ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「確かにそうだ。あの死体は見境無く殺す事しかできん。雇っても、守るだけだ」DシズムVIIが頷く。「ブラックハンド=サンがよほどのイディオットでない限りはな」ドレッドノートはサイバネ置換された右腕の幻肢感覚に舌打ちした。机の上のバイオ溶液シリンダには、仇敵の眼球が浮かんでいた。24

2014-07-31 01:40:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だが、仮にあいつらがヨージンボーを雇ったら……向こうはニンジャが……2人」DシズムVIIが言う。「仮にそうなったとしても、奴らは急には攻め込めんだろう。強引に攻め込めば、クラタ・メイジンとロービットマインを失う事になる。ストリートの価値は無に帰す」ドレッドノートが言った。 23

2014-08-02 22:33:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「確かにそうだ。あの死体は見境無く殺す事しかできん。雇っても、守るだけだ」DシズムVIIが頷く。「ブラックハンド=サンがよほどのイディオットでない限りはな」ドレッドノートはサイバネ置換された右腕の幻肢感覚に舌打ちした。机の上のバイオ溶液シリンダには、仇敵の眼球が浮かんでいた。24

2014-08-02 22:34:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クラタ・メイジンが……地下に軟禁されている?」ホリイは耳を疑った。高齢のメイジンに対して、信じ難いシツレイ行為だ。「シツレイなんてもんじゃねえよ、無茶苦茶さ。この街はもう終わりだよ、お客さん」店主のツルギ・マスダ老人は、ケモビール・ジョッキを磨きながら口惜しげにぼやいた。 26

2014-08-02 22:39:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

酒場は営業時間外。ここにはカウンターを挟んでホリイとツルギ老人、離れたテーブルにジェノサイド。それだけだ。「お客さん、見たとこローグハッカーか何かか。おれみてえな老いぼれにゃ、細かい区別ができねえけどよ。メイジンに会おうとして来たなら、アテが外れちまったな」老人が言った。 27

2014-08-02 22:44:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ホリイは押し黙る。「悪い事ァ言わねえ、とっとと、この呪われた街から出て行ったがいいぜ。今日の小競り合いだって可愛いもんさ。あそこの御人が居なけりゃ、今頃もっとでかい抗争で、街は死んでた。……じきに、また始まる。な?早く出てきな。追われてンなら、なおさらだ」老人は声を潜めた。 28

2014-08-02 22:52:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう行くあてが無いの。ライトある?」「ライトって」「つまり、ライト」ホリイにも、符牒の通じる確証は無かった。「もしかすると、あんた」ツルギ老人は旧型サイバネ義足を鳴らして歩き、レジの下から特殊波長スキャナーを持ってきた。ホリイは上着を脱いで袖をまくり、上腕部を露出させた。 29

2014-08-02 22:59:06
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「驚いたなこりゃ。ここの出で、しかも、クラタ・メイジンの弟子か」ツルギ老人は、ホリイの左上腕部に朧げに浮かび上がった特殊蛍光タトゥーを確認した。十年の月日が蛍光成分を劣化させかけていたが、辛うじて遺されていた。「残ってて良かった」ホリイ自身も、それを見るのは十年ぶりだった。 30

2014-08-02 23:02:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「十年前はこんなじゃなかった。治安は悪かったけど、毎日のようにヤクザとギャングが大通りで殺し合いなんて、想像もできない。お願い、一体何が起こったのか、話して」ホリイは懇願した。それを知らねば、自分は生き延びれない。ツルギ老人は不条理への悪態をつきながら、事の次第を語り始めた。31

2014-08-02 23:09:55
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かつてナカニ・ストリートは、モグリの医者と違法横流しパーツ屋が多少軒を連ねる程度で、他には何の特徴もない、典型的マケグミ地域であった。状況が変わり始めたのは、25年近く前。温泉を掘ろうとしていた狂人が、偶然にもストリートの地下で大規模な旧世紀UNIX不法投棄場を掘り当てた。 32

2014-08-02 23:17:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

狂人は失望の余りセプクして死んだが、そこはストリートにとって大きな価値を持つ鉱脈めいた場所となった。住民の多くは、ここで危険な採掘作業を行い、レアな電子部品やデータを掘り出し、ストリートに並ぶ違法基板屋やデータ屋で売るようになった。その中心人物が、クラタ・メイジンであった。 33

2014-08-02 23:23:16
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クラタ・メイジンは、偉大なコードロジストにして、ハンダ付けの熟練者であった。彼は四本のコテを精密に操り、コーティングされた旧世紀ICを傷ひとつつけず取り外した。また発掘されたラジオ・グリモアの膨大な情報を脳内記憶し、型番と形状だけで数千種類以上のパーツ価値を即座に言い当てた。34

2014-08-02 23:32:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ハッカーカルト教団員や野心的なローグハッカーがそれらの買い付けに訪れ、慎ましいマーケットが形成されていった。地下にはジェネレータ廃棄物や凶暴バイオアニマル群生地もあり危険だったが、住民は役割分担を行い、秘密を守りながら、辛抱強く採掘を続けた。事態が変わり始めたのは十年前だ。 35

2014-08-02 23:37:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

潤沢なカネが流れ込むと、それを嗅ぎ付ける者が現れる。周辺に縄張りを持つカットスロート・カニ・ヤクザクランが、上納金と引換に警備を始めたのだ。当初、それは悪くない関係だった。このクランは伝統的な価値観を有し、UNIXにも詳しくなかったため、金さえ払えば安全を保障したからだ。 36

2014-08-02 23:44:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私が街を出た直後から……そんな事が」「で、五年くれえ前から、ヤクザの様子がおかしくなった。オヤブンが死んだとかなんとか……多分あれは代替わりに失敗したんだろう。三年前にも、内部でクーデターかなんかだって聞いたな」ツルギ老人は言った。「そっからはもう、横暴の限りさ」 37

2014-08-02 23:53:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「無茶な採掘をやって、また有望なロービットマインを見つけたはいいが、暮らしは少しも楽にならねえ。全部搾り取られちまう。逆らったら即、ケジメだ!」ツルギ老人はカウンターを叩いた。「そこへテクノギャングまでやってきて抗争を始めたもんだから、もう目も当てられねえ!カーッ!ペッ!」 38

2014-08-02 23:58:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カネが動くったって、たかが知れてるだろ。慎ましい街だぜ」「解るわ」ホリイが頷く。「なのに、あいつら、何でそんなに争う?こりゃ絶対、上の奴ら同士の因縁だろうな。どっちも、引っ込みが付かねえんだ。ヤクザとギャングの抗争は一進一退。ここの民宿サルーン周辺が、緩衝地帯になってる」 39

2014-08-03 00:04:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「商店の八割とサイバネ組合、パーツ鑑定技師組合が、ヤクザの支配下だ。テクノギャングは押されてたが、奇襲攻撃でロービットマインとクラタ・メイジンを奪った」老人は腕組みした。「採掘したのを売り捌くには、互いが取引しなくちゃならねえ。毎日のように軋轢が生まれる。街は荒む一方さ」 40

2014-08-03 00:10:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マッポやハイデッカーは?」ホリイが問う。「見て見ぬ振りさ、解るだろ。神父もボンズもこの街を捨てて逃げちまったよ。人が死んでも、残ってるのはサイバネ取りと臓器売りだけさね。年に一度のオーボン・フェスティバル、覚えてるか」「ええ、好きだった」「もう何年もやってない」「そんな」 41

2014-08-03 00:23:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナカニ・ストリートでは年に一度、オーボンの時期に、住人による慎ましいフェスが行われてきた。オヒガンと現世を繋ぐゲートが開き、祖先のスピリットが地上を歩むとされるオーボンの夜は、オショガツと並ぶ重要な日本伝統文化だ。それが開催されぬとは、何を意味するか。もはや言うまでもない。 42

2014-08-03 00:29:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あの御人が居なかったら、この街は終わってたぜ。少なくとも、うちは廃業だ。みんな死んじまうからな」……それは、破滅を先延ばしにしただけやも知れぬ。ここに残る住民たちは、逃げ出す気力も、他に行く当ても無い。暗黒管理体勢や共和国との戦争が、住民の移住や再起をさらに厳しくしていた。43

2014-08-03 00:35:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人は奥のテーブルを一瞥した。ジェノサイドは酒瓶の中身をグラスに注ぐ姿勢のまま、30分以上も動かない。「…arrgh…」唸り声を時折漏らすのみ。「ああいう時間が増えてきた」老人は言った。「こんな事、言いたかねえが、旦那はもう駄目かもしらん…。何も食わねえ。酒飲んでばっかりだ」44

2014-08-03 00:46:09