高橋源一郎さんが、「戦争知らない」世代はもっと謙虚に語るべきだとツイート

高橋源一郎 @takagengen

今日は、月に一度の朝日新聞論壇時評の日です。今回は「戦争と慰安婦」と題して、いままた論議を呼んでいる「慰安婦問題」について書きました。

高橋源一郎 @takagengen

Ｃ・イーストウッドの映画「父親たちの星条旗」の冒頭には、「ほんとうに戦争を知っているものは、戦争について語ろうとしない」という意味のことばが流れます。深く知っているはずのないことについて大声でしゃべる人間には気をつけたい、とぼくは思ってきました。もちろん、ぼく自身についてもです。

高橋源一郎 @takagengen

「慰安婦問題」でも、ある人たちは、「慰安婦」は「強制連行」され「性的な奴隷」にされた、と主張し、またある人たちは、「いや、あれは単なる娼婦で、自発的に志願して、かの地にわたり、大儲けしたのだ」と言います。けれど、朴裕河さんのいうように、どちらの場合もあった、というべきでしょう。

朴裕河 @parkyuha

ハフポストに書かせてもらうことになりました。最初のものは、先日ここに載せた、告訴をめぐる報告です。内容は同じですが、お知らせまでに。今後はもうすこしいろいろ流せると思います。 huffingtonpost.jp/park-yuha/kore…

高橋源一郎 @takagengen

そして、その間には無限のグラデーションがあり、「性的な奴隷」に見える中に日々の喜びもあり、また逆に、「自発的な娼婦」に見える中に、耐えられないほどの苦しみもあったはずです。けれど、この問題をめぐる議論は、お互いに「見たいもの」しか見ないことで不毛になっていったように思います。

高橋源一郎 @takagengen

とりわけ、「戦争を知らない」世代が、紙の「資料」をもとにして、なんでも知っているかのように論じる姿に、ぼくは強い違和を感じてきました。実際に「戦争を知っている」世代は、そんな風な語り方は決してしなかったからです。

高橋源一郎 @takagengen

戦争中、多くの作家たちだが、兵士として戦場に旅立ちました。そして生き残ったものたちは、帰国して後、戦場で見たものを小説に書き記しました。そこには、「慰安婦」たちの生々しい姿も刻みつけられています。有馬頼義、長谷川四郎、富士正晴、伊藤桂一、田村泰次郎、古山高麗雄、等々。

高橋源一郎 @takagengen

彼らは見たものを書きました。頻発する強姦、民間人・農民の無差別虐殺、狂気に陥る兵士、自分が何をされるかわからないまま連れて来られた慰安婦たち。けれども、彼らは「わたしは知っている」とは書きませんでした。「わたしが見たのはそれだけだ。他のことはわからない」と書いたのです。

高橋源一郎 @takagengen

古山高麗雄は、数多くの戦争小説を書き、その中で繰り返し、慰安婦を登場させました。けれど、彼は、戦場では慰安所に行こうとはしませんでした。「慰安婦は、殺人の褒賞であること」を知っていたからです。戦後しばらくたって「慰安婦問題」が大きく取り上げられるようになって、彼はこう書きました。

高橋源一郎 @takagengen

「彼女は…生きているとしたら…どんなことを考えているのだろうか。彼女たちの被害を償えと叫ぶ正義の団体に対しては、どのように思っているのだろうか。そんな、わかりようもないことを、ときに、ふと想像してみる。そして、そのたびに、とてもとても想像の及ばぬことだと、思うのである」

高橋源一郎 @takagengen

誰よりも、彼女たちの心に近かった古山でさえ、「想像の及ばぬことだ」というのだとしたら、遥か遠く、「戦争を知らない」ぼくたちは、もっと謙虚になるべきなのかもしれません。そんなことを書いてみました。ご笑覧くだされば幸いです。