rsbs日誌#25

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　矢が、甲高い音を立てて突き刺さり、目標対象を射線の延長線上に吹き飛ばした。二人は理解する。今までこんな風な事は無かった。私達は嵌められたのだと。「祥ちゃん！」「鳳ちゃん！逃げるよ！」直ぐ様駆け出した。逃げなければ殺される。次の瞬間、着弾の爆音が響いた。

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#rsbs日誌　山道を駆ける。出来る限りジグザグに。しかし何故偵察機が敵を見付けられ無かったのか？もしかしたら、最初から息を潜めて潜伏して板のかもしれない。悩んでいる暇はない。主機を全力で回して逃げるだけだ。次々と放たれる砲撃は、恐らく駆逐艦か軽巡洋艦クラスの物。

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#rsbs日誌　足の速い敵に捕まればお仕舞いだ。なるべく短期決戦で仕留めなければならない。とは言えども敵の勢力さえ分からない。そうして居る内に、二人は平地へと追いやられた。砲撃によって誘導されたのだ…「ちぃぃ！」対空砲でせめてもの反逆を試みるも、空振りに終わる。

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#rsbs日誌　「祥ちゃん！あそこ！」鳳翔が避けんだのは小川だった。狭く危険だが、彼処なら速度も出せるだろう。素早く振り向き、矢を駆逐艦に撃ち込む。砲弾並みに鋭い爆裂矢が艦娘の頭を吹き飛ばした。家屋の影に隠れながら、どうにか小川へと辿り着き、着水した。前進強速。推進機が唸る。

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#rsbs日誌　追い縋る敵を、後進航行しながらに矢を撃ち込んでゆく。威力が乏しく、転けさせたり片腕を吹き飛ばしていく程度だ。「祥ちゃん、飛ぶよ！」鳳翔の声で即座に振り向き、二人は小川の段差を飛んだ…目の前には開けた海。そして…ずっと待ち構えていたであろう艦娘の艦隊。

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#rsbs日誌　「ああ…私達は…」「とっくに袋の鼠だった訳ね」背中合わせに二人は呟く。川を追ってきた艦隊も包囲の隊列に加わった。「こんな事になっちゃったけど…鳳ちゃんと居れて私ずっと楽しかった」「奇遇ね…私もよ。いつか…こんな日が来てしまうとは思って居たけれど」

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#rsbs日誌　「それは私もよ。殺してきたんだもの。殺されもするわ。この前見た映画でこんなシーン、あったわね」互いに矢を番える。取って置きの、流星と彗星を…「キャシディとキッドね。いい映画だったわ」「地獄でも一緒が良い…なんて、我儘かしら…」

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#rsbs日誌　「祥ちゃんが良ければ、私は深海棲艦になっても…一緒に弓を射ちたいわ」「…ありがとう。愛してる。鳳ちゃん」「私も…愛してる。祥ちゃん」二人は覚悟を決め、素早く弦を引いて絞った。砲声が轟き、魚雷が航走する軌跡を描く。爆音が海上を流れていった。

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#rsbs日誌　多勢に無勢なのは分かり切って居る。ただ其れでも、こんな世の中に少しでも抗う事で自分達が存在して居た事を刻みたいのだ。誰に対して…？何に対して…？やがて矢も無くなり弓も折れた。体はボロボロだ。もはや武器は懐刀を残す他ない…血が目に入ってよく見えない。

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#rsbs日誌　ああ、終わりだな…と黒く虚ろな砲口が此方に向けられる。主砲が吼えた。体をすくませる。……が、しかし…痛みは一向に来ない。なぜ…？恐る恐る、見える方の目を開くと自分達を取り囲んでいた艦隊は慌てふためいていた。高速で突っ込んでくる影があった。軽巡洋艦を主とした艦隊だ

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#rsbs日誌　「川内、水雷戦隊、突撃します！」夕暮れよりもなお鮮やかなホオズキ色の軽巡洋艦が斬り込んでいく。唖然とする艦隊に更なる斬り込みが投入された「長良の足に付いてこれる？遅いよ！」見上げれば、夜の帳…駆逐艦と軽巡洋艦が最も輝く時刻…夜戦だ…

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#rsbs日誌　互いに同じ艦種。されども疲弊している物とそうでない物ならば…？答えは分かり切って居る。弱っている方が負けるのだ、と…第三勢力の登場に鳳翔と祥鳳は只々呆然として居た。艦隊は駆逐され、あとに残るのはボロボロの自分達と…目の前の水雷戦隊。

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#rsbs日誌　「あの、貴女達は…」鳳翔は恐る恐る目の前に立つ川内に声を掛けた。だが彼女は微笑みながらゆっくりと頭を振った。「貴女と話すのは私じゃないから」「…？」鳳翔が眉を潜めながら首を傾げたその時、海が揺れた。小さく、小さく…そして…巨大な潜水戦艦が、浮かび上がって来た。

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#rsbs日誌　呆気に取られた鳳翔と祥鳳がぼんやりとして居ると、一人の少女が艦橋から現れた。闇の様な黒髪に、鮮血よりも尚紅い瞳を持った、妖しい少女…「お主らが、フォーゲルと名乗っておったヒットマンかや？」姿とは似ても似つかぬ老獪な声で少女は二人に語り掛ける。酷く、恐ろしかった

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#rsbs日誌　この相手に、嘘偽りは無駄だと悟り、祥鳳は頷いた「その通り、です…私達二人が、フォーゲルです」「祥ちゃん…っ」「鳳ちゃん…解るでしょう？あの人に嘘は無駄だわ…なら、素直に話してしまいましょう」「……」そして、鳳翔もまた静かに頷いた。「ふむ。有り難いのう」

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#rsbs日誌　「わしはのぅ。この地に酷く弓使いの達者な航空母艦が居ると言う話を聞いてやって来たのじゃ。そうさなぁ…その剛力で鋼の弦を引き、到底届かぬ遥か彼方まで飛んで行き、音を引き裂く魔性の矢を放つ、二人の航空母艦を…じゃよ」クスクスと嗤う少女に、二人は冷や汗をかいた。

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#rsbs日誌　「それで、どうすると言うのです？」鳳翔の問い掛けに、少女は勿体振り酷く演技付けて語って見せた。「わしの仲間として、わしと共に歩まぬかと声を掛けるだけじゃ。この腐った世界の中で、少しでも楽しく躍り狂う為にのう？」「…もし、断ったならば…？」祥鳳が恐る恐る問うた。

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#rsbs日誌　「素直に諦める」少女はやれやれ、とばかりに肩を竦めるジェスチャーをみせ、二人は意外な行動に拍子抜けを食らった。「…じゃが、逆に問おうでは無いか。人を殺してまで、そして艦娘を殺そうとしてまで生き延びたい。死にたくはないと言うお主らが、簡単に死を受け入れるのかや？」

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#rsbs日誌　二人は顔が強張った。「すまぬが少々経歴を調べさせて貰うたよ。必死に生きようとして、しかし叶わぬ物と知り、ヒットマンと成る。毎日の飯を食う為に、其所までして生きたいと言うのに、お主らは生を諦めるのかや？」「死にたくないわよ！」祥鳳が吼えた。

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#rsbs日誌　「倫理を踏みにじる事だって位、解ってるわよ！でも、違う町で稼ぎに出たとして稼げる保証なんて無いのよ！艦娘と言うだけで断られる事も山程在ったわ！それでも…食べていかなきゃ飢えてしまうのよ！飢えない為なら悪魔と契約したって良い！私達は、生きたかった！」

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#rsbs日誌　「それは正しくないのう」ぽつりと少女は呟く。「契約を為すならば魔女と為すがよい。そう、お主らの眼前に立つ魔女と。わしと契約すればよい」少女は手を鳳翔と祥鳳に差しのばす。「好きなだけ戦わせてやろう。好きなだけ弓を射たせてやろう。好きなだけ喜びを感じさせてやろう」

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#rsbs日誌　「心強い仲間と肩を並べ、この海を征しよう。艦娘を虐げる悪党を殺し、わしらの活路を塞ぐ愚か者を粉砕し、わしと、そして仲間達と共に躍り狂おうぞ」鳳翔と祥鳳は理解した。この少女は本気で言って居るのだと。本気でこの世界で躍り狂い遊んで見せるつもりなのだと。

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#rsbs日誌　「無論、断ってくれても構わぬ。そして今この場で安らかな死を欲するのであらば、わしの川内が痛みもなくあの世に送ってやろう」「あまり良い気分はしないんだけどネー」愛用の魚雷を撫でながらボヤく川内に、少女は苦笑した。「さあ、どうするかや？航空母艦鳳翔、航空母艦祥鳳」

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#rsbs日誌　「クロス・ザ・ルビコンじゃよ。賽は投げられておるのじゃ」静寂。潮風が体を撫でる音と小波の音ばかり。そして…「お受けします」「私も、お受けします」二人は、少女の軍門に下った。「良かろう。歓迎しよう、航空母艦鳳翔に航空母艦祥鳳よ。我が艦隊にようこそ」

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#rsbs日誌　「所で…」鳳翔は問うた。「貴女のお名前を聞かせてくれませんか？」「わしか？わしの名は…」少女が指を弾く。夜の帳が瞬く間に晴れて行く。星が落ちる様に流れ、月が昇っては海へと降りて行く。「わしの名は比良坂。比良坂巴。自称鋼の魔女じゃよ。若しくは化け物と呼ばれるな」