【真荒】あなたのいる場所・2

弱虫ペダル二次創作 腐向け 真波×荒北
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ひな@復旧中 @newgibbousmoon

あなたのいる場所2 「おまえ、眠れねえの?」 「え?」 「ここんとこ、いっつも寝てるじゃねえか」 「違うよ、荒北さんのそばが居心地よくて、つい眠くなっちゃうだけだよ。それに、ここあったかいし」 「ふうん。そんならいいけどよ」 (……びっくりした。荒北さん、よく見てるよな)

2014-11-21 20:51:20
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 夜、眠るのが怖かった。 否、眠るのが怖いのではない。夢を見るのが怖かった。 夢で見るのは、あの敗北の瞬間だ。 ほんのわずか足りなかった、あの絶望の一瞬。 破れそうな心臓や、全身を鞭打っての登坂……箱学の勝利を信じて落ちた荒北や泉田の献身。

2014-11-21 20:56:24
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon すべてを、真波は、無駄にしてしまった。 ただ一つの勝利と無数の敗北────そのただ一つを常に勝ち取ってきた箱学を、無数の敗北の中に落としてしまった。 その事実が真波の心を蝕んでいた。 (荒北さんのそばなら、怖い夢なんてみない)

2014-11-21 20:59:55
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon その背中がどんなに頼りになるかを真波は知ってる。 「……おら」 投げつけられたのは、ブレザーのジャケットだ。 「はい?」 「羽織っとけ、寝るならカーデガンだけじゃ寒いだろ」 「でも、荒北さんは?」 「オレは起きてっからへーきダヨ」

2014-11-21 21:01:40
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「……じゃあ、借ります」 ありがたく借りることにしてもぞもぞと袖を通す。 細いように見えて、荒北はそれなりに筋肉がついていた。荒北のブレザーは、真波が着ると二まわりくらい大きくてぶかぶかしている。 (荒北さんの匂いがする……)

2014-11-21 21:05:49
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon かすかな柑橘系の香り……荒北からは、いつもレモンのようなライムのような香りがしていた。 制汗剤も柑橘系を好んで使っているから、もしかしたら香水なのかもしれない。 大きなブレザーに包まれるようにして机につっぷして目を閉じたら、すぐに意識が遠くなった

2014-11-21 21:10:56
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 目が覚めた時、そこがどこだか、一瞬わからなかった。 「あれ?」 「あー、やーっと目が覚めたのかよ」 「あの、荒北さん、今って」 「もう放課後。部活は休ませるって言っといたから」 「え?」 どうやら昼休みからずっと真波は寝こけていたらしい。

2014-11-21 21:14:24
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 根を詰めて勉強していたらしい荒北は、大きく伸びをした。 これが東堂だったら、絶対に真波をたたき起こして授業に出席させたに違いなかった。 「荒北さんは授業に出ろとか言わないんだね」 「……おまえには、授業より睡眠が必要だろ」 荒北はあっさりと言う。

2014-11-21 21:19:05
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「荒北さんだけだよ、そんなこと言うの」 真波はよく居眠りをしているのでいつも寝ていると思われているが、実際にはそれほど寝ているわけではなくて、目を瞑っているだけだ (眠るのは、小さな死で……) 意識が落ちる瞬間、真波はいつも、強く『死』を感じる。

2014-11-21 21:29:30
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon もしかしたらこのまま目覚めないかもしれないという恐れが心のどこかから消えないのだ。 (目が覚めて、生きていることを確認する) 毎日がそのくり返しで……でも、今は一人ではあまりうまく眠れなかった。 「……じゃ、行くぞ」 「え?どこへ?」

2014-11-21 21:32:36
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「おめーは今日は部活休みだから、メシおごってやんよ」 「え?え?」 その急な展開に真波の頭はついていかない。 「ここに、とあるビュッフェレストランのタダ券があんだよ」 指に挟んだチケットを揺らしてみせる。 「え、それってかまぼこやさんのですか?」

2014-11-21 21:35:12
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 三ヶ月前にオープンしたレストランは結構いろいろなところで話題になっていて、テレビや雑誌にもとりあげられている。 学内でも親につれていってもらったとかという人間がちらほらいて結構おいしいらしいという噂だ。 何よりも食べ放題というのが魅力的だった。

2014-11-21 21:37:55
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「そっ」 自転車競技部員としてはそれほど食べる方ではない真波だったが、それでも普通に二人前くらいは食べる。 部内でも食べるほうである荒北などは、たぶん三人前はぺろりといけるだろう。 心置きなく食べられるというのはとても大事なのだ。

2014-11-21 21:41:15
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「なんで……」 「数学の山センの大掃除手伝ってやったんだよ、で、もらったんだけど、二枚しかなくてよ」 だから、ちょうどよかった、と荒北は事もなげにいう。 「……俺とでいいんですか?」 「何?おまえ、興味ない?」 「そんなことないです」

2014-11-21 21:46:58
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 一緒に行く相手に自分を選んでくれたのだということが、真波には嬉しかった。 「制服だとまずいから、私服で集合な。あ、チャリで裏門な」 「なんで裏門?」 「外出許可出さねえから」 「なんで?」 「ココ行くって行き先書いたら、後でうるさいだろ」

2014-11-21 21:49:44
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「あ、確かに」 「特に新開が怖ぇ。おまえ、絶対に言うなよ」 「……秘密、ですか?」 『秘密』という響きに、心が震えた。 「おう。二人だけの秘密だ」 その言葉の響きに、真波は何かじんわりとした熱さを感じた。 (俺と、荒北さんだけの秘密)

2014-11-21 21:53:26
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon その事実がひどく嬉しかった。 「あ、上着、ありがとうございました」 「おう」 ブレザーを返す瞬間、何だかとても離れがたかったが、これから二人で出かけるのだと思ったら、我慢ができた。 (俺、荒北さんと出かけるの、初めてだ) 「じゃ、15分後な」

2014-11-21 21:57:48
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「はい」 (……これって、もしかして、デートなのかな。でも、デートで食べ放題はないって前に誰か言ってっけ) なんで自分を誘ってくれたのかもわからなかったが、真波には断る気などまったくなかった。

2014-11-21 22:00:46