描画材について ( @kawadayuko さんのツィートまとめ)

絵画で使用される描画材の性質、手法、作品における役割について、興味深い話のためまとめてみました。 今後も何かありましたらぜひ!
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@kawadayuko

昨日ゲルハルト・リヒター展を見て感じたことを、つぶやいて行きたいと思います。新宿のワコー・ワークス・オブ・アートのroom2に展示されていた作品は、スナップ写真の上に油絵具をのせたものと、ラッカーをのせたものの2種ありました。

2010-02-24 15:07:46
@kawadayuko

油絵具を硬いまま写真に乗せ、付着した後に、引っ張り上げながら、引き離すと、絵の具の盛り上がりに、山の尾根のような陵が出来ます。この陵を巧みに使いこなして、写真の画像と呼応するように、有機的な痕跡を付着させたものが、リヒターの『オイル・オン・フォト』です。

2010-02-24 15:08:04
@kawadayuko

これとは別に、最近ではラッカーを使用とのこと。よく観てみますと、似ているようで、趣が異なります。油絵具と比べると、塑性する力が弱いため、盛り上がりや、陵が出来ません。その代わりに、流動性によって、マーブリングという効果と、乾燥による縮みの現象があります。

2010-02-24 15:08:27
@kawadayuko

マーブルとは、もともとは大理石の文様のことです。この美しさを求めて、人工的に獲得する手法が編み出されています。その技法をマーブリングと呼びます。水面に柔らかく溶いた油性絵具を流れ落とし、自然な流れに任せると次第に水の動きによる文様が形成されます。

2010-02-24 15:09:25
@kawadayuko

水面の文様は、そのままでは散り去る儚い運命にあります。そこで美しい瞬時を捕らえて、薄い紙を上から被せ、吸いとり、引き上げます。紙に、水は渇くと残りませんが、絵具の抜きにその形跡として残され、流動する絵具の見事な模様が写されます。

2010-02-24 15:10:09
@kawadayuko

墨も半油性なのでマーブリングと同様のことが出来ます。この場合は、『墨流し』という技法名があります。この場合はモノクロですが、油性絵具には沢山の色が用意されていますので、多色を使用し、水の流れを自由に操り制御する修練を積むと、さまざまな模様を生み出せます。

2010-02-24 15:10:40
@kawadayuko

リヒターがラッカーを写真にのせる時、写真の光沢面の上で、幾つかの色が混ざり合い反発して、流動的な模様を形成します。ラッカーは、揮発性の比較的乾燥の早い描材なので、頃合いをはかって、そっと動きを止めて待つと、美の瞬時を固定します。それがそのまま写真の上に残るのです。

2010-02-24 15:11:39
@kawadayuko

乾燥の早い揮発性の塗料は、共通して収縮の現象が起きます。蒸発した揮発成分の分だけ、絵具が痩せるからです。これと比べると、水性絵具は水分が蒸発するのに多少時間がかかるために収縮は抑えられますが、痩せは生じます。もっとも痩せがないのが、油絵具です。

2010-02-24 15:13:34
暇人 @HIMA_person

@kawadayuko マーブリングって偶然の一瞬を捉えるものなのだと思っていたのですが、その偶然性の幅を広げることはあんまり考えたことなかったので、この一言が面白かったです。>修練を積むと、さまざまな模様を生み出せます。

2010-02-24 15:13:43
@kawadayuko

油絵具は空気中の酸素と結合する、酸化乾燥なのです。しかし乾燥に時間がかかるという欠点もあります。そこで、揮発性の溶き油が使われることもあり、一概に痩せが全くないとは言い切れません。

2010-02-24 15:14:03
@kawadayuko

リヒターの『ラッカー・オン・フォト』の作品には、このような揮発性の絵具特有のマーブル模様と、絵具の収縮による、リアス式海岸のような細かい襞が、魅力的に写真を覆い、彩ります。

2010-02-24 15:14:28
@kawadayuko

オイルまたはラッカー・オン・フォトは、長い年月をかけて絵具と向き合って来たリヒターの手法の粋と言えましょう。また、それが過去の遺物としての写真にさりげなくのせられることで、絵具を愛して止まない『創造』の残り香のようでもあり、甘美な哀愁が醸し出されています。

2010-02-24 15:14:50
@kawadayuko

リヒターのラッカーかオイルかという問題を、ふと悩んでみました。私の気に入った作品が、ラッカーを使用したものでしたが、ホールドの予約者が考え中とのこと。何となく気持ちがわかるような気がしたのです。

2010-02-24 15:15:22
@kawadayuko

素材は、そのままで、強い存在感とイメージを持つものです。以前「素材を殺す」というつぶやきをしましたが、まさにその強さが作品に邪魔になる場合もあるわけです。しかし、それをうまく生かすことが作者に試されているとも言えますが。

2010-02-24 15:15:57
@kawadayuko

日本ほど、素材を重視する文化はないかもしれません。料理にしても生を楽しむことができるわけですから。したがって、どうしても素材の吟味が、芸術品の質と結びつきやすい傾向にあります。工芸の世界が、まさにそれを具現化しています。

2010-02-24 15:16:23
@kawadayuko

これまで10年以上続けて来た私の仕事は、麻のキャンバスにアクリル絵具を使う制作でしたので、このアクリル絵具の性質や良さを知ってもらう仕事になっていたともいえます。アクリル、ラッカー、エナメル、ビニールの絵具が画材として存在することも広く一般的に知られていません。

2010-02-24 15:17:04
@kawadayuko

材質として粗悪なものとか、二次的な使用、耐久性の問題等で誤解をされることが多いように思います。確かに、ホームセンター等に同じような名前の塗料がありますし、誤った使い方の凡例が多く、そのことばかりが記憶にインプットされている人も見受けられます。

2010-02-24 15:17:46
@kawadayuko

油絵具崇拝主義の後ろ盾には、自然素材礼賛という旗も見え、なかなか手強いのが現状です。ところが、実際の所、絵具の色身を成り立たせている顔料そのものが、既に人工的な生産に多く頼るようになって来ています。

2010-02-24 15:18:34
@kawadayuko

なぜならば、自然は人間の思う程には生やさしくはないからです。黄色顔料に使われるカドミウムや、朱色をつくる金属成分等が毒物として有名ですが、絵具チューブを良く観てみれば、危険信号がしっかり表示されておりますので、お見逃しなく。

2010-02-24 15:19:03
@kawadayuko

そこで、人工的に顔料をつくらざるを得ないというのが、地球環境問題を考える上で必須のことでもあるのです。「美しいものには毒がある」古人の言うことは疎かに出来ないものですね。

2010-02-24 15:19:30
@kawadayuko

描画材である絵具から絵画を観た場合、このように顔料をどのような溶剤を使うかによっておおまかにジャンル分けできます。ニカワで顔料を溶く日本画、油で溶く油絵、アクリルエマルジョンで溶くアクリル画、卵で溶くテンペラ画、水で溶く水彩画、顔料そのままを固形にして描くパステル画等。

2010-02-24 15:20:03
@kawadayuko

どの描材も、溶媒と、顔料の粉砕の違い等はあるものの、鉱物や、金属、有機物からつくられる同じ顔料なのです。その溶剤の質をある程度吟味し、手入れの行き届いた使用方法、その性質をよく活かした使用方法であれば、描材に優劣はありません。

2010-02-24 15:20:50
@kawadayuko

美は、必ずしも儚いものではありません。日本には、小野小町の歌う、花のはかない美を愛でる傾向がありますが。それとは別に、さまざまな美があるはずです。そして「永遠を生きる力を持つ美が存在するのではないか」そんなことを考えて私は制作しています。

2010-02-24 15:21:39
@kawadayuko

なぜなら、次の時代にこそ作品から新たな意味を読み取り、感受され、生きる糧とするような人が出て来るかもしれないのです。その時まで、作品は生き延びなければなりません。そうなれば、たとえ物質としての役目を終えても、それは何らかの方法で再生されるはずです。

2010-02-24 15:22:35
@miesuma

「人」も一緒かもしれません。 @kawadayuko どの描材も、溶媒と、顔料の粉砕の違い等はあるものの、鉱物や、金属、有機物からつくられる同じ顔料なのです。その溶剤の質をある程度吟味し、手入れの行き届いた使用方法、その性質をよく活かした使用方法であれば、描材に優劣はありません。

2010-02-24 15:24:16