1943 ザ・バトル・フォア・ミッドウェイ#2

本編には微塵も関わってこない狂気設定
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劉度 @arther456

高度八千mの高空には、何者も存在しない。飛行機はおろか空気すら薄くなる。彼女と"彼女"の抱擁を、邪魔するものは誰もいない。「赤城さん」寒さに体を縮こめるように、自らを両の腕で抱きしめて、亜也虎上の空母棲鬼は愛おしげに呟く。「やっと、戻ってこれましたね」 24

2014-08-28 21:49:12
劉度 @arther456

すうっと空母棲鬼が目を閉じる。再び開かれたそれは、先程までの剣呑な光は宿しておらず、代わりに柔らかくも意思の強い光を抱いていた。「ええ、そうね、加賀さん」声すら変えて、空母棲姫は己に呼びかける。「貴方と一緒に一航戦の誇りを、今一度世界に轟かせましょう」 25

2014-08-28 21:52:30
劉度 @arther456

ミッドウェイから駆け続けて、気がつけばここにいた。欠けた半身を取り戻した彼女は、とにかく力を示したかった。頭上にいた戦艦棲姫を取り込み、水底の要塞たちをその魔力で操って指揮下にいれ、それでもなお欲望は収まらない。敵を討ち、焼きつくさなければ、この乾きは収まらない。 26

2014-08-28 21:55:52
劉度 @arther456

「ミッドウェイでは後れを取ったけど、今度は奇襲はありません」「そうですね。索敵もしっかりして、戦線に臨みましょう!」「第一次攻撃隊はどうしているかしら」「……前方に敵部隊。それと交戦中ね」「なら、もっと高度を上げましょう。私と赤城さんが、二人っきりになれる高さまで」 27

2014-08-28 21:59:08
劉度 @arther456

くすくす、くすくす。一つの体から、混ざった2つの笑い声が響く。亜也虎はB-29を連れて、更に高く上がっていく。ゼロも届かぬ高さまで。眼下の海は薄雲に覆われて見えないが、構わない。無念に駆られた彼女たちは、その目に映るものを全て焼きつくすことしか考えていなかった。 28

2014-08-28 22:02:26
劉度 @arther456

その頃、伊豆大島では熾烈な航空戦が展開されていた。横須賀鎮守府に残っていた空母は全てここに集まり、弓から、あるいは巻物から艦載機を射出している。彼女たちの指揮を執るのは、横須賀第8地区の中将である。「この伊豆大島が最終防衛ラインだ!何が何でも守りきれ!」 29

2014-08-28 22:05:46
劉度 @arther456

硫黄島から離水した爆撃機編隊は北上している。想定される行き先は、首都の松代か、横須賀のどちらか。両方の進撃ルートに警戒線を敷けるほどの戦力はない。伊豆大島上空でB-29を全て撃墜する。艦娘だけではない。提督たちの乗るミサイル艇や、ドイツ海軍の軍艦もB-29を攻撃する。 30

2014-08-28 22:09:08
劉度 @arther456

しかし手数が足りない。太平洋戦争で沈んだB-29が全て集まったかのような軍勢が、空を覆っている。それに相手は爆撃機だけではない。「敵機、来ます!」「撃ち落とせぇ!」ファランクスが唸る。P-38の式神は、それを器用にくぐり抜け、甲板に機銃掃射を見舞う。「危ねぇ!」 31

2014-08-28 22:12:50
劉度 @arther456

このP-38が一番厄介だった。B-29一機に10機ほどついた双胴の悪魔は、零戦よりも速い。ドッグファイトに付き合わず、一撃離脱戦法で編隊を引っ掻き回し、零戦をB-29に近づけさせないのだ。「敵編隊、伊豆大島通過まで残り5分!」足は向こうのほうが速い。逃せば、追いつけない! 32

2014-08-28 22:16:18
劉度 @arther456

悠々と上空を飛行するB-29。その一つが、突如爆発した。高空に赤い花が咲く。「来たかっ!」中将は思わず後方を振り返った。はるか彼方、小学校のグラウンドから飛行機が次々と上がっていく。零戦ではない。"陸軍"二式複座戦闘機「屠龍」と、三式戦闘機「飛燕」である! 33

2014-08-28 22:19:28
劉度 @arther456

グラウンドには、巨大で複雑な魔法陣が描かれていた。風と大地の魔力を受け取り、それを中心の術者に渡すために刻まれた魔法陣の直径は、およそ50m。伊豆大島を飛行場に見立て、陸上機の発艦を可能にさせる魔力フィールドの中央に立つのは、横須賀第33地区の居残り空母組。 35

2014-08-28 22:22:57
劉度 @arther456

だが、居残りとて弱いわけではない。「やべー、飛燕やべー。ちょっと操作狂ったら吹っ飛ぶよこれ」「隼鷹うるさい、気が散る!」飛燕を操縦する隼鷹と飛鷹は低速の軽空母ということでミッドウェーには呼ばれなかったが、その練度は赤城と飛龍に継ぎ、加賀や蒼龍よりも高い。 36

2014-08-28 22:26:31
劉度 @arther456

そして、面倒を見切れないということで留守を任された正規空母が二人。「瑞鶴?ちゃんと屠龍たちを守って偉いわね。瑞鶴も頑張るのよ?」「私はいずもま……飛鷹よ!瑞鶴はあっち!」「そうよ!瑞鶴は一人で十分よ!飛鷹は下がってなさい!」「なんで私が怒られるのよ!?」 37

2014-08-28 22:29:52
劉度 @arther456

屠龍を操るのは正規空母・翔鶴。その護衛には瑞鶴がついていた。見ての通り、翔鶴は精神安定のために誰彼構わず瑞鶴にする傾向があり、本物の瑞鶴の方はそんな姉に振り返って貰おうと他の瑞鶴たちに突っかかる。大事な所で指揮を邪魔されたら困るということで、留守を命じられていた二人だった。 38

2014-08-28 22:33:07
劉度 @arther456

魔法陣によるブーストがあるとはいえ、陸軍の試作式神は本来空母で運用するものではない。限界以上の魔力を注ぎ込んだ、最高練度の彼女たちを持ってしても、屠龍と飛燕を動かすので精一杯だった。最強の疾風や五式、ましてやドイツの航空式神を操るには、とてもではないが体が持たない。 39

2014-08-28 22:36:36
劉度 @arther456

だが今は、あの稲妻に守られた超空の要塞に手が届けば十分だった。「よおっし、飛燕隊、発進しちゃって!」隼鷹の操る飛燕は、P-38に追いつき、機銃を斉射!何発かが主翼に命中し、P-38は火を吹きながら落ちていく。B-29の防衛網に、穴が開いた。「翔鶴!」「任せて下さい」 40

2014-08-28 22:39:57
劉度 @arther456

竜殺しの名を冠せられた戦闘機が、B-29の前上方から迫る。高空には上がれるが、速さはやはり向こうの方が上だ。すれ違う一瞬でケリをつける。翔鶴所属の妖精には、それだけの力量がある!ドゥッ!機首に搭載された37mm砲・ホ203は、違うこと無くB-29のエンジンを貫いた。 41

2014-08-28 22:43:13
劉度 @arther456

「敵重爆、撃墜!撃墜!」高空に赤い花が咲く。前衛が撃ち漏らしたB-29は全て撃墜した。だがこれは先遣隊だ。次は本隊、そして亜也虎が来る。「艤装の調整と補給、急いで!」式神を収容しながら、飛鷹は妖精さんに命じる。その頭上に迫る影、撃墜し損ねたライトニングが、機銃で飛鷹を狙う! 42

2014-08-28 22:46:34
劉度 @arther456

「瑞鶴!」「嘘……ッ!」避けられない。ギュっと飛鷹は硬く目を瞑った。銃声、そして爆発音。覚悟していた痛みは皆無。「だから、瑞鶴は私って言ってるでしょ?」恐る恐る目を開けると、桜吹雪を纏った零戦が遠ざかっていくところだった。「直掩は私に任せて」瑞鶴の零戦だ。 43

2014-08-28 22:49:52
劉度 @arther456

『嬢ちゃん、なんで俺らはトム猫じゃなくてメザシと戦ってるんだ?陸軍機だろ、あれ?』桜吹雪の零戦に乗った妖精さんが、瑞鶴に通信を送ってくる。「知らないわよそんなの。敵に聞いてちょうだい」空からはブンブンと音を立てながら、次々とライトニングが降ってくる。 44

2014-08-28 22:52:21
劉度 @arther456

『突っ込んで来いってか?お断りだぜ。パイロットは生き残って敵を倒してなんぼだからな』「だったらさっさと敵を倒す!後ろに来てるわよ!」『ハッ!わざとだよ!』P-38に後ろを取られたのも束の間、零戦はその旋回性能を生かし背後を奪還。20mm機銃でペロハチを撃ち落とす。 45

2014-08-28 22:55:43
劉度 @arther456

「凄いわねえ、瑞鶴。でもそろそろ補給に戻ったほうがいいわよ?」「分かってる!」瑞鶴は式神に帰投命令を出す。これはまだ序盤戦、こんな所で息を切らす訳にはいかない。水平線の彼方に現れた大編隊を睨み据えながら、瑞鶴は式神たちに魔力を注ぎこむのであった。 46

2014-08-28 22:59:00
劉度 @arther456

【1943 ザ・バトル・フォア・ミッドウェイ】#2おわり#3へ続く

2014-08-28 22:59:24