ダイハードテイルズ 【ペイルホース死す!】#3

オンラインパルプマガジンアカウント「@diehardtaleshttp://diehardtales.tumblr.com/)」による、 【ペイルホース死す!】#3 のまとめです。 続きを読む
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ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

回廊の突き当りには、乾燥蔦で装飾された瀟洒なつくりの柵扉が待ち受けていた。「私が君を買い取り、<蠱惑>から自由にしたのだ」カコン……静かな音を鳴らし、柵扉が左右に開く。「中へ」<西の夕闇>が促した。「昇降機だ。何の心配も要らない。ここは君にとって、何一つ心配の無い世界だ」17

2014-10-31 00:27:16
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

カコン……二人を迎え入れると、柵扉が閉じた。彼女は上昇を感じた。「まず湯浴みだ。君は汚らしいから」<西の夕闇>はクスリと笑った。「ずっと君で遊びたいけど、そうもいかない」彼は呟き、それから真顔になり、顔を近づけた。彼女は後ずさった。「イルダ」「はい」「侍女に君を預けるが……」18

2014-10-31 00:32:59
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

<西の夕闇>はイルダの鎖骨に警告めいて指を当てた。「従うべき侍女は、私に属する侍女だけだ。すなわち緑のリボン。青の侍女が近づいてきたら、決して近づくな。緑の侍女から決して離れてはならぬ。もとより離しはせぬが、念の為言っておく」「はい」「青は<東の白夜>のしるしだ。許さぬぞ」 19

2014-10-31 00:38:48
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「……はい」昇降機が停止し、柵扉が開いた。<西の夕闇>はイルダに言った。「君はこのまま降りずに上がれ。侍女を待たせてある。湯浴みをしなさい」彼は言った。「私は<東の白夜>と折衝せねばならない」「はい」「何の心配も要らない。君は自由なんだ……」 20

2014-10-31 00:44:09
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

イルダは一人になった。昇降機は上昇を続ける。彼女はふいにその場に座り込み、大粒の涙をこぼす。彼女は弟のことを……唯一の肉親を想った。彼に名前があれば、その名を呼びもしただろう。しかしイルダはただ、呻き、嗚咽するしかないのだった。 21

2014-10-31 00:48:08
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「断る」<西の夕闇>は己の拒絶を嘲りと敵意で彩った。彼は長方形の食卓の一方の端に座っている。反対側には<東の白夜>が居るが、<夕闇>の席からは、おぼろな影しか見えはしない。この食卓は双子王の城における緩衝地帯だ。通常の方法で彼ら双子がお互いのもとへ到達する事はできない。 22

2014-10-31 17:22:00
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「卑怯者め」<白夜>の声が届いた。<夕闇>は笑った。「卑怯?卑怯と言ったか。違うな。貴様が愚鈍なのだ。覚醒室への立ち入りに取り決めは無い。愛の深さが速度に現れたな。私には適切な判断力があり、幸運にも恵まれていた。彼女は私にすがりつき、私に庇護される喜びに震えた……」「黙れ!」23

2014-10-31 17:35:56
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「彼女の名を、私は持っている」<夕闇>は恍惚じみて言った。「お前は持っていない!」「ウヌーッ!」<白夜>は椅子を蹴って立ち上がり、なにかをテーブル越しに投げつけた。皿か、ナイフか、肉か。ループ障壁越しにその詳細は確認できない。飛来物の影は両者の中間の空中に停止した。 24

2014-10-31 17:40:51
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

飛来物は静止しているのではなく、無限に進み、戻され、進み……を繰り返している。食卓の中間地点を隔てる不可視の障壁に囚われた為だ。やがて飛来物は崩壊し、消滅する。「教えて欲しければ乞うといい!この私に!」「黙れ。私が後により適切な名を与えてやれば済む話だ。調子に乗るな臆病者め」25

2014-10-31 17:46:05
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「臆病?聞き捨てならんな」「事実だ、臆病者」<白夜>は繰り返した。「貴様が姑息に立ち回っておったまさにその時、私は国難に備え、万端、手を打った。つまり我が妻を危険から守る為にだ。私の愛は貴様以上に深い。目先の情欲にとらわれる貴様には発想もできまい」「国難だと?」「知りたいか」26

2014-10-31 17:49:58
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

夕闇は爪を噛んだ。今度は白夜が仕掛ける番というわけだ。「教えて欲しければ、乞え」白夜が嘲った。「黙れ!」夕闇は銀のナイフを投げた。ナイフは食卓の中央で小刻みに震動して見えた。やがて静止。彼は舌打ちし、座り直した。「交換だ」「よかろう」「妻の名はイルダ」「我が妻の名はイルダか」27

2014-10-31 17:55:26
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「違う、我が妻だ!」「きりがないぞ、我が弟よ」白夜が肩をすくめて見せた。「私は誠実に約束を守ろう。ねじけた貴様とは違う、まことの王であるゆえに」「……」「この星に浸入した者あり」「胡乱な」夕闇は腕を組み、椅子にもたれた。「貴様の闘争願望には呆れたものだ!妄想に付き合わせるな」28

2014-10-31 18:00:36
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

事実、星に戻るなり、白夜は一方的な思い込みをもとに、村ふたつ森ひとつを焼き打ちし、生き残った者たちも全て殺した。社交界での他愛ない会話、上位ネットワークを行き交う様々な噂や天候などを独自に解釈・読み解いた結果、星の一部が反光芒テロリスト集団の潜伏地と化していると誤認したのだ。29

2014-10-31 18:10:35
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「住人も際限なく空気の中から無限に生み出せるものではないのだぞ。繁殖させねばならんのだ。コスト!それを理由もなく殺しおって。来季の収穫にも響く」「灰は肥沃な土を生む」白夜がうっとりと呟いた。「なにより、我が星に反光芒テロリストの棲家が無い事をこの目と耳で実感できた。喜ばしい」30

2014-10-31 18:16:22
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「ヘドが出る!夢見心地めが」夕闇は吐き捨てた。「イルダの名にはまるで釣り合わぬ……」「現実を見ろ、西の夕闇」白夜は勿体つけながら言った。「侵入してきたのは……青ざめた馬の一団だ」「青ざめた馬だと?バカな……」「上位ネットワークを通じ、光芒会議がもたらした、確かな情報だ」31

2014-10-31 18:25:31
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

アルビノの王はしばし無言。血管の浮いた手でグラスを取り、口に含んだ。やがて呟いた。「……青ざめた馬……?だがなぜ我が星に。理由があるまい」「我が星だ」「奴は<蠱惑>の殺害をこころみ、<火の諍い女>に阻まれた。死んだとも聞くぞ?」「理由?そんな上等な連中ではない!」 32

2014-10-31 18:38:57
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

白夜はバカにしたように言った。「光芒会議はたかが賞金稼ぎ風情を不自然なまでに恐れておる。死刑囚どもに私掠の権利を与え、銀河の秩序を乱す、それを見て見ぬ振りで済ませるなどと……」「目的も無しにこの辺境まで?」「然り。何をするかわからぬゆえに、充分に警戒せよとの通達であった」33

2014-10-31 18:46:00
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「どちらにせよ、光芒貴族相手に表立って事を構えることはあるまい。犬に近いが、犬ではない」「怯懦!」白夜がピシャリと言った。「これは我が武勇をもって銀河秩序に貢献する好機だ!既に奴は光芒法を破っておる。事前通知無しの大気圏突入!難癖つけて捕縛・処刑しても中央からは咎め無し」 34

2014-10-31 18:55:43
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「奴はこの星の何処にいる」「突入地点からそう遠くはない。私が把握した情報だ」「私の投資したテクノロジーを用いてだろう。油断も隙もない点取り虫めが」「所有は私だ。貴様も貴様の兵を使え。精強さにおいて大きく劣ろうがな!」二者はしばし黙った。次のゲームの内容を、互いに把握したのだ。35

2014-10-31 19:09:50
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「しかるべき勇壮を示した者が、妻を娶るにふさわしい」白夜が立ち上がった。夕闇は冷たく笑った。「イルダは既に我が妻だ。貴様には覆すことのできぬ真実よ。貴様が私を上回る事は何においてもない。戦さにおいてもな。それをわからせてやろう」「貴様は泣いて助けを乞う」白夜は身を翻した。36

2014-10-31 19:21:55
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

夕暮れを迎える村の建物はどれもひどい建て付けで、素人の拵えた玩具じみている。風が吹くたび嫌な軋み音が彼方此方から聴こえてくる。皆、闇の中で寒さを凌いでいる。炊事の煙が昇る家もある。彼らが収穫された穀物を口にすることは許されない。こうした小集落がこの星に一体幾つあるだろう? 38

2014-10-31 19:36:05
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

村の広場には複数の死体が積まれ、羽虫がたかるそのままだ。死体は周辺の村々から集められた。罪人、反乱予備を疑われた者、逃走し森に逃れ、狩りだされた者……。彼らを許可なく埋葬してはならない。遠巻きに囲むのは双子王の抱える兵士達。白く塗られた合金鎧で全身を覆い、ライフル銃、光の槍。39

2014-10-31 19:41:08