rsbs日誌#46

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　…――ハヂマリ――…

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#rsbs日誌　嘗て人々は闇の世界の隣人の存在を感じていた。それ故に人々は闇の世界 の隣人を敬い、祀り、時に祓い、時に忌避し、戦い、名を与える事で未知なる物から既知なる物へと作り変えた。時が巡り…やがては科学が世界を席巻する頃… 多くの人々は…闇の世界の隣人を忘れ去った…

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#rsbs日誌　…否。忘れたがった。と言った方が正しいのかも知れない。人智の外の世界の住人の存在を。矮小な力しか持たぬ己らの身ではどうしようもない存在の事を。理解しがたい、恐怖その物と言っても良い其れを忘却の彼方へと押し遣り、無かった事にしてしまいたかったのかも知れない。

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#rsbs日誌　其れは一つの防衛策とも呼べなくは無かった。認識せず、把握せず、何も感じない。闇の世界の隣人は朧なれども他者に己の存在を知られてこそ恐怖の力を発する。無でも駄目だが解明されても為らない…おぼろげこそが不安となり、不安こそが恐怖となる…だからこそ、忘れようとしたのだ。

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#rsbs日誌　嗚呼されども…そうされども、彼らとて忘却の彼方にて燻り続ける程暇では無い。忘れられてなるものか。人間が生きている様に、万物の生物が生きている様に、彼らもまた『生きている』…存在を認められたくて。力を誇示したくて。好きな様に、活き活きと振舞いたいがままに。

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#rsbs日誌　彼らは目に見えない程の細い細い手足を伸ばす。まるで種から芽吹いた根の様に。まるで凍てつく水に氷が広がるかの様に。まるで炎がこの世の物を燃やし尽くすかの様に。伸ばされた手足はされども芽吹かず…然し彼らは諦めが悪かった。長い時を経ようとも構いやしなかった。

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#rsbs日誌　何故ならば、彼らにとって時間とは些細な物であったから。自らの願いが叶えば其れでよし。何度でも何度でも、種が芽吹く様に種を蒔く。星の数程に無数の種を蒔く。その中の一つでも芽吹けば良いのだから。芽吹いたならば、後は端正こめて華咲かせるまで。暗い暗い恐怖の華を…

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#rsbs日誌　……――――果てしなく遠い過去の事でも無ければ、何時か訪れる遠い未来の事でも無いある日の事――――……

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#rsbs日誌　「方位３００にモータ音！　全艦爆雷投射用意！」「各員、爆雷用意！」「爆雷用意よし！」「全艦投射！」鮮やかな南の海にドラム缶に酷似した灰色の物体が投げ込まれる。ドプン、ドプンとくぐもった水音を響かせて其れらは泡を纏いながら水中へと没して行った。使い手が望むが侭に。

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#rsbs日誌　やがて其れは定められた水深に到着すると、海中においても尚、眩しく爆ぜた。まるで海の中に突如として雷轟が轟くかの如く。夥しい衝撃波と白泡を産み出し、青く暗い海中を滅多矢鱈に引き裂いた爆発は、深海棲艦の潜水艦を見事に食い殺して見せた。海中に彼らの血とオイルが散る。

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#rsbs日誌　同時に、艤装内に収められていた燃料や魚雷に引火。夥しい爆発を咲かせた其れは粉微塵になって、海へと還った…「巨大な爆発を確認。敵潜水艦を撃沈したと認む。これより残留物の確認と警戒に移る」「了解。…ふぅ！　髪がべた付いちゃうったら…」少女はやれやれとばかりに零した。

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#rsbs日誌　蒲葡色の艶やかな長い髪を持った少女は、名を如月と言う。戦う為に産み落とされた艦娘と言う存在において尚、彼女は乙女らしく己の自慢の髪を大事にしていた。「対潜水艦任務って下手な任務よりもバッチャバッチャ海水を浴びるもんねぇ。爆雷の水飛沫で」同僚の少女が苦言を零す。

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#rsbs日誌　「高速戦闘の最中は３０ノット以上で走るものだから、至近弾でも無いと水飛沫なんて被らないけれども…低速で爆雷を投げるって為ると、海水のシャワーが待ってるんだもの…嫌になっちゃうわ」「愚痴は後よ。帰ったら特別報酬のお風呂とお菓子が待ってるんだから踏ん張りなさい」

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#rsbs日誌　対潜哨戒任務の艦隊の旗艦として据えられた軽巡洋艦の長良が配下の駆逐艦の少女達を小さく叱責する。尤も、彼女も本気で叱るつもりは無かった。何故なら海水で体がベタ付くのを嫌うのは彼女も同じだからだ。「隊長、深海棲艦の残骸を発見した」菊月が淡々と状況を報告した。

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#rsbs日誌　「了解！　間違いないわね？」「嗚呼。首が浮いてきた。敵ながら流石に哀れだな…」菊月は淡々と語りながら、嘗て深海棲艦だったモノに小銭を与えた。「渡し賃だ…せめて安らかにな…」沈めば、其処にはもう敵も味方も無い。荒れ果てた魂が安らかに眠る事を願うばかりである。

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#rsbs日誌　「それじゃぁ、グルっと一周して生き残りが居ないか調べたら次に行くよ！」「はい！」号令に対する返事を少女達が返した瞬間の事だ。妙な波が彼女らの足元を揺らした…「えっ…？」如月はキョトンとする。何故ならばその波はあらぬ方からやってきたのだ。此れに驚かない者は居ない。

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#rsbs日誌　「うわっ…何これ！？」「うへえっ」不意に、ソナーを装備していた少女達が口々に苦悶の声を漏らした。艤装に取り付いていた装備妖精さん達も目を白黒させながらヘッドフォンを頭から取り外す程だ。「何があったんですか？」如月は長良に問い掛けた。夜戦でも動じない彼女が驚くとは…

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#rsbs日誌　「酷い雑音よ！　まるで海の中が凶悪なミキサーでグッチャグチャに掻き混ぜられてるみたいな！」言われ、如月は友人の皐月からソナーのヘッドフォンを借りて音を聞いた。それは確かに、酷い雑音であった。とてもではないが海中の状況を聞くなんて侭為らない程に、酷い音で溢れている。

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#rsbs日誌　「隊長！　右手の方角に黒雲と…大波だ！」菊月が吼える。少女達はバッと振り向き、彼女の指し示した方角を見た。其処にはつい先程まで存在しなかった黒雲が大きく、広く、恐ろしい程に広がっている。そして巨大な大波が、津波と言っても良い様な物が、彼女達目掛けてやってきていた。

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#rsbs日誌　「全員退避！　両舷機関、全速一杯！」長良が叫び、少女達は続いた。平穏だった海は瞬く間に荒れ始め、風が嵐の様に吹き荒ぶ。足元の海面は激しく揺れて覚束無く、艤装の推進器が空を切りそうになる。それでも少女達は、如月達は必死になって逃げ続けた。おどろおどろしい黒雲から。