦車のロゴマークが、ずさんに黒スプレーされた荷台側面に、かすかに透けて見えた。

2010-10-31 21:23:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドリンクをまだ1本しか飲んでいなかったシガキは、急性中毒の手前で踏み止まっていた。だがもはや、無人スシ・バーにいた頃の枯れた静けさは微塵も漂わせてはいない。彼は四つん這いの姿勢でトレーラーの荷台に押し込められながら、敗北感に打ちひしがれている。…それは、自らの墨絵の敗北であった。

2010-10-31 21:44:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼の脳内では、これまで好んで描いてきたブッダや竹林やスケロクのモチーフが、炎によって焼き払われていた。その代わり、マッポをカマユデにするストリートギャングや、ジンジャ・カテドラルを爆破するアンチブディストといった禍々しくも躍動的な墨絵が、恐ろしいほど鮮明に浮かび上がってきたのだ。

2010-10-31 22:09:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺の墨絵は、無価値なボッコセイ・ハイプだったのだ!」彼は心の中で苦々しくひとりごちる。だが敗北感と同時に、ズバリ・アドレナリンの化学反応による新たな勝利の希望が沸きあがっても来た。「この衝動と義手だけは真実だ。俺はこのトーフヤ襲撃で鬼になろう。俺のテッコで全てを叩き壊してやる」

2010-10-31 22:28:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「五十歩百歩、虻蜂取らず…」一方その頃、ピラミッドのように聳え立つカスミガセキ皇居ビルのハイテック談合ルーム内では、ラオモトが独り、ボンボリモニタの灯りの下で古文書を読んでいた。彼が崇拝する平安時代の剣豪にして哲学者、ミヤモト・マサシの兵法書だ。コトワザの大半はミヤモトが作った。

2010-10-31 23:20:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

このマッポーの世に古文書を読める人間は少ない。それは即ち、ラオモト・カンの高いインテリジェンスを意味しているのだ。ソウカイ・シックスゲイツの恐怖の頭領は、セピア色の古文書をふと閉じ、がらんとしたホール内の暗闇に向かって言い放った。 「ダークニンジャよ、首尾はどうだ」

2010-10-31 23:25:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

誰もいないと思われていた談合ルームの植え込み竹の影から、生きている影のようにダークニンジャが姿を現し、立て膝の姿勢をとってこう報告する。「ビホルダー=サンに襲撃決行を報せる密書を届けました。見事な扇動能力により、二千人近い暴徒がサカイエサン・トーフ工場へ向かっております」

2010-10-31 23:27:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ムハハハハ! 素晴らしい!」ラオモトは交差する二本のカタナが描かれた軍配を掲げ、高笑いしながら自らの顔を扇いだ。しかしすぐに目元から笑みは消え、鋭いカタナのような目つきに戻る「だが油断はならん。ドラゴン・ドージョー、罪罰影業組合、ヤクザ天狗……ワシの邪魔をする目障りな敵は多い」

2010-10-31 23:31:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そして、ニンジャスレイヤー」ダークニンジャが言う。これを聞きラオモトは満足げに頷いた。「察しが良いな、ダークニンジャよ。さすがはワシの懐刀。依然、バンディットの消息は途絶えたままだ。おぬしはビホルダー率いる暴徒軍団の周囲に影のように潜み、妨害者の出現を警戒せよ」「御意」

2010-10-31 23:35:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「限界です」とイナリ型エレベーターの電子音声が鳴り、赤黒いニンジャ装束を着た人影が、暗い駐車場に現れる。ニンジャスレイヤーは、バンディットから奪った密書のアブリダシに成功し、この地下駐車場を突き止めていた。だが、残念ながら一足遅かったようだ。

2010-10-31 23:40:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そこは既にもぬけの空で、急性ズバリ中毒で心臓破裂を起こした連中や、クローンヤクザによって撲殺されたモヒカン学生の死体が打ち捨てられているだけだった。恐怖のズバリ暴徒軍団を載せたトレーラー部隊は、霧けぶるネオサイタマをしめやかに渡り、一路オハナ・バロウへと向かっていたのだ。

2010-10-31 23:42:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

激しく揺れるトレーラーの中で、シガキ・サイゼンは吠えていた「俺は何と御人好しだったのか。俺は鬼になる! トーフヤ襲撃で目にしたすべての凄惨なものを、このニューロンに焼き付け、俺の墨絵のモチーフにするのだ。そして重役室の金庫を破壊し、最新義手を買えるだけのカネを手にしてやる…!」

2010-10-31 23:47:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

野獣のような暴徒を満載にし、長い列を作ってネオサイタマのハイウェイを疾走する、ソウカイヤのトレーラー軍団。それを天頂から見下ろす、ぬめった霧の中に浮かぶドクロのような満月は、シガキに対して「ナムアミダブツ」と唱えているかのようだった。

2010-10-31 23:49:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード4「ウシミツ・アワー」終わり。 エピソード5「エグジスト・イン・ジ・アイ・オブ・ザ・ビホルダー」に続く。

2010-10-31 23:56:07