[即興秘封SS]秘封倶楽部と焼却炉

1時間で書いた即興秘封SS。ホラー系。
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浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

「――――――」 そこにいたのは。 私が手を握りしめていたのは。 蓮子ではなく。 人間ですらなく。 人の形をした、ただの、黒い影。 ぺたぺたぺたぺたぺた…… 足音が、走り出すように、こちらに近付いてくる――

2014-06-26 23:15:49
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

熱い。 掌が熱い。 蓮子の手を握っていたはずの、 黒い人影に触れている手が、 熱くて、たまらない。 炎だ。 何もかもを焼き尽くす炎が、 私の手から、 私の全身を包み込む。 「熱いよ……熱いよ……助けて……」 それは目の前の黒い影の声だろうか。 それとも、私の悲鳴だろうか。

2014-06-26 23:18:11
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

「タスケテ――」 ああ、炎が、炎が私を、私を――。 「――メリー!」 私は我に返った。気が付けば、そこは元の廊下で、蓮子が心配そうな顔で私を覗きこんでいる。 私が目をしばたたかせると、蓮子は安堵したように大きく息を吐き出した。 「もう、急にぼーっとして、どうしたの?」

2014-06-26 23:19:53
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

「……ううん、なんでも」 私はゆるゆると首を振った。今のは夢だったのだろうか。だとすれば、いったいどこからどこまでが? ただ、はっきりと、黒焦げの手を握りしめたときのざらついた感触と、そこから伝わった熱は、やけにはっきりと掌に残っていて――、

2014-06-26 23:21:01
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

私は、ここが現実だと確かめるように、蓮子と繋いでいた左手を見下ろした。 ――その手は、まるで炭を握りしめたあとのように、真っ黒になっていた。 「ほらメリー、行くわよ」 私が呆然としているうちに、相棒はその私の左手を握りしめて歩き出した。

2014-06-26 23:22:36
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

引きずられる私は、いつの間にか消えていた懐中電灯をつけようとスイッチを押して、 ――だけど、懐中電灯はつかなかった。 「蓮、子?」 私の手を引っ張って前を進む蓮子の姿が、闇に溶けていく。 暗闇の中に、何もかもが沈んで行く。

2014-06-26 23:24:31
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

……ぺた、ぺた、ぺた また、足音がした。 握りしめた蓮子の手は、炭のように固くカサついていた。 [秘封倶楽部と焼却炉 おわり]

2014-06-26 23:24:53
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

所要時間1時間6分 まあ即興ならこんなもんか

2014-06-26 23:25:47