アイドル・アンド・ハリセン・ライブ#2
- arisa765_fake
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「「イイイイイイイヤアアアアアアアアアア!」」一撃必倒の意思を込め、両者の手が振り下ろされた!カラテ粒子を纏った拳が陽炎めいて大気を歪める!……超常の風が止む。二人は相手の手を凝視する。シホの視線の先にはグー。そして、シズカの視線の先には……パーだ。 15
2014-08-04 22:20:09ドクン。両者の主観時間が鉛めいて鈍化する。アイドルアドレナリン過剰分泌がもたらす異常集中現象だ。ゆっくりと二本の手が動き、それぞれの得物に向かっていく。ここでシズカが内心でほくそ笑む。彼女はジツによるニューロンのブーストを得て、更なる停滞した時間の中を幻視している。 16
2014-08-04 22:25:07シズカは確かに目撃した。目の前で泳ぐように腕を突き出しているシホが、ほんの僅かに出遅れたことを!それは0コンマ1秒にも満たぬ隙かも知れない。だが、アイドルのイクサではその一瞬が命取りだ!ショッギョ・ムッジョ!(しょせん演技派気取りのヴィジュアルタイプ。この私の敵ではない!) 17
2014-08-04 22:30:09ナムサン!このままシホはイポンのチャンスを失ってしまうのか!?この機を逃せばシズカのジツに絡め取られ、じわじわとスタミナを奪われ敗北あるのみ!無慈悲にも鈍化した時間の流れが戻る!シズカの手は既にメットを掴み胸の位置まで…「イヤーッ!」 18
2014-08-04 22:35:07振り下ろされるハリセン。持ち上げられるヘルメット。下がるハリセン。上がるヘルメット。ハリセン。ヘルメット。ハリセン。ヘルメット。ハリセン。ヘルメット。ハリセン。ハリセン。ヘルメット。ハリセン。ハリセン。ハリセン。ヘルメット。ハリセン。ハリセン。ハリセン。ハリセン!パ ァ ン 19
2014-08-04 22:40:09乾いた音が室内に響く。「……エ?」シズカの目が驚きに見開かれた。おお、見よ!振り下ろされたハリセンは、ヘルメットを握り締めた彼女の艶やかな黒髪の上に乗っているではないか!そしてコンマ1秒の間を置いて衝撃が脳を揺らす!「ンアーッ!?」 20
2014-08-04 22:45:07(ありえない!一体何が…!?)シズカはシホの出遅れを目撃したはずだった。しかして現にイポンを取られたのは己の方だ。まるでハリセンが急加速したかのように見えた。パニックに陥るが、ジツの名残か冴えわたるニューロンが答えを浮かび上がらせた。「…ライアールージュ・ジツ」 21
2014-08-04 22:50:07「ライバル倒すべし。慈悲はない」厳かに言い放ち、シホはハリセンを下ろした。然り、彼女のジツは己の仕草を一瞬だけ偽る力を持つ。ハリセンはシズカの観るほんの少し先を行っていた。永続的ではないがアイドルのイクサでその隙は致命的となる。実際シズカは勝利を確信し油断した。インガオホー!22
2014-08-04 22:55:07「『切り札を最後まで見せるな』。師父の教えです」「誰ですか、師父って…」額の汗を拭いシズカは嘆息したが、自信過剰になって相手の思惑に乗った己のウカツを責めはしなかった。負けたが、全力を尽くした。よいイクサであったという満足感があった。「さ、オカシは貴女の物よ」 23
2014-08-04 23:00:15シホはしばらく思案した後、シズカとミライに言った。「折角だから、オカシは皆で食べない?」「いいの?」「別に、オカシが欲しかった訳じゃないから」「オカシヤッター!」ミライは諸手を上げて喜んだが、シズカは不服気であった。 24
2014-08-04 23:05:08「私は」「シズカ=サン。よいイクサでした。ヘンに拘る必要は無いのでは?」自分と同じ様に汗を滲ませたシホに促され、シズカは躊躇った。そこへミライが声を掛ける。「シホ=サン、シズカ=サン、ユウジョウ!だね!」「そうね。ユウジョウ」「……ユウジョウ」 25
2014-08-04 23:10:08シズカも渋々といった様子で頷いた。これぞアース・アフター・レインのコトワザ通りか。三人のアイドルは和やかに微笑み合った。それは夕暮れの河原で殴り合った後のヤンクめいて、実力でぶつかり合った者たちのみ通じるゼンの極致と言えよう。「それじゃあオカシ取って来るね!」 26
2014-08-04 23:15:05ミライが戸棚に駆けていくのを見遣りつつ、シホとシズカは視線を交わした。「次はこんな風には行かないから」「ええ、望むところよ」口数は少ないが、そこには確かなライバルへの尊敬と信頼が込められていた。何かと諍いが絶えない二人だが、互いに良い競争相手だと認め合っているのだ。 27
2014-08-04 23:20:10「えへへ~!はい!」ミライが和風の箱を持ってきてタタミに置いた。高級感溢れる装いに期待が募る。「さ、どんなオカシかな~?」涎を垂らさんばかりに満面の笑みを浮かべたミライが勢い良く蓋を開けた。その中にあったのは……タイヤキ。アイドル達が凍りつく。 28
2014-08-04 23:25:04「……あ」咄嗟に逃走を試みたミライのアイドル判断力は実際見事であった。しかし、それを阻むようにエントリーする者あり!「イヤーッ!」「ンアーッ!」顔面をアイアンクローめいて鷲掴みにされ宙吊りになるミライ。アンブッシュ者の手は万力のように掴んで離さない! 29
2014-08-04 23:30:09「…サヨコ=サン」そのアイドルは、眼鏡の奥の目をマグロめいて暗く濁らせて呟いた。「そのタイヤキ、私のですよね…?」「ち、違うんです!これには訳が合って…!」「アイエエ!決して盗ろうとしたのでは…」シズカとシホは震え上がり言い訳を並べる。「…アバッ」その眼前でミライは瀕死! 30
2014-08-04 23:35:02サヨコは二人の言い訳を聞き流し、眼鏡を外すと丁寧に懐に仕舞い、言った。「…モンド・ムヨ」「「アイエエエエエ!?」」 31
2014-08-04 23:40:06どんよりと澱んだ曇天に悲鳴が響き渡る。だがその程度ことは、このネオサイタマではありふれたチャメシ・インシデントに過ぎないのであった。 32
2014-08-04 23:45:05