日本海沿いの安宿で死んだ友人に会った2

日本海沿いの安宿で死んだ友人に会った http://togetter.com/li/721908 日本海に面したキャンプ場で巨人の死体を見つけた 続きを読む
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アドリア海2 @phortl

「なぜそこまで偉いポジションにいるはずの学者が、自身の系譜にちょっとした闇を抱えているからといって、そこまで露骨な工作活動にうって出なくてはならないのですか?」 自分は半ばうんざりしつつ相部屋の男に問い直した。

2014-09-22 17:08:18
アドリア海2 @phortl

「いやそれは順序が逆です。その大物は煌びやかな地位を築く人生を得られた後に歴史の改ざんへ乗り出したわけではなく、最初から過去の抹消を行いたい一心のみでそのポストにまで這い上がっただけの話です。彼あるいは彼らの行動理念は常に一貫しているのです」

2014-09-22 17:17:07
アドリア海2 @phortl

「そういう集団が躍起になって隠したがっている巨人の存在にあなたが勘付いているというなら、あなたの立場は危ういものになりはしませんか?」 「実際危ういのかも知れません。ただ私のような小物が何をわめこうが社会に受け入れられることはほぼありませんからね」

2014-09-22 17:22:47
アドリア海2 @phortl

「向こうが私に気づいたところで、手を出してくることはそうないのではないですかと思いますがね」 そう言うと男はペンを握った手で耳をかき、ニヤニヤ笑った。 その仕草も旧友そっくりだった。 「失礼ですがあなたは何をしている人なのですか」 自分は我慢できなくなり彼に問いかけた。

2014-09-22 17:28:46
アドリア海2 @phortl

「僕ですか?」 相部屋の男は目をパチパチさせた 「僕は行商をしています」 「行商とはどういうことですか?」 「いろいろな古物の売買を仲介して生計を立てています。まあリサイクル業界の末端の住人と思ってもらえればそれでいいです」

2014-09-22 17:32:30
アドリア海2 @phortl

「そういう人がなぜいまだ公にされたことがないはずの、ロシア沿海州に起源を持つ巨人と、それを取り巻く状況にそこまでお詳しいのですか?」 「僕は」 男はなおも目をしばたかせた 「昔から歴史に興味があって、趣味でいろいろ調べ回っているだけです。アマチュアの史家といったところでしょうか」

2014-09-22 17:37:12
アドリア海2 @phortl

「特にこの日本海を取り巻く地域がかつて有した独自の文化圏にはひきつけられる部分がありましてね。たとえば古の日本の歴史などというと、どうしてもその中心たる近畿や九州地方に視点の軸を置きがちで、そうして見ると東日本や北陸などというのは文明の在せぬ空白地帯もいいところなのだけれども」

2014-09-22 17:41:33
アドリア海2 @phortl

「実際のところ当時日本より進んだ文化技術を有していた大陸諸国と最も近い距離に位置する日本海沿岸というのは、それらの国々と頻繁に物品や人材をやり取りできるむしろ先進地域であったわけですね」

2014-09-22 18:05:06
アドリア海2 @phortl

「結果的に裏日本に点在する各地の港は沿海州、朝鮮、サハリンに至るまでの広大な文化的経済的ネットワークの一部分に収まり、今日のわれわれが日本の歴史の主役とみなすヤマト及び同盟諸国連合とはまったく異なる様態でそこに存在していたわけです」

2014-09-22 18:11:38
アドリア海2 @phortl

「それらは日本とはまったく別の国家といってよかった、いや実際中央が統一を宣言した後になっても、ずっと長らく実質的な独立国としてあり続けていたのでしょう。そういうことが中央の歴史書には一切記述されていない。都合が悪いからです。人間がいかに歴史というものを書き換えるのが好きな生物か」

2014-09-22 18:18:11
アドリア海2 @phortl

「ここからもわかるでしょう?」 「あなたは本当に歴史が好きなのですね」 と自分は皮肉を込めて言った。 「いえ素人の道楽です」 「ですがあなたはあなたがおっしゃるにはその道の専門家も感知し得ない巨人の存在にたどり着けたわけでしょう?」

2014-09-22 18:26:50
アドリア海2 @phortl

「いえそれは逆に素人の強みといいますか、むしろアマチュアであったからこそ腐敗した学会の影響を受け、その眼を曇らされることもなく探求を続けられましたので、その結果ではないですかね」 「本当に趣味だったのですか?」 自分は男に意図的に挑発的な視線を送った。

2014-09-22 18:33:26
アドリア海2 @phortl

「あなたは雑誌記者になりたかったのではないですか?」 自分は相部屋の男に対しゆっくり語りかけた。 「それでその未知の巨人について調べ上げ、センセーショナルなネタとして出版社にたれ込むことで、なし崩し的にそのポジションを手にしたかったのではないですか?」

2014-09-22 23:40:48
アドリア海2 @phortl

「僕がですか?」 相部屋の男はポカンとした顔をして自分のことを見ていた 「いいえとりわけそのようなことはありませんが」 「ほんとうにですか?」 「別にうそなどついておりませんが」

2014-09-22 23:49:21
アドリア海2 @phortl

「あなたは地味でルーチンワークに陥りがちな自身の仕事と生活を無価値なものとみなし、日々日の当たる世界への転進を望んでいたのではないですか」 「いえそんなことはありません」 相部屋の男は少し憮然とした顔をした

2014-09-23 00:10:19
アドリア海2 @phortl

「さっきから聞いてたらなんだあなたは少し失礼ではないですか。僕は今現在の職に満足しているしわずかばかりの誇りだって抱いていますよ」 「はあそれはすいませんでしたどうもあなたが自分の昔の知り合いに似ていたものですので」 「僕はあなたのことは知りません。この話はもういいでしょう」

2014-09-23 00:40:51
アドリア海2 @phortl

自分の発言が癇に障ったのか、相方の男はそれからというもの最初あったときと同じようにこちらには目線もくれず自身の殻に引きこもってしまった。 自分はさすがに非常識な振る舞いをしてしまったと恥じる一方、しかしどうせあのような偏屈な男は放っていてもこうなるのだと半ば開き直りもした。

2014-09-23 00:45:52
アドリア海2 @phortl

しかしながらまた30分ほど経過したころ、相部屋の男は視線を再び自分のほうへ向け始めた。彼は穴の開くような勢いを持って凝視してきていた。その目玉は頻繁に左右へ揺れ動いており、ひどく気味の悪い思いがした。

2014-09-24 00:40:57
アドリア海2 @phortl

あまりに挙動不審なので、自分が声を掛けようか迷っていると、男はものも言わずに立ち上がり、こちらのほうへ歩み寄ってきた。それでますます気持ち悪く感じ体をこわばらせていると、男は意に反してこちらを素通りし、自分の背後にある窓を通して表の空間を注視し始めた。

2014-09-24 01:04:21
アドリア海2 @phortl

そこには夜の日本海だけがあるはずだった。男はその上へ視線を走らせつつ、時々せわしく瞬きしては、 「あ、あ」 と悲しげに声を漏らした

2014-09-24 01:08:27
アドリア海2 @phortl

彼が何にそこまでとらわれているのか気になり、自分も男の見つめる方向へ視線をむけてきたが、遥か彼方の海面上で、イカ釣り漁船か何かのものと思われる光が時折またたいているだけだった。

2014-09-24 01:17:05
アドリア海2 @phortl

けれども男は今にも泣き出しそうな顔をしながらそれをにらめつけつつ、最後にもうひとつ 「ああ」 と叫ぶと、肩を落として窓に背を向け、自分の席へと戻っていってしまった。漁船の光ももう見えなかった。

2014-09-24 01:51:04
アドリア海2 @phortl

それからまた5分ほど、男は無言でい続けた。ときどきコオコオと息を吸ったり、頭を激しく掻き毟ったりしており、そんなさまを見せ付けられると哀れに思われるのみならず、居心地が悪くて仕方がなかった。

2014-09-24 01:57:05
アドリア海2 @phortl

そのため自分がしかたなく、一体どうしたのかと問いかけると、彼はしばらくこちらをぼんやり眺めた上で 「僕の話を聞いてくれるのですかくれるのですね」 と怯えた幼児のように頼りなさげに体を震わせた

2014-09-24 02:12:35
アドリア海2 @phortl

「あの一ついいですか」 男は蚊の泣くような声を絞り出してそう言った 「はい」 「あのですねあのですね」 「はい」 「~(地名)に僕の妹がいるのですけど」 「はい」 「言伝をお願いできますか」 「はい?」

2014-09-24 02:49:41