(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。投下中はTLを余り見ないので、感想・実況などを #ryudo_ss に書いて頂けると、後でチェックして小躍りします。では、宜しければ暫くの間お付き合い下さいませ)
2015-06-05 20:31:35前回、前々回はこちら 1:togetter.com/li/826551 5:togetter.com/li/830245 6:togetter.com/li/830657
2015-06-05 20:33:37プリンス・オブ・ウェールズが揺れている。艦橋の外は黒煙に覆われて何も見えない。大英帝国の最新鋭艦であり、先王の称号を冠した誇り高き戦艦が、沈む。「これまでか。総員、退艦せよ」そう言うが、彼女はその場を動かない。艦と共に命運を共にするつもりであった。 1
2015-06-05 20:34:26「提督!」そこに誰かが飛び込んできた。参謀、ではない。空母棲姫だった。艦娘たちの激しい攻撃を受け、その体はボロボロだ。それでようやく戦艦棲姫は、これが二度目の沈没だということを思い出した。「断ち切れるかと思っていたが、やはり因縁からは逃げられなかったか」 2
2015-06-05 20:37:43「何を言っているのですか!早く逃げましょう!」空母棲姫は彼女を艦長席から引き剥がそうとする。「No, thank you」だが、彼女は首を横に振る。「……分かっているだろう。今はこの艦が私の体だ。ここを離れて生きることはできん。それよりも君が逃げろ」 3
2015-06-05 20:40:55「できません!貴方と一緒に運命を変えるために、ここまでついてきたんです!今更私一人で、何処に行けというのですか!」「運命なら、変わったじゃないか」「え?」戦艦棲姫は空を見上げる。空の更にその先へ想いを馳せる。「彼女は望み通り、星の海に行くことができた」 4
2015-06-05 20:44:15「悔しいが、艦娘たちにしてやられたよ。私たちは因縁を断ち切ろうとした。だけどそんな必要はなかったんだ」そもそも運命など最初から無かった。艦娘たちは艦の記憶を持ちながらも、全く新しい未来を作ろうとしていた。「船のカタチに囚われていた私たちが、勝てないはずだ」 5
2015-06-05 20:47:29船体が大きく傾いた。戦艦棲姫には分かる。もうすぐ弾薬庫に引火する。「君は行け。新たな海で戦ってもいい。イタリアに行って、人の生き方を学んでみるのもいい。ハーミーズ、君はもう自由だ」すると空母棲姫は、椅子にもたれかかる戦艦棲姫を抱きしめた。 6
2015-06-05 20:50:42「なら、私はここに残ります」何か言いかける戦艦棲姫の口を塞ぐ。「あなたと同じ時に、同じ場所で沈めるのなら。私はその最期を選びます」「……ありがとう」数度の揺れの後、弾薬庫に引火し、二人は艦橋もろとも爆炎の中に消えた。 7
2015-06-05 20:53:56帝国の偉容の象徴であった戦艦が、音を立てて傾いていく。魚雷によって穿たれた穴から海水が流れ込み、浮力を失わせていく。13時21分。黎明から続いた海戦は、東洋艦隊旗艦、プリンス・オブ・ウェールズの轟沈によって終わりを告げた。 8
2015-06-05 20:57:11激しく、そして厳しい戦いであった。敵の奇襲に始まり、謎の魔力嵐によるレーダーの無力化、所属不明機と不良深海棲艦の乱入、泊地水鬼の復活など、料理の並んだテーブルをひっくり返したような大混乱だった。だが、その中で艦娘たちはやれることを精一杯やり、その結果勝利を掴んだ。 10
2015-06-05 21:00:37「良かった。実に良かった!作戦完了じゃないの!……だからさー、私を放してくれないかなー?」提督は未だに艦長席に縛り付けられていた。周りの艦娘たちは、縄を解こうともせず提督に冷ややかな視線を向けている。泊地水鬼の呪歌はもう聞こえないにも関わらず、だ。 11
2015-06-05 21:03:51「提督よ」利根が一歩進み出た。「あのイタリア艦について説明してもらおうか」利根が指さしたのは、後ろで鉄鋼を食べている2隻のイタリア艦、リットリオとローマであった。「……何を?」「とぼけるなぁ!なーにがイタリア艦じゃ!あやつら、深海棲艦ではないか!」 12
2015-06-05 21:07:09「いや、うん、それはそうなんだけど……」「ワシらは深海棲艦を助けるために戦っていたのか!?事と次第によってはこのままお主を海に放り込むぞ!」利根の怒りももっともである。艦娘は深海棲艦と戦うために生まれたのだ。多少の例外はあるものの、深海棲艦を助けるなどもっての外である。 13
2015-06-05 21:10:33「これには高度な政治的判断ってヤツが」「ほう!ならその判断を下した阿呆はどこのどいつじゃ?元帥か?大臣か?まさかお主の独断という事はあるまい!?」「……総理と宮内卿」「……なぬ?」つまり日本の政府機関の二大トップだ。利根は目を丸くする。 14
2015-06-05 21:13:46「馬鹿な!?なんじゃ、どういうことじゃ!?」「提督。そろそろ茶番は終わりにして、私たちから説明させてくれませんか」鉄鋼を食べ終わったローマが声をかける。「あー……うん、それじゃあお願い」提督が答えると、ローマは軽く咳払いをしてから話し始めた。 15
2015-06-05 21:17:02「私、ローマと姉のリットリオは深海棲艦です。あなた達の区分で言うなら戦艦ル級ですね。5年前にイタリアに移住しました」「移住?あなたたち、イタリアに住んでたの?」片腕をギブスで覆った陸奥が尋ねる。「はい。ナポリに住んでいました」 16
2015-06-05 21:20:15イタリアは深海棲艦の猛攻を受け、南イタリアを放棄。ジェノヴァとヴェネツィアを拠点として地中海の深海棲艦に抵抗している。南イタリアは深海棲艦が占拠しており、その実態は窺い知れない。しかしまさか、深海棲艦が普通に街に住んでいるとは、誰も思わなかった。 17
2015-06-05 21:23:33「海で暮らしていた方が良かったんじゃないの?」「いえ、その、深海棲艦が言うのも何なんですが……水が合わなくて」「水が合わない」「だってそうでしょー?お腹を空かせて戦うよりも、美味しいパスタを食べてたほうが幸せじゃなーい」鋼材のおかわりを頬張りながら、リットリオが口を出す。 18
2015-06-05 21:26:53深海棲艦とて個体差はある。その個体差が彼女たちのように大きく出れば、船として戦うよりも人間、あるいは女の子として食事をしたり、おしゃれをしたほうが楽しい。そういう変わり者、あるいはやる気のない深海棲艦が放棄された南イタリアに集まって、自分たちの国家を建てようとしていた。 19
2015-06-05 21:30:18「そういう訳で、まずは亡命した装甲空母姫さんのツテを頼って、日本に私たちが赴こうと思ったんですー」「日本に来て、何をする気なのじゃ?」「政府筋の交渉が中心ですが、ひとまずは陸地で穏便に暮らせる深海棲艦もいる、という証明になろうかと思っています」 20
2015-06-05 21:33:32ローマの顔は真剣そのものだが、艦娘たちの顔は芳しくない。何しろ十年以上、人類は深海棲艦に苦しめられているのだ。ここにいる艦娘たちはまだ顔をしかめるだけで済んでいるが、鎮守府によってはすぐに叩き出されてもおかしくはない。「まあ……うん。最後に判断するのは上だから、ね?」 21
2015-06-05 21:36:45