【ニンジャスレイヤー二次創作】【ベイルド・ドゥーム・アンダー・ギター・サウンド】#1
重金属酸性雨が濡らすネオサイタマの夜。ここ、シブヤ・ディストリクトのライブハウス「生きる扉トーキョー」には、明らかに周りから浮いた黒頭巾を被る集団が出入りしていた。1
2014-11-23 01:52:07彼らはニンジャヘッズと呼ばれるカルト集団である。今日は集団の教祖が主催する神聖なるライブ儀式行為に参加するため、日本中からこの「生きる扉トーキョー」に集まっているのだ。2
2014-11-23 01:52:32集まった面々はただのカルト信者ではない。300という少なすぎる参加者制限の壁を乗り越えた、タイピング速度に優れた選ばれた者たちなのだ。そう、彼らは選ばれた。ある目的の為に。だが、彼らは未だそれを知らず、ライブ儀式にニューロンを高揚させている。おお、ブッダ…。3
2014-11-23 01:53:16「実際初めての試みですよ!」「ニンジャの物理イベント!アタシ今体温何度あるんだろー!?」「イヤー!」「グワー!ハハハ」ヘッズ達は他愛もない会話をしながらライブの開場を待つ。ライブ会場の年齢制限により、彼らは成人だ。しかしニンジャヘッズの教義は彼らに子どもめいた行いを許可する。4
2014-11-23 01:55:30だが、その中に明らかに未成年とわかる少年が一人。彼は周囲に目をやり、目立たぬよう集団の内側へと消えた。「ドーゾ、順番にお入り下さい」双子のスタッフが開場を告げる。ニンジャヘッズ達は整然と会場に吸い込まれて行った。5
2014-11-23 01:56:55…高層ビルよりシブヤ・ディストリクトを見渡す赤黒の影あり。影はニンジャ第六感を働かせ、何かを探している。ニンジャ第六感?読者の諸君にはこれを知る者もいよう。そう、ニンジャである。赤黒のニンジャは飛び上がり、宝石めいて雨とネオンに輝く夜のシブヤへと消えて行った。6
2014-11-23 02:01:06ーそれから数時間後。シブヤ・ディストリクトの路地を駅に向け歩く者あり。「…ハァーッ!ハァーッ!」その者は息を切らし、レインコートの内に見える少年とわかる顔を汗と雨に濡らしていた。少年の名はボブ。カルト集団ニンジャヘッズの中でも、古株にあたる人間である。8
2014-11-23 02:17:38少年のニューロンにはセンコ花火めいて1時間前の惨劇の映像が散っていた。ボブはニンジャを見てしまったのだ。その暴力を。彼のこの記憶は自己防衛本能によりすぐに消える。ニンジャ・リアリティ・ショックと呼ばれる現象だ。だが、消えゆく記憶は、まさにセンコ花火めいてその最後の輝きを放った。9
2014-11-23 02:17:50「ハァーッ!ハァーッ!」ボブは息を荒げ、ライブ会場の中を挙動不審に歩いていた。((許さないぞ!小説作品でライブだなんて!原作者に許可は取ったのか!))彼はニンジャヘッズの信奉する原典を愛している。しかし彼は過度の心配性であり、行動を時折ニンジャヘッズ達にたしなめられていた。11
2014-11-23 02:18:40彼らが信奉する原典は小説である。現代を舞台にニンジャが活躍するサイバーパンク小説。荒唐無稽な文体と対照的な重厚なストーリーはアイドル・カトゥーンに溢れたネオサイタマにおいて異彩を放ち、徐々に多数の読者を獲得。それに留まらず読者達はニンジャヘッズと呼ばれるカルト集団を形成した。12
2014-11-23 02:24:16原典の作者についてはニンジャヘッズ内でも意見が分かれている。何しろそれは海外小説の翻訳作品であり、出自は磁気嵐に阻まれ失われてしまっている。ゆえに原語で書かれた原典を唯一所持し、その翻訳を担当する翻訳チームと呼ばれる人間達がニンジャヘッズの実質的支配者となっている。13
2014-11-23 02:27:55ボブはそれが気に入らない。翻訳チームもまた、読者に過ぎぬはず。原語版を書いたブラッドレー・ボンドとフィリップ・ニンジャ・モーゼズのみがニンジャヘッズの上に立つ資格がある。それがボブの考えである。ボブは今回も翻訳チームの動きを監視するためにライブ会場への潜入を敢行した。14
2014-11-23 02:31:38黒のマスクとニンジャ頭巾。この変装は傍から見ればニンジャの真似をする狂人であるが、今日に限っては功を為す。「俺は詳しいんだ」「出ましたね!俺知高分メソッド!」周囲で談笑するヘッズ達もまた、同じ黒頭巾を被っている。中には翻訳チームが販売するTシャツ偽装装束を着込むものもいる。15
2014-11-23 02:36:35「君若いな。大学生かい?」「そうです。サークルを抜けてきました」社会人と見られるヘッズとの会話をボブはかろうじてかわす。ボブは実際高校生だ。このライブ会場には成人しか入れず身分証必須であるが、友人にトークンを渡し偽造してもらった。((未成年は入れない?そんなの許さないぞ!))16
2014-11-23 02:42:07ボブは物販コーナーには目もくれずカウンターへと向かう。書籍もグッズも全て買っている。原作者へのドネートになるからだ。「ここだけの限定版だってー!?」「ワオ!抱かれたい!」ボブの去った物販コーナーでは、厳しい顔をした販売員ニンジャヘッズが限定品の販促を始めた。 17
2014-11-23 02:46:08バーカウンターはボブの目的の一つだ。「ドーモ、どれにします?」「ドーモ、エート…」((許さない!原作者でもないのに勝手にキャラクターの名前をカクテルに使うなんて!本当に合ってるか怪しいぞ!))ボブはメニューの一覧を眺めた。未成年のボブにはカクテルの名前がわからなかった。18
2014-11-23 02:50:05「ハァーッ!ハァーッ!」「君もヘッズでしょ?好きなキャラでダイジョブダッテ!」とりあえずアンデッド系は怖いので、ボブは主役の名前が入ったカクテルを飲んだ。「ゲェーホ!ゲホ!」ボブは初めてのアルコールにむせた。((翻訳チームめ!なんという恐ろしい罠を…))19
2014-11-23 02:54:07((だがこの程度で怯むものか!翻訳チームの本性を暴いてやる!))ボブはこのライブ儀式が発表された時から、入念に計画を立てた。翻訳チームと物理接触する数少ないチャンス。身分証はテンサイ級ハッカーの友人に作ってもらった。チケットも友人にタイピングを頼み入手した。298番だった。20
2014-11-23 02:58:45ボブはライブステージへと向かった。そろそろライブ儀式が始まるはずだ。周囲にもニンジャヘッズ達が集まり始める。ヘッズ達は全員タッチパッド型UNIXを注視している。ニンジャヘッズの主な活動場所は現実世界ではなく、ネットワーク上だ。トゥイッターと呼ばれる新世代ネットワークシステム。21
2014-11-23 03:04:20トゥイッター上で活動する彼らにとって、この物理儀式はきわめて神聖なものだ。翻訳チームもそれを自覚し300という人数制限を設けタイピング速度に優れた真のニンジャヘッズのみを集めた。彼らはそう考えている。ボブは「物理行動力不明重点だからだろ」とトゥイートし、囲んで棒で叩かれた。22
2014-11-23 03:09:39ライブ会場にアナウンスが入る。「これよりライブ行為メント開始ドスエ。みんな備えるドスエ」ニンジャヘッズ達の顔から穏やかな笑顔が消え、ライブ儀式への緊張が場内を満たす。ボブも思わず気分が高揚する。((だ、騙されないぞ!どうせCD音源を後ろに翻訳チームが踊るだけなんだ!))23
2014-11-23 03:15:43「翻訳チーム来ないって言ってたのに場内の写真トゥイートしてる!」「アレ!?マジじゃん!翻訳チームいるって事?」場内がざわつき始める。ボブは眉根を寄せる。「こいつ翻訳チームじゃね?」「アイエエエ!違います!」何たること!ヘッズ達が翻訳チームを探し始めた!24
2014-11-23 03:20:53