ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説36
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ほしおさんのサイトはこちら⇒http://hoshiosanae.jimdo.com/
ほしおさんの音読サイトはこちら⇒http://hoshiosanae.tumblr.com/
ほしおさんの連歌サイトはこちら⇒http://tsuranaru.jugem.jp/
ちなみに音読サイトとは。。。
ほしおさんが140字小説を音読されているもの。
透明感のある声でとてもすてきです!
そして、tumblrで140字小説の音読を公開しているのですが、このたび注目のブログとしてピックアップしていただきました!「作家」というカテゴリーにはいっています。 tumblr.com/spotlight/writ… 音源も少しずつ公開しているので、こちらもよろしくお願いします!
2014-09-18 08:40:36今回、勝手ながら、140字小説は15編入っています。ご了承下さいませ。
今でもよく覚えているよ。君とふたり一列になってあの小径を歩いたことを。なんだかとてもどきどきして、ここを抜けたらどこへでも行けると思った。君が遠く離れてもずっと覚えているよ。細い空がとても深くて青かったこと。頼りない君の背中が希望みたいに見えていたこと。きっとずっと覚えているよ。
2014-09-08 19:26:08ときにはちゃんと喋らないといけないね、そうしないとなにも考えてないと思われる。しまいには、いないと思われてしまうから。ふだん無口な象がめずらしくそう主張する。なにかあったのかな、と思いつつ、僕はただ、そうだね、と答える。穏やかな午後。僕にしか見えない象と、静かにお茶を飲んでいる。
2014-09-09 21:34:46夜、ひとりの部屋に帰り着く。窓から街の灯を見ながら、胡桃を割る。僕は今日、ちゃんと一日をまっとうしたかな。君の命をいただくだけのことを成し遂げたかな。胡桃は少し苦い。街にはたくさん人がいて、それぞれ生きている。水道の水で手を洗い、電気を消す。おやすみ。胡桃の夢を見られるだろうか。
2014-09-12 19:20:27ものを作る人はだれでも、そのものが自分が行けるより遠くに行くことを祈ってるんだって。だれかが言ってた。遠くに、未来に。そうやってやってきた蝶のようななにかがわたしのなかのなにかと恋をして、なにかが生まれる。わたしはそれを空に放つ。わたしが行けるところより遠くまで行くことを祈って。
2014-09-17 13:34:30幼いころは自分が特別な存在だと思ってた。僕の世界にまだ家族しかいなかったから。世界が広がると僕は小さくなった。でもいつかだれかの特別な存在になれると信じてた。なのにどこで間違えたのか。ずっといっしょだと思ってたのにもう君はいない。この先も。砂粒みたいな僕がベランダで雲を見ている。
2014-09-19 17:51:10夜ベランダに出た。となりの建物のベランダにも女が立っていた。つかのま目が合った。彼女は煙草を吸っていた。僕は酒を飲んでいた。共犯者のようにくすっと笑い、彼女は部屋にはいっていった。翌日トラックが来て彼女の部屋は空き部屋になった。名も知らない女の暮らした部屋が窓ガラスに透けていた。
2014-09-24 16:38:21ビーチチェアを手押し車にのせ、海までひとりで押してゆく。砂浜に椅子を広げて座り、潮風に当たる。空は真っ青で、映画の終わりみたいだ。でも人生は続く。世界も続く。僕のところにはもう手紙は来ないだろうけど。世界は怖いことや汚いことに満ちたままだろうけど。目を閉じる。波の音を聴いている。
2014-09-25 20:34:47大きくなんてなりたくなかった。一歩ずつ死に近づいていくようで。ずっと小さいままで、草を摘んでいたかった。あのころどうして死ぬことばかり怖れていたんだろ。まだ向こうの世界に近いところにいたからだろうか。自分の影のなかにも死が見えていた。草を摘む。永遠に草を摘んでいるわたしが見える。
2014-09-26 23:17:48庇の狭い影から空を見上げている。あの人と会えなくなって長いときが経つ。ほんとは言いたいことがたくさんあった気がする。見てほしいものがたくさんあった気がする。分かち合いたかったものが底の方で揺れる。でも今は、ひとり暮らしだけどしあわせ。寂しいけどしあわせ。鰯雲を見上げ、呟いている。
2014-09-29 20:36:30リスと山を歩いている。木に登ったりおりたり、リスは忙しそうだ。まだかい? ちょっと待って。飛び降りてきたリスが赤い実を差し出す。きれいだね、宝石みたいだ。リスは得意そうな顔になる。きっとここにはもっとたくさんの宝物が隠れているんだろう。木の下でリスも僕も木の葉の模様になっている。
2014-09-30 15:40:51