日本海沿いの安宿で死んだ友人に会った

日本海に面したキャンプ場で巨人の死体を見つけた 1 http://togetter.com/li/715570続きを読む
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アドリア海2 @phortl

先日日本海へ面した海岸通りをサイクリングしてきた。海にせり出したとある半島を回りこみ、その先端にある岬の灯台を訪ねるのがその日のメインの行程だった

2014-09-20 13:26:02
アドリア海2 @phortl

問題の灯台は草原に埋め尽くされた断崖絶壁の上にあり、車道は直接延びていないため、自分は路肩に自転車を止め、徒歩にて進んだ

2014-09-20 13:34:37
アドリア海2 @phortl

途中、灯台からの帰りと見える一人の男とすれ違った。男は全体的に真っ黒な格好で、丸い帽子を深くかぶり、顔はよく見たわけではないが軍人のように険しかった。 男は背中に無数の風車をつけており、明らかに「正常」ではなかったので自分は気持ち悪いなあと思ってよけて通った

2014-09-20 13:36:38
アドリア海2 @phortl

男はその後もぶよぶよ左右に振動しながら車道のほうに消えていった。自分はそれが昔いた友人の気配に似ていることを認めた。その友人を自分は失ってしまっていた

2014-09-20 13:37:41
アドリア海2 @phortl

灯台を離れた後はさらに海沿いを自転車で南下し、寂れた港町のはずれにあるゲストハウスに宿泊した。ゲストハウスとは自分のようなサイクリング客やバックパッカーなどいわゆる根無し草たちが旅先で多用する施設で

2014-09-20 14:08:40
アドリア海2 @phortl

トイレや風呂などが共同となっている代わりに宿代は通常の旅館、ホテルなどよりもずっと安価な設定になっている。ただもうひとつのデメリットとして、繁茂期には見知らぬ他人と相部屋押し込まれるという独特の流儀があり

2014-09-20 14:10:45
アドリア海2 @phortl

実際その日自分もその境遇に陥る羽目となった。ただもとより自分たちのようなアウトサイダーにとってこのような事態は日常茶飯事であり、またそれを旅の余興とするのが本来あるべき生態で、当然相方もまたそういう類の人種であるはずだった

2014-09-20 14:18:29
アドリア海2 @phortl

それは頬の異様にこけた短髪の男で、兵士のように鋭い目つきをしていた。自分は彼に二重の意味で見覚えがあった。 一人は今日灯台近くの草原ですれ違ったあの不気味な風車男であり、もう一人はすこし前になくしてしまった自分の友人である。

2014-09-20 15:01:52
アドリア海2 @phortl

それで自分は少々ぎょっとしつつも、後になって部屋に入った手前「こんにちわ」と一礼した。すると向こうも礼儀正しくぺこりとお辞儀を返してきたため、自分はわずかながらに安心した。見たところ体はやせこけており、強面だが万一取っ組み合いになっても勝てそうな雰囲気があったことも

2014-09-20 15:04:03
アドリア海2 @phortl

その感情の起因に関与していたかもしれない。ただその男はその略式の挨拶を返した後はこちらに一瞥もくれず、スマホやデジカメをいじり、かとおもえばメモ帳に何かを書つけとやたら忙しく、すでに頭の中に自分の存在などないように振舞っていた。

2014-09-20 15:08:38
アドリア海2 @phortl

その彼の無愛想さに、方やほっとし、方や腹を立てつつ、自分は隙を見てその横顔をよくよく観察した。それは確かにかつての友人によく似ていた

2014-09-20 15:14:11
アドリア海2 @phortl

相方はなおもデジタル機器に向かいつつ何らかの作業に没頭し続けていた。紀行文を書き綴るライターか何かだろうかと自分はいぶかしんだ。自分の友人もかつては雑誌記者になりたいなどと迷いごとを吐き散らしていたが、結局その夢はかなうこともなく終わってしまった。

2014-09-20 15:20:56
アドリア海2 @phortl

しかし夜8時を回った段階で、その男は不意に顔をあげ、自分に向かって「明日はどこへいくのですか?」などと聞いてきたものだから虚を突かれた。なにやら声まで旧友に似ていた

2014-09-20 15:26:31
アドリア海2 @phortl

それで嘘をついても仕方がないので、自分は正直に海岸沿いを南下し続け、途中道沿いにある鬼の像でも見物するつもりだと告げた。ゲストハウスのある周辺地域には鬼に関する言い伝えが残っており、最近では地元でもその存在を観光用に活用していた。

2014-09-20 15:29:10
アドリア海2 @phortl

問題の像もその一環として建てられたもので、道沿いに聳え立つその10メートル近い巨体の画像がネットのあちこちに出回っていた。作り物とはわかっていても、その単純な巨大さは人間の深層心理の奥底にある純然たる恐怖を誘発するところがあり、かねてより直に訪れてみたいスポットであったのだ。

2014-09-20 15:35:54
アドリア海2 @phortl

そのことを話すと相方は「確かにこの辺には巨人の伝説がありますからねえ」などとさもわかったような顔をしてうんうんと頷いていた。

2014-09-20 15:37:03
アドリア海2 @phortl

それからその男は「実際のところその鬼というやつの正体は、結局なんだったとあなたはお思いですか?」などという問いかけを唐突に仕掛けてきた。自分はますます困惑し、「はあなんでしょうね大方ロシアあたりから流れ着いた西洋人ではなかったのですかね」などと適当に相槌を打つと

2014-09-20 16:09:13
アドリア海2 @phortl

彼は一躍気色ばみ「偉いその結論にたどり着いたのは実に偉い」などと言い放つとかしわ手まで打ち始めるものだから自分は呆然としてしまった。思えばかつて旧友とも似たような会話をした覚えがあった。

2014-09-20 16:11:06
アドリア海2 @phortl

「確かにロシア人ならば日本人とは体格がまるで違い、肌が白い分、感情をあらわにした際顔がより赤く見える。その容姿が古の日本人に鬼なる存在を想起させたというのはあり得る話に見えます。しかしながら残念なことに時代が違うのですよ」

2014-09-20 16:12:47
アドリア海2 @phortl

「鬼の伝説が語られだした当初、ロシア人はまだウラル山中くんだりでのんびりやっていたはずで、彼らが極東の沿海州まで進出してきたのはずっと近世であるわけなのですね。ですから鬼の正体を外国人に求めるにしてもロシア人というか西洋人はありえない。より土着の原住民であったはずです」

2014-09-20 16:33:37
アドリア海2 @phortl

「僕が調べまわったところによるとね、このあたりの鬼伝説は、奈良時代前後にその端を発しているらしいのですな。となるとそのあたりに当該領域を支配していた渤海、タタール、黒水靺鞨・・・まあその辺が候補なんじゃないのかなあ」

2014-09-21 11:42:23
アドリア海2 @phortl

「彼らは白人ではないのですか」 と自分は問うた 「ええさっきも言ったように、その時代白人は極東はおろかシベリアにも進出していませんよ。彼らはモンゴロイドです。日本人にずっと近い」

2014-09-21 11:43:34
アドリア海2 @phortl

「われわれに近いのであれば、それを鬼と誤認することもなかったのではないですか?」 「なぜです?」 「だって容姿は似ているのでしょう?異民族として恐れることはあっても鬼のような化け物とまで形容する必要はない」 「体が大きかったのかもしれませんよ」

2014-09-21 11:46:34
アドリア海2 @phortl

「彼らは背が高かったのですか?」 「いえそれもやはり日本人と大差ないでしょう。食料状態によって多少の個人差はあったでしょうが」 自分は相方の言わんとしていることがよくわからなくなってきた

2014-09-21 11:48:54
アドリア海2 @phortl

「何やらあなたの言うことは要領を得ませんね」 「そうでしょうか」 「背丈も同じならば昔の日本人は彼らのどこに鬼としての要素を感知したというのですか」 「いえだから背が高かったんですよ」 「え」

2014-09-21 11:50:21