「フー・キルド・ニンジャスレイヤー?」#6・再放送Ver(実況なし)
戦車の操縦席を場末ライブハウスの楽屋に改造したかのようなネオサイタマ某所空間、コーンロウ男は複数のUNIXモニタを監視しながら呟く。「n00b」右手で高速タイピングを続けながら、灰皿に山積みされたカプセルを左手で探り、掴んで飲み込むと、ボトルの天然飲料水「枯山水」で流し込んだ。1
2014-12-06 21:37:22男の名はシバカリ。そのタイピング速度から、彼がテンサイ級のハッカーである事は自明だ。こめかみに六つも増設された端子からは大蛇めいて太い、おそろしく高級なLANケーブルがそれぞれ伸び、複数機材に接続されている。モニタにはスゴイタカイビルのフレーム図、攻撃進捗を示すカエル武装戯画。2
2014-12-06 21:38:26キャバァーン!キャバァ、キャバキャバババァーンキャバァーン!電子パーカッション、あるいは死天使のファンファーレめいて、頭上の小型スピーカーはひっきりなしにジングルを鳴らし続ける。デジタル数字がグングン増えてゆく。これは今回の攻撃用に開設した使い捨ての専用口座の残高を示す。 3
2014-12-06 21:40:31「ボースタル子供達。お母さんマイコ務めできる年齢かな。大切にね」シバカリは瞑想的無感情下で発言。「アバーッ!」敵ハッカー、エビウミの悲鳴文字情報が駆け抜ける。キャババババ……底が抜けたかのようなジングル音。エビウミの個人情報、両親の銀行口座情報がサブモニタに!ナムアミダブツ!4
2014-12-06 21:42:34「どんどんいこう」カプセルを噛んで飲み込んだシバカリの目から充血が引いてゆく。両手で高速タイピングを開始すると、カツラのアカウントが赤点滅を開始。「女の子?シビアな」シバカリは瞑想的無感情下で発言。「ま、ギリギリ成人で自己責任」キャババァーン!防壁は既に破れ、為すがままなのだ!5
2014-12-06 21:44:01専用UNIXモニタでycnanのアカウントが光り、スゴイタカイビルのデータの上書きが行われる。「物理ハッキング、手こずっているみたい。ポイントの数が多い。そっちは?」「そこそこ。二つ潰した……もう一人は堅牢。怖いね、子供たち」シバカリは答えた。「シャレがわからないから……」 6
2014-12-06 21:46:38彼は目を細めた。「なかなか良い気分だ、人命救助」「勝てばの話よ」とycnan。「引き続きお願い」「で、どうしたものかな、地下のこれ」シバカリはフレーム図を下にスクロールさせる。「マルノウチ(※円の内)は円環構造の人生の象徴ゆえに……はは。ポエット」「なに?」「子供らのコメント」7
2014-12-06 21:51:17ダッダーガーツクダーダー。シバカリのUNIXは無慈悲に低ビット低音のリズムを刻む。「この調子で俺の朝食のレシートから真実を読み取ってもらおうかね。学者さん達に」「遊ばないで」「いないさ」タイピングは依然最大速度。「物理の人たち、間に合うかな……直接触られたら、お手上げだよ」 8
2014-12-06 21:58:32「ハァーッ……ハァーッ……」破壊を背後に、床を這いずる者が辿り着いたのは、直通エレベーターの扉だ。「ハァーッ……」震えながら彼は床に手をつき、身を起こした。瓦礫の山と天井の大穴を振り返る。市民達がマグマめいた人型を恐怖とともに見守る。共に落ちたニンジャスレイヤーは……まだだ。10
2014-12-06 22:01:22「アアアアーッ」赤熱する人型の目元の表皮が崩れ、人めいた双眸が露わに。ひび割れた赤い光が脈打つ。やがてそれは再び赤いニンジャ装束となる。やおら彼はエレベーター扉に両手をかけ、力任せにこじ開けた。エレベーターシャフトが剥き出しになる!「イヤーッ!」彼は迷いなく身を躍らせた。 11
2014-12-06 22:04:20フジキドがアグラして待つのは、タタミ10枚程度の広さの浮き島だった。島の周囲には幾つか、シメナワを巻かれた逆円錐形の岩塊が浮遊している。頭上には黄金の太陽、否、立方体が輝く。一方、遥か下の雲海は、さらにその奥底から放たれる光を受けて、断続的に銀色に光るのだった。13
2014-12-06 22:06:37フジキドの背後、浮き島の縁にはトリイ・ゲートがある。前方にも、同様に、ひとつ。遠くの空で0と1のパルスが龍めいて閃いた。フジキドは前方のトリイを凝視した。 14
2014-12-06 22:08:56「……キド……フジキド」呪詛と嘲りの入り混じる邪悪な呻きが、灰色の空間全体を震わせた。このローカルコトダマ空間の不気味な極北をいかにして訪れ、いかにして呼びかけるか。フジキドには自明だった。己の中の世界なのだ。彼は呼びかける。「ナラクよ」ゴウ!浮島を赤黒の呪詛が取り囲んだ。15
2014-12-06 22:13:40「不甲斐なき哉!」燃え盛る超密度の赤黒文字は、不穏な砂塵めいてフジキドの周囲全方向を埋め尽くした。「イクサを怖れ、蛆と蛞蝓のフートンに伏せ暮らす腑抜け者めが、この期に及んでこの地に何を試みに参った。言うてみよ」フジキドは答えかけた。「私は……」「黙れ」ナラクの声が被さった。16
2014-12-06 22:23:56「オヌシは所詮ここまでの男であった」「ヌウッ」フジキドは呻いた。目からとめどない血が溢れだし、心臓は素手でわし掴まれたかのように収縮した。浮島を囲む嵐はビョウビョウと唸った。「儂はオヌシを内より焼き捨てる算段を決めたところ。それを知ってか知らずか、今更伏して命を請い願うか」17
2014-12-06 22:29:40「グワーッ!」フジキドは強烈な圧力によって後頭部を押さえられ、ドゲザめいて叩きつけられた。「そうだ。地を舐めい!」「ヌウーッ!」フジキドは大地を掴んだ。歯を食いしばり、圧力に抵抗しようとした。「イヤーッ!」ナラクの叫びが木霊する。「グワーッ!」再びフジキドは押し潰された。18
2014-12-06 22:37:56「俺を……滅ぼすか」フジキドは血泡の溢れる口を動かし、ナラクに向かって言葉を発そうとした。赤黒の言葉が浮島の周囲を荒れ狂い、もはや頭上の黄金の光すら閉ざした。「然り。せめて我が憎悪の炉を保つ炭のひと粒として永劫に仕えよ。その程度の働きすらも満足にこなせぬであろうが!」19
2014-12-06 22:42:14「ヌウーッ!」フジキドの指先が大地にめりこみ、亀裂を生じた。その背が震えた。彼の脳裏には、崩落するマルノウチ・スゴイタカイビルのビジョンが生じた。それは彼をニンジャスレイヤーたらしめた過去の事件とは異なる光景だ。これから起る事、あるいは現世において既に起こってしまった事か。20
2014-12-06 22:46:12圧力が強まり、フジキドを中心にクレーターめいて大地が潰れた。だが彼はなおも屈し切らなかった。「……イヤーッ!」彼は顎を上げ、顔を上げ、身を起こし、立ち上がった。ゴウ!荒れ狂う赤黒の呪詛は正面のトリイに集束、赤黒い稲妻でトリイの中を満たした。そこからナラクが進み出た。 21
2014-12-06 22:49:56