ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス #4

事故る奴は……"不運"と"踊"っちまったんだよ……
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2015-05-31 21:01:53
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。投下中はTLを余り見ないので、感想・実況などを #ryudo_ss に書いて頂けると、後でチェックして小躍りします。では、宜しければ暫くの間お付き合い下さいませ)

2015-05-31 21:02:59
劉度 @arther456

シャトルは真っ二つになって、急速に落下し始めていた。彼女は思わず空に手を伸ばすが、手のかかるものなどありはしない。再び衝撃。次の瞬間、大量の水が彼女に覆いかぶさった。輝く水面がどんどん遠ざっていく。シャトルの破片と共に彼女は、崩れて、剥がれて落ちていく。 1

2015-05-31 21:04:59
劉度 @arther456

声は気泡に変わって、もう二度とどこにも届かない。水から逃れようにも、剥がれたシャトルの破片が彼女をシートに縫い止めていた。だんだんと、水が赤く染まっていく。やがて彼女は手を伸ばすことを止めた。波の向こうの光には、もうこの手は伸ばせない。 2

2015-05-31 21:08:24
劉度 @arther456

それでも彼女は諦めきれない。口から血泡を溢れさせながら歌う。血を吐きながら詩を紡ぐ。空に昇れなければ、彼をこちらに連れてくるしかない。この歌が彼に届けば、きっと私のところに来てくれる。空に、宇宙に私の歌を響かせる。例え人が、大地が、星が全て海の底に沈むことになっても。 3

2015-05-31 21:11:55
劉度 @arther456

【ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス】#4

2015-05-31 21:12:38
劉度 @arther456

海が赤かった。血と鉄錆と油に塗れた海は、その底に眠る死体と残骸の数を否が応でも想起させる。しばらくその海を眺めていた提督だったが、やがて首を振って赤いヴィジョンを振り払った。ここは西方海域、ステビア海。朝日に照らされた、穏やかな青い海だ。 4

2015-05-31 21:15:22
劉度 @arther456

「酷いな、これ」提督が視ていたのは、現実の海ではない。空と海に塗り込められた、かつての大戦で死んでいった兵士たちや、沈んでいった兵器たちの魂だ。精鋭の深海棲艦がやってきたことに反応して、眠っていた霊達が荒ぶっている。耳を澄ませば、憤怒と怨嗟の声まで聞こえてきそうだ。 5

2015-05-31 21:18:37
劉度 @arther456

「大丈夫ですか、提督?」傍らの不知火が声をかける。「だいじょぶ」頬を指で押し上げ、笑顔を作る。「……提督が霊媒体質だったとは知りませんでした」「え。誰から聞いたの」「ご友人の、倉田中将からです」あちゃあ、と提督は手で顔を覆う。彼女にはなるべく秘密にしていたかったのだが。 6

2015-05-31 21:22:00
劉度 @arther456

「まあ、うん。そんなに大したものじゃないよ。そもそも視えないと提督になれないし」艦娘を指揮する、提督になるための絶対条件。それは犯罪歴のない身の上でもなく、優秀な身体や頭脳でもなく、艦霊や妖精さんを知覚し、彼らと言葉を通じ合わす特殊能力。つまり、霊が視えることであった。 7

2015-05-31 21:25:14
劉度 @arther456

「しかし霊媒体質ともなれば、それを悪用されて苦しい思いをしたこともあったのでしょう?」「あはは、まあ、ね」悪用、というわけではないが、つい先日も呪歌をもろに受けて、水底に飛び込みそうになったばかりである。「申し訳ありません。今まで気づけなかった不知火の落ち度です」 8

2015-05-31 21:28:32
劉度 @arther456

「ま、不知火が気にすることじゃ無いって」「……なら、いいのだけれど」提督は顔から手を離した。「さ、そろそろ戻るよ。作戦開始の時間だ」「了解しました」そして二人は艦内に戻り、司令室に入った。伊勢、隼鷹、北上、大鳳といった主要な艦娘たちが既に集まっていた。 9

2015-05-31 21:31:44
劉度 @arther456

「西方打通作戦も大詰めだ。私たちはオマーン湾付近を西進している」モニタにステビア海の地図が表示され、『蔵王』の進行ルートがその上に書き込まれる。最西端、アデン湾には敵本隊を示す赤いマーカーがある。「ヘーイ、提督。ここ、思いっきりイランの領海なんですが、OKなんデスカー?」 10

2015-05-31 21:35:00
劉度 @arther456

泊地水鬼との戦いで負傷した陸奥の代わりに出撃するため、セイロンから駆けつけた金剛が尋ねた。「偉い人が話つけてくれたらしい」「だったら、援護の一つや二つつけてくれればいいんだけどねえ」「まあ、黙って通してくれるだけでも御の字でしょ。攻撃されてもおかしくないし」 11

2015-05-31 21:38:21
劉度 @arther456

「大鯨のセンサーで、このルートの敵が一番マシだっていうのは分かった。敵の東洋艦隊"本隊"を叩き、イタリア艦を救出して、日本に帰る。最後の一戦だ、気合入れていこう」「敵の戦力は?」「一番用心しないといけないのは空母棲姫だね。制空権をとられたらおしまいだ。大鳳、頼むよ」 12

2015-05-31 21:41:34
劉度 @arther456

「任せて下さい。赤城さん、加賀さん、翔鶴さんと私の空母機動部隊で、皆さんの頭上をお守りします!」それに答えて提督も頷いた。それから他の艦娘たちも見渡し、ある少女に目を留める。「……なんか気になる?」アッドゥ環礁の一戦以来、浮かない顔をしている熊野だった。 13

2015-05-31 21:44:53
劉度 @arther456

「いえ。前方の敵は問題ありませんが……後方は本当に大丈夫ですの?」「大丈夫だよ。そのために今まで作戦を重ねてきたんだから」リランカ島、アッドゥ環礁は攻略した。念のため陸軍揚陸艦『鳥堀』が哨戒を行い、異変があればすぐに知らせる手筈になっている。 14

2015-05-31 21:47:03
劉度 @arther456

「それならいいのですが……」そう聞かされても、熊野の表情は晴れない。「ふぅん。ま、いいや。会敵は一時間後の予定だ。準備は怠らないように。それじゃ、解散!」艦娘たちは敬礼し、各々の持ち場につく。「熊野はちょっと残って」その中で提督は熊野を呼び止めた。 15

2015-05-31 21:50:15
劉度 @arther456

熊野はすぐに提督の前まで来たが、二人きりになるまでは黙っていた。「アークバード」最初に口を開いたのは、提督だった。「調べられましたか?」「いや。何しろ時間が殆ど無いからね。倉田に無理してもらったけど、諜報データベースを当たるのが精一杯だったって」 16

2015-05-31 21:53:30
劉度 @arther456

熊野の心にずっと引っかかっていたもの。それは、泊地水鬼が今際に呟いた『アークバード』という言葉だった。熊野は聞いたことがないし、提督をはじめとする他の艦娘たちも知らない。ネットで検索してもそれらしきものは引っかからない。故に、あの深海棲艦が知っているのが気になった。 17

2015-05-31 21:56:46
劉度 @arther456

「では、アークバードなど無かったと?」「いや、無いわけじゃない」提督がタブレットを動かし、ファイルを開く。そこに写っていたのは、見たこともない形をした物体だった。なんとなく飛行機のように見える。「アメリカのNASAに昔、アークバード計画っていうのがあったそうだ」 18

2015-05-31 21:59:59
劉度 @arther456

静止衛星では200基が必要だが、移動可動なプラットフォームなら1基で済むという試算は財政面で大いにアメリカを沸かせたが、そもそも1970年代にレーザー衛星を作る技術力は無かったため、この計画はSDI構想ごと頓挫した。「ただ……この計画、最近再利用されたらしいんだ」 19

2015-05-31 22:03:15
劉度 @arther456

「それは?」「ケルプ、って知ってる?」「いえ」「軌道上のデブリ清掃プラットフォームだって。15年ぐらい前に打ち上げられて、今でも宇宙にいるらしいよ」ケルプという宇宙機動プラットフォームの設計の元になったのが、アークバード。それが、提督が陸軍将校から聞いた話だった。 20

2015-05-31 22:06:32
劉度 @arther456

「宇宙、ですか……」話を聞いた熊野は、なんとなく上を見上げた。もちろん、巨大とはいえそんな衛星など見えるはずもない。「深海棲艦も、宇宙に興味がおありなのかしら?」「どうだろうねえ……まあ、もう封印しちゃったから分からないけど」 21

2015-05-31 22:09:52