『ザ・スウィル・オブ・ザ・ゴッズ』#2

南の孤島を舞台に繰り広げられる艦娘冒険活劇というかB級映画というか。 その接触編 第一話 http://togetter.com/li/662967 第三話 http://togetter.com/li/687755
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シャル819 @char819

「じゃあ私は、もう少しこの周辺を調べてきます……」落ち着く間もなく、吹雪はそう言って再びジャングルへと入っていこうとする。疲れはあるが、暗くならないうちにどうしても調べておきたいことがあったのだ。それに、あえてこうやってわざとらしい行動に出たのは、もう一つ理由がある。 23

2014-06-08 13:38:40
シャル819 @char819

「吹雪殿、もう少し休まれてはどうでしょう」吹雪が確かめたかったのは、このあきつ丸の反応だった。表情などはほとんど変わらないが、その言葉の裏側にある感情が確実に吹雪を捉えようと手を伸ばしている。「そうだぜ、そんなに焦ることないだろー」さらに深雪も暢気にそんなことを言ってくる。 24

2014-06-08 13:40:21
シャル819 @char819

「……いや、吹雪、悪いが白雪と少し様子を見てきてくれるか?」戸惑いかけた吹雪に助け舟を出したのは、他ならぬ天龍だった。目が合うと、吹雪の意図を察して小さくうなずいてみせる。「他の奴らはもう少しこの宿営地を調査するぞ。さっきみたいに伝言が残っているかもしれないしな」 25

2014-06-08 13:42:02
シャル819 @char819

宿営地を離れ、吹雪と白雪は静かにジャングルを進んでいく。明確な目標物があるわけではないが、気になることはいくつかある。「やっぱり、動物はいないみたいね……」地面を少し探ってみるが、不気味なほどになにも現れない。つまり、この島で活動している動物は、あのトカゲだけということだ。 26

2014-06-08 13:43:43
シャル819 @char819

「吹雪は、どうしてそんなに動物を気にしているの?」白雪のもっともな質問に、吹雪も少し考える。そして、ゆっくりと言葉を紡ぎながら、彼女自身も形作れていなかった理由を組み立てていく。「この島に私たちが派遣された理由があるとしたら、それはやっぱりこの島に異常があるからだと思うの」 27

2014-06-08 13:45:28
シャル819 @char819

しかし言葉はそこで中断された。前方の茂みで、何かが動く音がしたのだ。吹雪と白雪は無言で顔を見合わせ、ゆっくりとその音の方へと近付いていく。「私が様子を見てくるから、白雪は後ろの警戒をお願い」「了解」だが、茂みの向こうにあったものは、吹雪の想像をはるかに超えた存在だった。 28

2014-06-08 13:47:25
シャル819 @char819

「あれは……尻尾?」生い茂る木々の向こうに吹雪が見たのは、鱗に覆われた、まさにトカゲの尻尾だった。だがその大きさは、尾の部分だけで自分達ほどあるようで、それが尻尾であることを最初は認識できなかったほどだ。「白雪!」吹雪は目の前の現実を確認すべく、後方を警戒する相方を呼んだ。 29

2014-06-08 13:49:02
シャル819 @char819

「どうしたの?吹雪」だが白雪がこちらに駆けつける前に、木々の奥の尻尾の影は、そのままジャングルの深部へと消えていった。「向こうに、大きなトカゲが……」吹雪が指差すが、そこにはもう何もいない。白雪も目を凝らしているが、何も見つけられないようだ。「もう少し、様子を探ってみる?」 30

2014-06-08 13:50:38
シャル819 @char819

吹雪は少し悩んでその案を肯定しようとしたが、その前に、今度は砲声が二人の意識を奪い取った。「今のは……12.7cm連装砲?」「それっぽいですね……」二人もその音には嫌というほど馴染みがある。その砲声はまさに、艦娘となった時から使い続けている、今手元にある砲のものだったのだ。 31

2014-06-08 13:52:27
シャル819 @char819

「宿営地でなにかあったのかな?」「戻りましょう!」そう言うが早いか、白雪は既に野営地に向かって走り出している。吹雪も巨大な尻尾も気になったものの、野営地の異常事態を放っておくわけにもいかず、すぐに白雪の後を追いかける。その間にもさらに何度か砲声が響き、二人も速度を上げる。 32

2014-06-08 13:53:53
シャル819 @char819

宿営地に戻った二人を待っていたのは、大トカゲと死闘を続けている仲間達の姿だった。トカゲの大きさは人間の背丈ほどもあり、その質感も相成って、恐怖を呼び起こす。「吹雪!白雪!あまりこっちに寄るなよ!」二人の姿を確認した天龍が、目の前のトカゲを切り伏せながらそう警告する。 33

2014-06-08 13:55:29
シャル819 @char819

「あぶねえ!」吹雪に気をとられたあきつ丸を深雪がかばうように押しのけ、トカゲに割って入ると、そこに初雪が正確に射撃を打ち込む。「……触らなくていいなら、なんとかなるし……」深雪も初雪もあきつ丸にしてやったりの笑顔を向ける。「なぜ自分をかばったのでありますか」「理由はねえよ」 34

2014-06-08 13:57:06
シャル819 @char819

近場で残るトカゲは後二匹。「当たって!」吹雪も、少し離れたトカゲに砲撃を放つ。初雪ほど正確な射撃でなければ、至近弾は天龍らに被害を及ぼしかねない。だがその一発でどうやらトカゲも諦めたらしい。宿営地を取り巻くようにしていたトカゲ達は、波が引くようにジャングルへと消えていく。 35

2014-06-08 13:58:43
シャル819 @char819

「みんな、大丈夫ですか?」「ひとまずはな……」そう答える天龍の態度には、明らかに疲弊の色が見える。天龍だけではない、深雪は柱にもたれたまま動かないし、初雪も艤装を抱えて座り込んでいる。そしてあきつ丸は、あの時以上に深刻な目で、走馬灯を照らしジャングルを見つめていた。 36

2014-06-08 14:00:30
シャル819 @char819

「そろそろ、教えてもらえますか。あのトカゲは、この島はいったい何なんです?」吹雪はあきつ丸の視界をさえぎるように立ちふさがり、あらためて詰め寄る。それでもあきつ丸は黙っていたが、頑として動かない吹雪にさすがに諦めたらしい。少し目を伏せた後、小さく息を吐いて語り始めた。 37

2014-06-08 14:02:35
シャル819 @char819

「ここは、島自体が陸軍の実験施設だったのであります。そしてあのトカゲこそが、その実験の成果物……」「……そんなことだろうとは思ったぜ」天龍の言葉に吹雪もうなずく。「それじゃあ、ここに他の動物がいないのも?」「他の動物はおそらく、奴らに駆逐されたのであります……」 38

2014-06-08 14:04:11
シャル819 @char819

それは、ある程度吹雪が予想していた答えだったが、いざハッキリさせられると、さすがにどう答えればいいのかわからなくなる。「それよりも、まだ日が高いうちにここを離れて海岸のトーチカに戻った方がいいかもしれません」「どういうことだ?」「奴ら、おそらくまた来ますよ……」「なに!?」 39

2014-06-08 14:05:47
シャル819 @char819

「ここが襲撃されたのも、奴らが餌を求めているからでしょう。そしてさらに奴らの死骸も増えた。その匂いをかぎつけてくるはずです。それに、ここは戦うには守りにくい」確かに開けたこの宿営地では、警戒はしやすいがいざ襲撃を受けた際には囲まれることになる。なにせ相手は人間ではないのだ。 40

2014-06-08 14:07:25
シャル819 @char819

「……確かに、ここよりもあちらの方が迎撃はしやすそうだな……」天龍はあきつ丸の言葉にまだ複雑な思いを抱えているようであったが、それでも、決断に迷いを持ち込むことはなかった。すぐに立ち上がり、撤収の準備を始めようとする。だが、そこに小さな、か細い声が漏れ聞こえてきた。 41

2014-06-08 14:08:59
シャル819 @char819

「……じゃあ、わりいが……先に、行ってくれ……」声の主は、柱にもたれたまま身動き一つしない深雪だった。その声も普段の彼女からは考えられないほど弱く、既に意識混濁しているようであった。「深雪!?」吹雪が慌てて駆け寄り、その身体へと触れる。「熱い……どうして……」 42

2014-06-08 14:10:36
シャル819 @char819

少し触れただけで、その体温が異常に上昇しているのがわかった。だが、艦娘は病気などにかかることはないはずだ。「ちょっと待ってください!」深雪の異変を見て、あきつ丸も駆け寄ってきて深雪の身体を調べ始める。「咬まれてる……さっきの時でありますか……」深雪は力なく小さくうなずいた。 43

2014-06-08 14:12:12
シャル819 @char819

「……艦娘にまで毒の影響が出るほどになっている……まさか!?」そして今度は、あきつ丸は慌ててトカゲの死骸を調査し始める。「どういうことだよ……」「薄々おかしいと思っていたのですが、この島の周囲には深海棲艦がいなかった。はじめは、そういう海域だと思っていたのでありますが……」 44

2014-06-08 14:13:48
シャル819 @char819

そして、トカゲの死骸の中から決定的な物を取り出し、あきつ丸はそれを告げた。「このトカゲはおそらく、深海棲艦を喰らいつくし、さらに進化したのであります……」あきつ丸がトカゲの中から取り出したのは、深海棲艦特有の、禍々しい砲だった。しかし、その大きさはかなり小さい。 45

2014-06-08 14:15:24
シャル819 @char819

「つまり深雪がやられたのは……」「おそらく、深海棲艦によって進化した毒であります……」あらためて深雪に視線を向け、小さく息を吐く。「どうにか、ならないのですか……」吹雪の悲痛な声。鎮守府まで戻れば手の打ち様もあるかもしれないが、この孤島では、深雪はこのまま死を待つしかない。 46

2014-06-08 14:17:00
シャル819 @char819

「一つだけ、可能性はあるのであります……」その言葉とは裏腹に、あきつ丸の声は、あくまで静かなものだった。「島のどこかにある研究施設。そこにいけば、毒の免疫を用意できるかもしれない、のであります」語りながらも、そこに希望は乗っていない。それでも、吹雪はそれに縋るしかない。 47

2014-06-08 14:18:36