鎮魂のアリア・2

前回(http://togetter.com/li/707429 )の続きとなっております。
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みなみ @minarudhia

ロックの話とマッシュの話を交互に聴いていた最年長の自警団長は、時折耳に入れてくる部下の言葉にも応じると改め三人の顔を見渡した。

2014-08-22 22:50:54
みなみ @minarudhia

「そういうことでしたか。実は昨日、ジドールより北の方へ不審な車が通って行ったという話がありましてね」 「不審な車?」

2014-08-22 22:52:50
みなみ @minarudhia

「ええ。おそらく車軸か車輪に痛手があったのでしょう。かなり仰々しい音を立てながら走っていくのを何人か目撃しているそうなんですよ。それがゾゾかコロシアムの方かは詳しい話がありませんがね」

2014-08-22 22:54:24
みなみ @minarudhia

自警団長は言いながら手元のカップを口に当てる。 三人にもカップが用意されているが、手のつけられないまま湯気はほとんど消えかけていた。 「俺達は、被害者がどういう人物かはわかりません。もし昨日殺された男性の詳細がわかっているのなら…」 「ああ、殺された人物ですが…」

2014-08-22 22:56:16
みなみ @minarudhia

自警団長が胸のポケットから手帳を取り出し、パラパラとめくりだした。 「そうですね…ヘンリー・マクシム、26歳。この名前に心当たりがあればいいのですが、ご存じありませんか」 「ヘンリー・マクシム?最近この辺りで活動しておるという若造か」

2014-08-22 22:57:44
みなみ @minarudhia

「誰なんです?」 「中流貴族の出でのう、確か資産家をしておるという話じゃ。友人が世話になったというので名しか聞いておらん」

2014-08-22 22:58:36
みなみ @minarudhia

「そうでしたか。そのヘンリー・マクシムがオペラ座の開演中殺害された事に関してですが、何かご存じありますかな?お二人の話ですと、ヘンリー・マクシムが座った座席はあなた方の間の列にあるそうですが」 そういえば…。 ロックが思い浮かんだ事を口にする。

2014-08-22 22:59:55
みなみ @minarudhia

「そういえば…」 「そういえば?」 自警団長が身を乗り出す。 「彼が俺達の間の列に座った時、妙に焦っている様子でした」 「ふむ」

2014-08-22 23:01:48
みなみ @minarudhia

「少なくとも、オペラを観に来たって感じではなかった。まるで何かに追われているので逃げ込んできたって言っていいか」 「なるほど……」 自警団長はうなずきながら手帳に何かを書き込む。 書き込みつつ、三人に向かって言葉をかけた。

2014-08-22 23:04:27
みなみ @minarudhia

「わかりました。今回の件で…マッシュさんといいましたか、あなたの身柄は仮釈放という扱いにしておきます」 「仮?」 「当たり前でしょう?もしもあなた方も捜査に協力するというのであれば話は別ですがね」

2014-08-22 23:06:18
みなみ @minarudhia

そう肩をすくめる自警団長。 三人も互いに顔を見合わせ、仕方なく了承の意をこめて頷くしかない。 マッシュの身元を探られなかっただけ幸いだ。

2014-08-22 23:08:30
みなみ @minarudhia

自警団の詰め所を辞退した三人は、帰りの途中手紙を手に走っていくセリスを見かけた。 「おい、あれセリスじゃないか」 「何か急いでるようだが……おーい、セリス!」

2014-08-22 23:10:08
みなみ @minarudhia

マッシュが声をかけるもセリスの耳には届かなかった様子で、遠くへ行ってしまった。 「……行っちまった」 「手紙のようなものを持っておったがおそらく伝書鳩じゃろう」 「でもどこに伝書鳩を?…まさかエドガーのとこか?」

2014-08-22 23:11:45
みなみ @minarudhia

ロックとマッシュの顔が青くなる。 「ちょ、急いで止めようぜ!」 「そうするか!アウザーさんは先に帰ってて下さい!」 「うむ、構わんが…」

2014-08-22 23:13:42
みなみ @minarudhia

走っていく二人に苦笑いしながら、アウザーは杖をつきつつ帰路につくことにする。 一方セリスを追って走る二人だったが、途中にある曲がり角を曲がった瞬間。 つるん ずっしゃああっ! 途中でマッシュが派手に滑って転んだ。 「!?」

2014-08-22 23:15:33
みなみ @minarudhia

…道端に落ちていた果物の皮に愕然としている間、ロックは気づかず一人走って行ってしまった。 急いで追いつこうと起き上がるところにくすくすと笑いが聞こえた。

2014-08-22 23:17:42
みなみ @minarudhia

「大丈夫?」 「いてて…あ、ロックが…」 「もう、彼は行っちゃったわよ。あなたって本当におっちょこちょいなのね」 「余計なおせ…… わ!?」

2014-08-22 23:19:31
みなみ @minarudhia

なおくすくすと軽やかに響く笑いにマッシュが思わず振り返った。 知らぬうちに成立した会話をしていたのは、長身に黒髪銀目のあの女。 慌ててマッシュは起き上がり軽く道着の汚れを払いながら聞いた。

2014-08-22 23:22:14
みなみ @minarudhia

「…いつからいたんだ?」 「ついさっきよ。あなた達が彼女の後を追いかけていった時に」 言いながら、彼女はマッシュの前まで近づいてきた。 思わせぶりというものの見られない、ごく自然な足取りで。

2014-08-22 23:25:21
みなみ @minarudhia

「ここじゃなんだし、どこかでゆっくり話さない?あなたが急ぎの用でなければだけど」 「ロックが……いや、あいつだけでも大丈夫か。そういえば聞きたいことがあるんだがいいか?」 マッシュの言葉に彼女は頷いた。

2014-08-22 23:27:24
みなみ @minarudhia

「……お前、名前は?」 「名前?…………トンボ」 「ト、トンボ?」 「ト・ン・ボ」 -続く-

2014-08-22 23:28:21