昨日発生していたサイトログインできない不具合は修正されております(詳細はこちら)

現実鎮守府

夢も希望も無い鎮守府と、その中で零れ落ちて行った光のお話。
1
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

思い立つとすぐに執務室の扉へ手を掛けた。出ても誰かいないだろうか。そんな不安が頭を過る。だが書類を片付けた後という事もあり、すでに夜更け。それにやめるのならば、今更関係はない。さっさと告げてやろう。暗闇の通路が待つ、扉が開いた。

2014-10-18 03:05:32
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

室内から漏れる明かりが、寝息を立てる少女を照らす。それはよく見慣れた、碧い髪の。

2014-10-18 03:06:39
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「鈴谷……?」まさか、そんな馬鹿な。まだ笑い足りないというのか?どこまで私を愚弄するのか?苛立つ感情を吐き出すか迷う。思いのままに殴れば、楽になるかもしれない。気が済むかもしれない。

2014-10-18 03:08:35
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

それでも、彼には出来なかった。どん底に堕とされた原因が彼女かもしれないが、救ってくれたのもまた彼女だったから。無なら無のままにしておいてくれたらよかったのに、とは思わなくもない。

2014-10-18 03:11:25
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

なまじ希望を与えられたが故に、彼は苦しんだのだから。

2014-10-18 03:11:56
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

でも、それでも。まだ一度も言っていなかった言葉。それは、たとえ裏切られたとしてもいつか伝えたかった言葉。

2014-10-18 03:13:16
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

本当は話し掛けてくれた時に言うべきだったのに。どうして今まで言えなかったのか。自分でもどこか情けをかけられている気持ちが、やはりあったのだろう。そんな気持ちで接してくるなら、礼は言わなくてもいいと思ったのかもしれない。

2014-10-18 03:15:56
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

あの時言っていれば、なにか変わったのだろうか。こみ上げる笑いもなく、息を吐く。

2014-10-18 03:17:20
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

目を覚ますと、見慣れた白いジャケットが掛けられていた。すぐ様、提督の姿を探す。執務室、私室、工廠、食堂。ありとあらゆる思いつく場所を、忘形見のように強く握りしめた上着と共に走る。

2014-10-18 03:19:28
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

どこにもおらず、誰も知らず。成果を得られぬまま、彼女は自分の部屋へと戻ることが出来なかった。

2014-10-18 03:20:38
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

結局、提督はもう戻ってこなかった。新しくやってきた提督は、実績も階級もルックスも遥かに上。まさに最後、彼から皮肉られたように。

2014-10-18 03:22:06
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「鈴谷、どうかしたのか?」上の空だった彼女は、急に声をかけられ身体を跳ねさせた。執務中に浮つくなど、あってはならない。「あはは、ごめーん」素直に笑えているだろうか。そんな思いを胸に抱えながら、彼女は笑顔を作る。

2014-10-18 03:24:37
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

痛む胸中には、気がつかない振りをして。

2014-10-18 03:25:17
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

それから、二ヶ月後。すっかり様変わりした元提督は、実家を継ぐことになっていた。元々継ぐ予定だったそれが、彼には合っていたのか生き生きした顔をしている。

2014-10-18 03:28:08
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「いらっしゃい。なににします?」小さな個人商店といえ、客足は多い。連日の忙しなさから、すっかり鎮守府での生活も忘れていた。

2014-10-18 03:30:29
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「いらっしゃい。おや、君は見掛けない顔だね?」足を運ぶのはほとんど常連だけなそこに、見慣れぬ顔が来ることはそれほど珍しかった。暗い茶髪の髪を揺らして、女性は口元だけで笑って見せた。

2014-10-18 03:33:04
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「元気そうね」「はて、どこかでお会いしましたか?」「これだけ変わってたら、無理もないかな」

2014-10-18 03:35:27
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

悪戯に笑って見せるその顔には、覚えがあった。だが彼女の髪は碧く美しい、海を写したようなものだったはずなのに。

2014-10-18 03:37:09
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「久しぶりです、提督」もう一度聞いた声で、目が覚めた。この娘は間違いなく、鈴谷だと。確信した。

2014-10-18 03:38:27
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「……何の用だ」「用がなきゃ、来ちゃダメだった?」昔と変わらぬ口調で話されては、ますます過去を思い出す。

2014-10-18 03:39:44
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「あの時のこと、謝らなくちゃって。ずっと思ってて」身体を折り、頭を下げる。謝る時の態度すら適当だった鈴谷と同じとは思えない。「ごめんなさい。許してもらえるなんて、思わないけど……謝らなくちゃいけなかったんだ」

2014-10-18 03:42:14
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

その言葉を聞いて、卑屈になる。言わなくてもいいことだけが、するりと口から漏れた。「結局、自分の気持ちの整理がしたかっただけなのか」

2014-10-18 03:43:41
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

「そうかもね」破顔した鈴谷が続ける。「提督にはまた謝らなきゃだね」「……もういい。終わったならさっさと帰れ」帰宅を促す男の手を、鈴谷が握った。

2014-10-18 03:45:36
三月ひらり🍆 @mitsukihirari

瞬間、心臓が跳ねる。どす黒い感情が湧き上がり、それを抑え込むため彼女を払い除けた。「私に、触るなっ!」

2014-10-18 03:47:03