ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10100245:メニイ・オア・ワン #1
「ハイご苦労さん、49課」バーコード頭髪者は嫌味たらしく拍手した。それからタバコのソフトケースをトントンと叩き、一本取り出して咥えた。すぐ傍の一人が跪いてライターで着火し、再び直立姿勢に戻った。「ああン?」デッドエンドが睨みつけた。 26
2014-08-30 00:28:11「ああン?じゃないでしょ、許可取れてないのはそっちでしょ」隊長は咥えタバコのまま近づいた。「後は我々ハイデッカーで引き継ぐ事案だって言ってるの」ハイデッカー。その名を聞いたスポイラーの顔も険しくなった。「勝手な……」「スッゾ!」隊員の一人がスポイラーから被害者を引き剥がす。 27
2014-08-30 00:33:31「ザッケンナコラー!」デッドエンドが食って掛かる。ハイデッカー隊員が一斉にショットガンを構えた。それだけではない。スナイパーライフルのレーザーサイトが6,7つ、デッドエンドの身体を這った。それらは隣接するビルからだ。「だからね、まあ、アンタらの徒労に免じてね」隊長が言った。28
2014-08-30 00:39:34デッドエンドが歯ぎしりし、ジゴクめいた形相になるほどに、隊長の嫌味な笑顔は強まった。「この件は我々で適切に処理するので安心しなさいッて事だよ!」「アイエエエ」この件の被害者……即ちN案件の重要参考人はバケツリレーめいて隊員から隊員へパスされ、装甲車両へ運ばれてゆく。 29
2014-08-30 00:43:01……「挙げられる筈だった」スポイラーは呟いた。「あン?」デッドエンドはしかめ面で助手席のスポイラーを睨んだ。スポイラーは肩をすくめてみせた。「いや、ヒマなんで、寝ちまっただけです。でも、そのたび夢に見るんですよ。何度も何度も。だって悔しいでしょう。結局揉み消されて……」 30
2014-08-30 00:49:34デッドエンドは欠伸した。ノーコメント。ザリザリ……ラジオの音声がノイズの中から浮かび上がる。テレビ番組の音声放送だ。『彼女は元諜報員です!どこから?ロシア?メキシコ?いえ違います。アメリカだ!』「大体、ハイデッカーが隠滅する理由は……陰謀が……」「イヤーッ!」「グワーッ!」31
2014-08-30 00:58:58裏拳を鼻面に叩き込まれたスポイラーは鼻血を流した。「なにを……」「スッゾオラー!黙れよ。タイムリーな話だろうが」デッドエンドはラジオに耳を傾ける。『彼女はかつて、磁気嵐下の日本の内情を探りに来たスパイ・エージェントでした』「ハッ!」デッドエンドは笑った。「やってやがる」 32
2014-08-30 01:03:23「ナンシー・リーねえ……ハイデッカーの連中、躍起になってますよ、相当に」スポイラーは鼻血を拭った。「懲役何万年でしたっけ?どうでもいいですけどね。美人なんですよね?でも俺はハイデッカーについて、実際そのキナくさい……」「イヤーッ!」「グワーッ!」「しつッこいんだよ、テメエ!」33
2014-08-30 01:17:23デッドエンドは遮り、ダッシュボードのチューナーのツマミを操作する。「さっきから何やってるンです?」「ア?」デッドエンドが睨んだ。「……そういや、話して無かったか?」「何をです」キュルルル……チューニング音がスピーカーから発せられる。キュルルル……「……を発見。急行されたし」 34
2014-08-30 01:19:32「ハハァ。来やがった」デッドエンドは凄惨な笑みを浮かべ、舌なめずりした。(だから何なんです)スポイラーは言いかけ、黙った。遮れば三度目の裏拳が飛んでくるからだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」「オマケだ。あのなァ、要は、日頃の意趣返しをしてやろうじゃねえかッて話さ」「意趣返し?」35
2014-08-30 01:23:13「さっきのテメェの話と同じだよ。ハイデッカーの奴らの手柄を横取りしてやろうッてンだよ!」「え?」「書き取れ!」スピーカーから流れてくる急行指示はハイデッカーのものだ。スポイラーは鼻血を流しながらメモに区画を走り書きする。「何のアドレスです?」「ナンシー・リーだ。挙げるぞ!」 36
2014-08-30 01:26:22「ハァ、ある程度呑み込めてきました」スポイラーはやや上の空で頷いた。「でも、初めて聞かされましたよ、その計画」「だァから、ついさっき決めた事だろうが!何言ってんだテメェは。事件はリアルタイムだろうが!」スポイラーは無言で頷いた。ギャギャギャギャ……後方から、やけに煩い走行音。37
2014-08-30 01:30:20特徴的なその走行音に、幸か不幸か、スポイラーは聴き覚えがある。「じゃあ、大体わかりました」スポイラーは助手席ドアを開いた。「行ってきますんで」「行け!」二秒後、左隣の車線に並ぶ車列とスポイラー達のビークルの車列の間を、武装オープンカーが弾丸じみて走行して来た。38
2014-08-30 01:35:32KRAAAASH!武装オープンカーの悪魔の牙じみたフロントグリルが、開け放たれた装甲ビークルのドアを破壊し、そのまま駆け抜けた。スポイラーはもうビークルの車内にいない。デッドエンドは何食わぬ顔で、引き続き、ハイデッカー無線の傍受に集中した。 39
2014-08-30 01:38:36「おう坊主」武装ビークルを運転する角刈りの男は、乗り込んできたスポイラーをティアドロップサングラスの奥から見た。「今、デッドエンド=サンと通信したがよ。ナンシー・リーがターゲットだな?」「そうです」スポイラーは曖昧に頷き、メモ紙を差し出した。「行きましょう」「行くとするか」40
2014-08-30 01:43:07「そんじゃまあ、もう一発、加速だ!」角刈りのデッカーはシフトレバーに増設されたボタンを押し込んだ。ゴゴウ!武装オープンカーのマフラー付近がロケットの炎を噴き、左右の車列のサイドミラーを根こそぎ破壊しながら急加速する! 41
2014-08-30 01:47:06「おう坊主」武装ビークルを運転する角刈りの男は、乗り込んできたスポイラーをティアドロップサングラスの奥から見た。「今、デッドエンド=サンと通信したがよ。ナンシー・リーがターゲットだな?」「そうです」スポイラーは曖昧に頷き、メモ紙を差し出した。「行きましょう」「行くとするか」40
2014-08-30 22:00:38「そんじゃまあ、もう一発、加速だ!」角刈りのデッカーはシフトレバーに増設されたボタンを押し込んだ。ゴゴウ!武装オープンカーのマフラー付近がロケットの炎を噴き、左右の車列のサイドミラーを根こそぎ破壊しながら急加速する! 41
2014-08-30 22:02:02「アイエエエ!」「スッゾオラー!」後方へ過ぎ去る車列からは時折罵声が飛んでくる。ティアドロップ角刈りデッカーはピュウピュウと口笛を吹きながら、紙切れの内容をあらためた。「クマナミ・ストリート。オホッ!成る程、成る程」「確かに近いッスね」「おう、俺のクルマならな!」 42
2014-08-30 22:09:21ガオン!空気を裂いて、武装オープンカーは赤信号交差点に突入した。交差道路は信号の変わり目だ。「ツイてるぜ」この角刈りデッカー、通称タフガイは、赤信号突入を好む。前に車がなくなるからだ。交差点の先はそこそこ空いており、適当にジグザグ走行すれば、車列の間を無理に抜ける必要もない。43
2014-08-30 22:17:01「サイレン鳴らします?クルマ邪魔じゃないですか?」「ンな事したらよォ。ハイデッカーのクソ共に俺らの事がバレちまうだろうがよ」「そうでした」この武装オープンカーは見た目こそ電子戦争以前、1970年台アメリカを懐古するフォルムだが、強度が違う。車両衝突程度ならば何も問題にしない。44
2014-08-30 22:22:54加えて、タフガイの得意とするのは運転だ。何も問題はない。ダッシュボードには液晶テレビモニタが据え付けられ、マイコポルノ映像が映っている。この武装オープンカーはタフガイが規律違反して業務使用する私物なのだ。彼は片手をダッシュボードに伸ばし、チャンネルを切り替えた。 45
2014-08-30 22:28:09