不知火に落ち度はない その17

yamoto @yamoto

夕方過ぎのことである。司令室のドアがノックされた。 「どうぞ」 「失礼する。司令、緊急事態だ」 ドアを開けて現れたメスゴリラの一言に、俺は今日の業務終了のお知らせを感じた。 なにせ、目も顔も笑ってない。 こういう時の長門は本当に余裕がないのだ。 #不知火に落ち度はない

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「何事でしょうか」 ちっこいドーベルマンが早速噛みつく。 単なる確認の様に見えるが違う。 あいつの手元には未決済の書類がダースで詰まれている。 これを明日に持ち越すなど絶対許さないという目をしていた。 ぶっちゃけ俺のせいですけどね。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

パチンコの神が囁いたのだ。 今日新入荷の台、３番目の席がアツいと。 神の囁きに従い朝から順番待ちをし、フィーバーを勝ち取れたのだが。 その後、肩を掴まれて仕事に引きずり戻されたのが昼頃の俺。 携帯の電源切ってたのに、何故居所わかった不知火。 #不知火に落ち度はない

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「不知火、できればお前も力を貸して欲しい」 「……どういう事ですか、長門さん？」 お？ なんかマジで緊急事態臭い。 大抵メスゴリラがやらかすときは、巻き込む相手を俺に絞ってる。 だが、不知火を巻き込むとなると……まさかな。 #不知火に落ち度はない

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「陸奥が男に捨てられた」 ビーッ ビーッ ビーッ 緊急事態発生 緊急事態発生 現場にいる職員は直ちに陸奥の艤装を凍結せよ 繰り返す 緊急事態発生 目標は酷く混乱している 迂闊に近づかず距離を取って応対せよ #不知火に落ち度はない

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「わかりました。直ちに作戦に入らせていただきます」 不知火も事の深刻さを理解したらしい。 さっと書類をどけて、作戦モードに入った。 掛け値なしのデフコン１なのだ。この事態は。 「長門。まず概要の説明から頼む」 「ああ、時間がないので手短に」 #不知火に落ち度はない

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「まず陸奥が男と出会ったのはおよそ３週間前。陸奥が非番の時に出会った男だ。写真はこれだ」 折りたたみ式ケータイのディスプレイに、低解像度の男の顔が浮かぶ。 年齢は見た限り20代後半のサラリーマンに見える。 「不知火」 「検索開始します」 #不知火に落ち度はない

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長門からケータイを受け取った不知火は、早速MicroSDを抜き出してPCにセット。 そのまま先程の画像を取り出すと、住基ネットワークシステムにアクセスする。 極秘に配備されている不審者特定のためのシステムだ。 これで特定できりゃいいんだが。 #不知火に落ち度はない

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「長門、お前気づかなかったのか、その時」 「無理だと思います、司令」 不知火が画面から目を離さず、話に割り込んでくる。 「画像のタイムスタンプが昨日の夜です」 「そういうわけだ司令。せっせと隠れて密事に勤しまれては気づきようがない」 なるほどな。 #不知火に落ち度はない

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「密事ってか蜜事だろ多分」 「微妙にわかりづらいな、それ。それで次に来たメールがこれ」 時間は今日の──おいおい、10分前かよ。 ほんとに速攻だったんだな、お前の対応。 早速そのメールを開いて見せて貰うと。 そこには── #不知火に落ち度はない

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件名：死にたい 本文： 捨てられた どうしよう #不知火に落ち度はない

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「イタズラの可能性は？」 「陸奥がやるなら、もっと手の込んだことをする」 「不知火。陸奥は今日非番か？」 「はい。二週間前から外出申請が出ています」 「見落としたな。車は？」 「それはチェックした。どうやらタクシーらしい」 #不知火に落ち度はない

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「検索に掛かりました。氏名、鷺沼──表向き不動産関係の営業員になっています」 「堅気か？」 なら、ちょっと安心。 陸奥にしてはレベルがまだ低い相手だ。 「残念ながら。結婚詐欺で２回訴訟を受けています」 「わーお、大当たり」 地雷の臭いがプンプン。 #不知火に落ち度はない

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「他に情報ねーか？」 「海外への渡航履歴を現在参照しています」 「わかった。長門、タクシー会社に連絡」 「どこのタクシーかなんてわからないぞ？」 「陸奥が出るとしたら早朝からだ。その時間にやってる近所のタクシー会社当たれ」 「わかった。確認してくる」 #不知火に落ち度はない

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さって、俺はさっさと車両課に連絡だな。 さっきのメールからして、艤装を持ってってる気配はない。 まだセーフなラインと言えるが。 「司令。鷺沼の渡航履歴ありました」 「うわ。きな臭いの当たっちゃったな。場所は？」 「香港です」 はい、当たり。 #不知火に落ち度はない

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「ってことは偽名かね」 「わかりませんが。会社の方を洗ってみます」 多分洗っても何も出てこないとは思うが。 たまーにいるからなあ。バックボーンが。 「司令、確認が取れた。三番町方面に下りたらしい」 「詳しい住所メモっとけ。不知火、後は無線で報告」 #不知火に落ち度はない

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軍服をさっと脱いで、壁に掛けてあったジャケットを手に取る。 悪いときに悪いことは重なる、というのは良くあることだ。 暴徒鎮圧用のゴム弾入り拳銃を入れてさあ出動準備。 見るとメスゴリラもいつもの服装ではなく、カジュアル服に着替えてる。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「行くか」 「時間の猶予はないからな」 「お二人ともお気を付けて」 おう。 不知火に見送られ、俺達は司令室を後にした。 さて、今回の修羅場はどんなもんになるのか。 前回のコンビナート事件みたいなのにならなきゃいいんだが。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

高速道を飛ばす。確保に失敗すれば大惨事が待っている。そんな気がしてならない。 普段ほとんど携帯を弄らないはずの長門は、さっきからメールの転送に大忙しだ。 「どうだ」 「今反応を伺ってる。どうやらカフェに入ったらしい」 「そのまま凹んでてくれよ。なあ」 #不知火に落ち度はない

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「どうかな。とりあえず今、会話は出来てる」 「今回の相手にいくら貢いだんだろうな」 「不動産か。想像したくないな。マンションとか買ってなきゃいいんだが」 ローン組んで、二人暮らしのマンション生活♥ 何桁になるのか想像したくねー。 #不知火に落ち度はない

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「話し合えばわかってくれるよね、って返答が来た」 「もちろん無理だろそんなん」 「まずは少し飲み物でも飲んで落ち着こう と送っておいた」 「グッジョブ。時間稼ぎが出来ればいいんだが」 現場までは残り１０分程度。 エンジンは悲鳴を上げっぱなしだ。 #不知火に落ち度はない

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「現在地を特定できればいいんだが」 「GPS仕込んであるはずだがな、あいつの電話」 『残念ながら無理です。GPSは陸奥さんの部屋で固定されてます』 「私用電話は別にしたのか、あいつ」 『そのようです。或いはそうさせられた可能性も』 #不知火に落ち度はない

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「ますますやりづらくなるな。恋路でそこまでやるかね普通」 『お言葉ですが司令。そこまでやるのは普通では？』 「うっせお黙りなさい小娘」 『……』 大人ってのはもーちょっと汚いものがあるんですー。 「まあ、まあ。気持ちはわからなくもないぞ」 #不知火に落ち度はない

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「何だ長門。お前も私用電話持ちたい口なわけ？」 「不知火。どうしたらわかって貰えると思う？」 『不知火に聞かないでください』 「私にもわからないから聞いたんだ」 ん？ 何か空気生暖かいんですけど。なにこれ。 #不知火に落ち度はない

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『知りません。また、鷺沼ですが、人身売買などに絡んでいる形跡はありませんでした』 「単なる旅行かー。豪勢だな、随分」 『預金口座を洗いますか？』 「予備程度でいいぞ。捨てられた、って言ってたからそっちは白だろ」 やってることは真っ黒だけどね。鷺沼。 #不知火に落ち度はない