【きょうもまたあの子が】福間健二 #2factory74
緊急の、仕事は、ない、と思う。空は曇っている。どこへ行こう。北にも南にも権威はない。語りおわった物語。さむざむしい土手に置きわすれた黒い帽子も黙っている。火曜日、燃えないゴミの日。財布には千円札が何枚か。新米のおにぎりが食べたい。(きょうもまたあの子が1)#2factory74
2014-10-21 10:34:50落とし穴、から、這い上がって、地面の図形に安堵する。毎晩のように同じ失敗をしながら、救助されるこのぼくは通りみち。通るものが落としていく針を何本飲んだだろう。できればお断りだが、きょうもまたあの子が来てその得意の死に方を自慢する。(きょうもまたあの子が2)#2factory74
2014-10-22 12:35:23否応ない、チクチクする、生きていることの確認だったきのうを歩きなおさない。そういうもの、じゃなくて、それだ。それと自分のあいだの苦しみ多い感受性のロープに縛られることだ。まるひら製菓の、タンナファクルー。いつからテーブルにあったか。(きょうもまたあの子が3)#2factory74
2014-10-23 10:36:46恋を、しない、のは、だめだ。判断、しない、のも。好奇心がない、のも。鳴らなくなっているけど、スロヴェニアで買った笛がそう言っている。よく考えてみれば、やることは山積みだ。いま何が通ったか。醜いプライドだ。始末しないと手遅れになるよ。(きょうもまたあの子が4)#2factory74
2014-10-24 09:36:32きょうもまたあの子が。やりたいことを隠した地図をもって、曲がり角に。ムラッと、どうしたって植民地分割。日が暮れる。楽しいこと、ちょっとしかない。ぜいたくを、言うな、と封じていい箱じゃないだろう。だったらラグーのカキフライ、もう二皿。(きょうもまたあの子が5)#2factory74
2014-10-25 11:04:31食べ、歌い、苦しみ、憤激し、笑った。分裂、じゃなくて、液化して循環する、だれの苦手なニューヨークが、ごちそうさまなのか。油のついた手でさわられる。ぼくは生きていた。ぼくの前を行く移住者は、たがいの熟れていない部分に息を吐いている。(きょうもまたあの子が6)#2factory74
2014-10-26 10:57:39その人たちは、語りかけてくる門が怖い。やっていたことをやっていたと言わずに、忍び歩きの、ティッシュで鼻血をおさえる冬の準備だ。日によって変化する、通れない場所と通れる場所。ある日はざわめく葉の音に追われ、ある日は黒い塔にたどりつく。(きょうもまたあの子が7)#2factory74
2014-10-27 11:56:49言わなかったのか、言えなかったのか。オレンジ色の朝焼けに屈服しながら老いて、うららかな昼も迷路だ。どこをどう通っても夕焼けの背中に匂う粉をかぶっている。問題は多い。フン! 皮膚のしみを気にしながら手紙を書き、料理をして、だれを招く?(きょうもまたあの子が8)#2factory74
2014-10-28 10:07:15よけるか、キャッチするか。塔から投げられるもの。まだ十月、まだ迷う。酸素の届かない細胞からの、抗議。耳をふさぐが、赤い実、なっていて。立ちどまる者の、眠る権利を奪う。きょうもあの子の死に方が。できなかったこととやったことのリストが。(きょうもまたあの子が9)#2factory74
2014-10-29 11:15:53はれつ、する。さいごまで、いく。そうなる夢のテーブルにきみの小さな手とナイフがあるはずだ。窓からだれが覗いていてもいい。長い歳月、歩いて、あらわれては消えるぼくの、ささやかな願い。タンナファクルー、残った一個。半分ずつ食べよう。(きょうもまたあの子が10)#2factory74
2014-10-30 08:23:08