烏に纏わる掌編

美しい「鳥」と彼女たちに魅せられた男たちの物語。 以前連載していた「鳥に纏わる掌編」(http://togetter.com/li/295183)の続編です。 とりあえず完結。
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汝よ聞け勅諚ぞや、勅諚ぞと、呼ばはりかくれば、此鷺立ち帰つて、本の方に飛び下り、羽を垂れ地に伏せば、抱きとり叡覧に入れ、げに忝き王威の恵、ありがたや頼もしやとて、皆人感じけり。
 (謡曲「鷺」より)

chi-suke @ChiKomiya

【13】 私はある物語のことを思った。あの漁師は夢見ていたかったのだ。余りに偽りのない美しいものがいつか還ってきて(そう他でもない自分の元へと)、それを腕に抱きとめる一瞬があることを。 しかし私はもう飛ぶことのない彼女の羽衣にそっと顔を埋める。 #twnovel #烏に纏わる掌編

2014-06-12 02:29:50

いや疑いハ人間にあり。天に偽りなきものを。
 (謡曲「羽衣」より)

chi-suke @ChiKomiya

【14】 彼は本当に察しの悪い男だった。ある時出会った美しい鳥のことを、ただおかしな奴だと思っただけだった。彼女が人ならざるものだと気付いたのは連れ添って数年の後だった。 囚われていたのは自分の方だったのだと気付いたのはさらに数十年の後だった。 #twnovel #烏に纏わる掌編

2014-06-12 23:23:07

それでも彼が変わることはないのかもしれない。

chi-suke @ChiKomiya

【15】 彼女は非常に手先が器用だ。彼女が組み立て細工した瀟洒な鳥籠が高く売れるのは、無精者の自分にとっては本当にありがたいことなのだ。 ただ一つ残念なことがあるとすれば、作業をしながら彼女が小さく歌う声をもう聞くことができないことだろうか。 #twnovel #烏に纏わる掌編

2014-06-13 23:30:17

彼女は鳥籠の罪を知っているのだろうか。

chi-suke @ChiKomiya

【16】 余りに長く連れ添っているのだろう鳥と男の話である。 男は既に光も音も言葉も失ってただ息をしているに等しいが、その傍らには常に美しい一羽の鳥が寄り添っているという。 そんな一人と一羽ならば、何時かは許されることがあるのかもしれない。 #twnovel #烏に纏わる掌編

2014-06-14 23:01:44

それが何時かはわからないけれど。

chi-suke @ChiKomiya

【17】 彼女はまるで母のように私を愛してくれる。母を知らない私を夜毎胸に抱き、髪を撫で、慈しんでくれる。何時かその甘く暖かな肌に触れたいとは思うのだが、何かを壊してしまう気がしてそう出来ないでいる。 私は今夜も優しい鳥に抱かれて眠るのだ。 #twnovel #烏に纏わる掌編

2014-06-15 23:20:50

彼女らはなべて母となりうるもの。

chi-suke @ChiKomiya

【18】 母となった鳥は餌を噛み、時には口移しで雛に与える。それを見ながら彼は何とも不可解な気持ちになったらしい。彼女が離れた隙に、掌に乗るほどの小さな雛を取り上げて――出来なかった。 何故だか無性に涙が溢れて止まらなかったと彼は言う。 #twnovel #烏に纏わる掌編

2014-06-16 23:19:14

その感情を否定できる者など何処にもいない。

chi-suke @ChiKomiya

【19】 お困りなんだろう。振り向くと夕闇に黒衣の男が立っていた。 大丈夫、俺はあんたの同類だよ、と男は笑う。俺に任せておけばあんた方は只の一人と一羽でいられる。雛を幸せにする努力もしよう――どうする? 男が片手に提げているのは鳥籠だった。 #twnovel #烏に纏わる掌編

2014-06-17 23:29:04

その罪の重さを、彼もまた知っているから。

chi-suke @ChiKomiya

【20】 ある男は惑い、ある男は悔やみ、そして番いの鳥の手を取って何処へともなく消えていった。人にも戻れず、鳥にも足りぬ身をそれでも惜しむ男達だけが、今でもひっそりと鳥と共に生きている。 何時しか彼らは自嘲を込めて、己のことを烏と呼んだ。 #twnovel #烏に纏わる掌編

2014-06-18 23:02:15

そして一人と一羽は幸せに暮らしました。

chi-suke @ChiKomiya

【終】 だから鳥の雌を盗むことは大罪なのさ、と鳥屋は目を細めた。――それでも馬鹿な男は絶えんがね。その刹那、一陣の風が起こる。目を開けるとそこに鳥屋の姿は無かった。 と、何かが音もなく舞い落ちてきた。拾い上げてみるとそれは漆黒の鳥の羽根だった。 #twnovel #烏に纏わる掌編

2014-06-19 23:34:09

――今帰った。

 

――――あとがき―――――――――――――――

chi-suke @ChiKomiya

「烏に纏わる掌編」全20話+2話、これにてひとまず完結です。 一連の物語はちょっとしたコメントをつけてこちら( togetter.com/li/675313 )にまとめております。よろしかったらご参照くださいませ。 #烏に纏わる掌編 #あとがき

2014-06-19 23:37:16
chi-suke @ChiKomiya

この一連の物語は、鳥に連れ添う男たち(烏)の一人称視点の物語が奇数話、鳥と男たちを三人称視点から描いたものが偶数話、となるように配列してみました。効果のほどはわかりませんが… #烏に纏わる掌編 #あとがき

2014-06-19 23:37:32
chi-suke @ChiKomiya

ご覧になってくださった全ての方々、ふぁぼやRTで応援してくださった方々、そして着想の源に協力してくれたとある友人に、この場を借りて感謝いたします。 本当にありがとうございました。 #烏に纏わる掌編 #あとがき

2014-06-19 23:38:50