#完全ノープラン艦これ与太話 【ライジング・コメット・ダイバーダウン】 #1～#2

春魔解丼 @vespiking

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銀一色の美しい機体、大仰なシルエット、圧倒的なスペック。幼い頃、目を輝かせた超重爆は今、くすんだ銀の塗装と剥がれかけのステッカーを身にまとい、両翼をひしゃげさせ床に落ちている。彼女はそれを拾い上げもせず、崩れた本の山をハカバめいて眺めていた。 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【ライジング・コメット・ダイバーダウン】 #1 #KZNPLN

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機体と翼の接合部は大きくずれ、銀の塗装は所々がはみ出し、所々に塗り忘れが確認できる。この模型は彼女が幼い頃に作ったものだ。飾り台に置くには大きすぎ、構造上自立もしないこの大型爆撃機を、彼女は墜落めいた状態で無理に置き、ずっと棚に飾っていた。その姿は勇気を与えた。 #KZNPLN

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第二次世界大戦中、ボーイング社が製造した世界最高の四発超重爆。長大な航続距離と圧倒的な高高度性能を遺憾無く発揮し、大日本帝国を撃滅せしめた悪夢の象徴。その出自に反するような、美しく気品あるシルエット。B-29、通称スーパー・フォートレス。幼い彼女の憧れだった。 #KZNPLN

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爆撃機が、特に重爆が好きだった。雄大なシルエット、大仰なエンジン配置、強大な対地火力。純粋に、その雄姿を彼女は愛した。迎撃兵器の過剰発展と艦娘の台頭により、大陸間攻撃を行う大型兵器は世界の戦争シーンから悉く姿を消した。今は亡き重爆には、オーパーツめいた魅力がある。 #KZNPLN

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彼女は大工廠ヨコスカアーセナルの航空機開発部、クーギショに身を置くチーフエンジニア妖精である。かつて超重爆に憧れた彼女は艦娘用スケールサイズの艦載機を設計する傍ら、同スケールでかつての陸爆を蘇らせる案を出した。艦娘の発艦システムは実艦と異なる。陸爆も運用可能だ。 #KZNPLN

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現行機の爆装量は彗星が500kg、流星改で1tが限界だった。鬼姫クラスやflagshipを筆頭に強大化・大型化する深海棲艦に対し、アウトレンジからの開幕航空火力が不足しつつあるのは事実だ。現状において、搭載量3t超は魅力的な数字だった。 #KZNPLN

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艦娘と実艦とのスケール比の相違は、可能性と障害の両方を孕む。理論場可能を実現するため、彼女は寝る間を惜しんで調整を繰り返した。大型陸爆、深山。彼女の現在の最高傑作であった。彼女はこれを契機に、陸爆の開発強化を構想していた。その矢先にシェル・インシデントが起きた。 #KZNPLN

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郊外に居を構える彼女の私邸は、バアル・ゼブル起動時の大地震による完全崩落は免れた。棚が崩れ、警報が鳴り響く恐怖の世界を耐え抜いた彼女が見たのは、帝都を焼く深山の姿だった。深山が砕け、墜ちゆく様を見た。翌朝、行方知れずだった妻と娘が瓦礫の下から掘り起こされた。 #KZNPLN

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妖精は無性生殖で繁殖する雌のみの生物であり、結婚の契は愛情以上の生物的意味を成さない。ゆえに、彼女の妻子への愛は大きかった。翼がひしゃげ、床に落ちた超重爆の模型を、彼女は拾い上げることができずにいた。大破壊以来、クーギショは閉鎖中だ。彼女の時はそこで止まっていた。 #KZNPLN

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時の止まった彼女の家に、招かれざる来訪者が現れたのは、果たしてあれからどれほど後だったか。あるいは、ほんの僅かな後だったか。今となっては思い出せない。瓦礫の山を器用に登り、2人の妖精は彼女の家の扉を叩いた。十数秒遅れて、時の止まった紫髪の妖精が、2人を出迎えた。 #KZNPLN

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「クーギショ所属、エクサ少佐に相違ないな。ドーモ、大本営中将キッカワだ。こいつはタモン。本日付で羅針盤妖精に任命された。そして、あんたにも通達が来ている」白軍服の妖精に続き、黒髪の妖精が口を開く。「ゴンベモン大将からのご指名よ。貴女に、羅針盤妖精をやって欲しい」 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【ライジング・コメット・ダイバーダウン】 #1終わり。#2に続く。 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【ライジング・コメット・ダイバーダウン】 #2 #KZNPLN

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――ネオヨコスカ大演習場。 #KZNPLN

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「イヤーッ！イヤーッ！」トレーニング・ルームの片隅で、アンダーウェア姿でカラテ木人に相対し、鮮烈なチョップを繰り返し打ち込む妖精の姿あり。区画の8割を臨時避難所として開放した大演習場のトレーニング・ルームはしんと静かで、打撃音のみがやかましく響く。 #KZNPLN

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「……ボクネンジン殿の返事は？」「イヤーッ！イヤーッ！……まァ、そう易々とコトが進むとも思ってねぇさ。強制はできんからな。おれにとっても、現大将殿の考えはよくわからん」「羅針盤妖精、マトモだった試しがある？」「ハハ！違いねえ」隣に佇むは黒髪の妖精。 #KZNPLN

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「……キッカワ。お前はどう思う。今回の人事は」キッカワと呼ばれたアンダーウェアの妖精は、マット上で腹筋をしながら話半分に答えた。「さあな。少なくとも、おれらのカラテが選出基準ッてワケじゃあねえだろ」「そこだ」黒髪カーキ軍服の妖精が同意する。「問題はカラテじゃない」 #KZNPLN

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「我々以上に、カラテの強い妖精はいくらでもいる。まして、エクサ殿はパイロット経験があるとはいえ、文官だ。カンノやサカイを差し置いて、我々が選ばれた理由は？」「あれ、だろ」キッカワはくいと親指で、窓から見える演習場のカンバンを指差した。「まあ、でしょうね」 #KZNPLN

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緑色の丸いカンバンには極太ミンチョ体で大きく『演習』と書かれ、左右には……腕組みする薄茶髪白軍服の妖精と、アサルトライフルを構えた黒髪カーキ軍服の妖精が描かれている。キッカワとタモン。長らく親しまれた、ネオヨコスカ大演習場の名物演習監督妖精。即ち、この2人だ。 #KZNPLN

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「エクサ殿は陸爆研究の先駆者だ。深山のロールアウト時は今でも覚えているよ。テレビをつければ彼女の顔。まさに時代の寵児だった」「……対して、まあハギリと言われて、あいつの顔が出てくるヤツは実際少ねぇわな。おれも、英霊ハギリ中尉のヒゲしか出てこねぇわ。ハハ！」 #KZNPLN

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キッカワはスポーツタオルで汗をぬぐい、ドリンクを吸い込みながらタモンの隣に腰掛けた。「前四天王の在任期間は実際長かった。カラテ平均値も歴代最強といっていい。帝都もこの有様だ。ニュース性は必須事項……ということね」「ああ。あるいは」 #KZNPLN

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「カラテの支配に、限界を覚えたか。だろ？」「……」タモンは無言で肯定した。「……まあ、やれるだけはやるさ。おれはカラテバカだが、お前は頭もいい。あてにしてるぜ、相棒」「……わかった。任せておけ」 #KZNPLN