即興小説”深夜特急”「ホーフィンチ」
ホーフィンチ43◆ただ私と彼だけの静かな世界。それ以外には何もない静かな世界。ツイリリツー。彼が小さく首を傾げて私のことを見ているだけでした。「どうしたんだよ、君」 きょとんとした瞳が問いかけてくるだけでした。 #深夜特急24
2014-06-08 00:53:35ホーフィンチ44◆「……残されたその子は、どうなったんだよ」私がやっとの思いでそう言うと、彼は寂しげに笑いました。「おかしくなってしまったよ」帰ってくるはずのないあの子を待ち続けて。そしてふたりが隣のお墓に埋められたのさ。 #深夜特急24
2014-06-08 00:56:49ホーフィンチ45◆「さあ、これでお話は終わりさ。全部終わりさ」わかったら、残りの実をおくれよ。彼が言いました。私の手には、彼の欲しがったカエデの実がまだ少し残っていたのです。 #深夜特急24
2014-06-08 00:59:39ホーフィンチ46◆気づくと私は、彼に向かってその実を投げつけていました。ひとつ、ふたつ。彼はその小さな体を翻し、必死に逃げようとしました。みっつ、よっつ。私は小さく呟いていました。ツイリリツー。ツイリリツー。 #深夜特急24
2014-06-08 01:02:13ホーフィンチ47◆やがてそのうちのひとつが彼の頭を強か打ったらしく、一際大きな声でツイリリツーが聞こえました。鋭く、痛い音でした。その小さな体から発せられたとは思えない、耳を劈くような声でした。そうして彼は飛び去っていきました。闇を広げる夜の森に向かって。 #深夜特急24
2014-06-08 01:04:18ホーフィンチ48◆彼がいなくなって気が付いてみると、辺りはとっぷりと闇に沈み、私は一人ぼっちでその中に取り残されているのでした。それでもその時の私には―今からしてみれば考えもつかないことなのですが―何の恐怖もなく、踵を返し、ずかずかと来た道を歩いたのでした。 #深夜特急24
2014-06-08 01:06:02ホーフィンチ49◆あの忌々しい小さな彼に会う前に歩いてきた道を。その時でした。私の足元を何かが通り過ぎました。ふたつの小さな毛玉のようなものが、ころころと、笑うように跳ねながら、転がりながら、私の足元を通り過ぎていったのです。 #深夜特急24
2014-06-08 01:07:59ホーフィンチ50◆それはもしかしたら巣に戻ろうとする二匹の野兎だったのかもしれません、それとも、ただの枯れ草を見間違えただけかもしれません。それでも私には瞬間、それがあの兄妹だとは思わずにいられなかったのです。「おうい、待ってくれよう!」 #深夜特急24
2014-06-08 01:09:22ホーフィンチ51◆追いかけようとした私はしかし、道の小石に足を取られ、彼らを見失ってしまいました。辺りにはまた、静寂が戻りました。私はまた一人でした。遠くから、キタキツネか何かの鳴く声が聞こえました。私はなんだか泣きたいような気持ちになって立ち上がりました。 #深夜特急24
2014-06-08 01:11:37ホーフィンチ52◆その時の私にはさっきまでの威勢の良さは全くなく、ただ寂しさだけがありました。私は、彼にとても悪いことをしたような気がしてたまらなくなったのです。「おうい、ホーフィンチ、さっきはごめんよ」私は大きな声で叫んでいました。 #深夜特急24
2014-06-08 01:13:27ホーフィンチ53◆「ぼくは君に、痛いことをするつもりはなかったんだ、ごめんよう」返事はありません。木霊だけが何度も何度も、私のまわりを流れて行きました。気づくと私は、いつの間にか森の入口についていました。 #深夜特急24
2014-06-08 01:15:35ホーフィンチ54◆私はそこに、なぜかしっかりと握り締めていた一粒のカエデの実をとぽりと落としました。そうしてもう一度言いました。「ホーフィンチ、さっきはごめんよ」 #深夜特急24
2014-06-08 01:16:55ホーフィンチ55◆ツイリリツー。彼の声が聞こえた気がしました。それはもしかしたら幻であったかもしれません。それでも私には確かに、彼の鳴き声が聞こえた気がしたのです。 #深夜特急24
2014-06-08 01:18:01深夜特急「ホーフィンチ」(後編)はこれにて終了です。ご乗車頂きありがとうございました。どうぞ皆様いい夢を。おやすみなさい。 #深夜特急24
2014-06-08 01:19:37演劇で脚本書いてウンウン唸って直しまくって、で、持ってって、役者から新しい視点の解釈が生まれておおお!ってなるのに似てる。共同作業の面白さは自分が予想想定しないものがスバーっと切り込んでくるこの速度感!その速度が今夜はリアルタイムだったので正に特急! #深夜特急24
2014-06-08 01:31:05伊織さんとは「ジャンケンで勝った方が前編ね、じゃんけんポーン」てな勝敗で前後編順番決めたんですがコレ今更ながら後編担当の方が難しいですよね…! あと前編は先に終わるのでこう…「ほほぅ」とか「なにー!」とか「おおお!」とか追っかけて見れて完全に楽しいターンでした。 #深夜特急24
2014-06-08 01:33:56