空想の街・灯りの樹の夜'14 一日目 #赤風車

#空想の街 「灯りの樹の夜」一日目(14/12/12) #赤風車 。公式様参加者様、お疲れ様でした。 時系列順に絡んでくださった方のツイートも入っております。有難う御座いました。 何か問題など御座いましたら、お手数をおかけして申し訳ないのですが、ご一報頂けると幸いです。すぐに修正いたします。 他本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp 続きを読む
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不可村 @nowhere_7

それならば、だ。 男は踵を返して玄関まで戻り、骨ばった手を懐から出して古ぼけた扉にかける。躊躇ったのは一瞬だった。一気に戸を開ける。 ――そして閉めた。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:46:34
不可村 @nowhere_7

何があっても驚かないつもりだったが。寧ろここで予想が外れたら逆に自分の頭がとうとういかれたということになるのだが。 それでもこれはないだろう。何故、どうして、今になってこの場所に、という問いのうち、この場所、という部分に答えがついた。まさかこうなろうとは。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:48:35
不可村 @nowhere_7

黙り込んで、閉じた扉の前で瞼を下ろす。さてどうしたものか。考えてももう仕方の無いことを、どうしようか考える。 そしてその耳に、置いてきた筈の声が届く。「ここにいたのか、一文字」はじかれたように振り向くと、そこには黒髪の女が立っていた。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:53:32

雨の再会、あだばなの章

不可村 @nowhere_7

「お前様か。驚かせるなよ」割と本気で冷や汗をかいた。この女、声が姉弟とそっくりなのである。 彼女のほうはといえば、「驚いたのはこっちだ」とどこか不満げにしていた。相手に気づかれないよう、じり、と扉に背を向ける。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 14:56:44
不可村 @nowhere_7

男の名は一文字落葉。いちもんじらくよう、と読む。 そして彼を呼んだ女の名は皆代徒華。みなしろとうか、と言う。長い黒髪に、翳りのさした愁い顔。そしてベージュのスラックス、男物のワイシャツにサスペンダー。どことなくちぐはぐな雰囲気を出している。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:02:04
不可村 @nowhere_7

ちなみに彼女は名前で呼ばれることを好まない。娘にあだばなの意を持つ言葉を名づける親の顔を見てみたいと思う者もいるだろうが、生憎彼女の両親は既に土の下だ。 徒華は寒いのか、芥子色の肩掛けを巻いていた。「本当に驚いたよ一文字。突然黙って町を出るんだから」 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:07:07
不可村 @nowhere_7

一文字は内心のけぞる。ということは寒い中、徒華は一文字をあの町からここまで追ってきたのだ。「お前様も無茶をするね。俺に何の用だ」「用事、というかだな。君はあの町で働く私の友人だろう? 突然不審な行動を取ったら心配になるじゃないか」「それでつけてきたって?」 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:09:50
不可村 @nowhere_7

「その言い方は心外だな」一文字の言葉に徒華は腕を組んで眉を寄せた。「これでも、何度も声をかけたよ。けれどまったく届かなかったんだ。いつの間にかここまできてしまった」そう言いつつ、徒華はポケットから小さな雑誌のようなものを二冊出してきて、一冊を一文字に渡す。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:12:32
不可村 @nowhere_7

さて一文字は片仮名に頗る弱い。夢が滲んだような美しい色合いのそれをためつすがめつしていれば、見かねたのか徒華が説明をしてくれる。「これはこの街のタウン誌、ええと、情報が載った便利な雑誌だ。駅にあったよ」お陰で初めて来た私でも迷わなかった、と徒華は笑った。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:15:10
不可村 @nowhere_7

「ほう、広報のようなものか?」「きちんとタウン誌と呼ぼうか一文字」もう数年の交流になるが、徒華も流石に呆れてしまう。この男、どういう生き方をすればここまで片仮名に疎くなれるのだ。 一文字は徒華の悩みは露知らず、ふむふむと興味深そうにタウン誌を見つめていた。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:17:43
不可村 @nowhere_7

やがて一文字が感嘆の声をあげる。「灯りの樹か。明後日が当日か? 成程それでこの街は活気付いているのか」さり気無く彼は徒華の脇をすり抜けた。「祭事には参加せねばならん。人生何事も勉強なのだよ、尾行も旅も」 「逃さないぞ一文字。そうやってはぐらかすつもりだろう」 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:23:38
不可村 @nowhere_7

ぴた、と一文字が足を止める。真顔で徒華を見れば、徒華もまた真顔だった。重い黒髪に隠れがちで寂しげな目が、今は珍しく強い光を放っている。 暫くおいて、一文字が鼻を鳴らした。これは小ばかにしているのではなく、彼なりの感心をこめた笑い方だった。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:25:41
不可村 @nowhere_7

「随分と察しがよくなったな。厳しい姉君の下で日夜働いている影響がついに出たか」 一文字の癖を知っている徒華は気圧されない。「だからはぐらかすな。一文字、正直に教えてくれ。どうして急にあの町の家を引き払った? この街へやってきたのは何故なんだ」 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:29:25
不可村 @nowhere_7

揺れている三つ編みの、楓葉型の髪の先端が、どうしてか忌々しい。そこから徒華は視線を上げて一文字を見る。口元だけ笑い、眼鏡の奥が笑っていない一文字の顔は、一年を通して見られるか見られないか分からない程珍しいものだった。こんな顔は、今まで徒華でさえ覚えが無い。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:31:54
不可村 @nowhere_7

一文字は唐突に口の笑みをやめた。「よかろう。教えるともよ。折角俺を追いかけてここまで来てくれたのだ、お前様には確かに聞く権利がある。だがひとつ言っておくが、お前様も正直に言い給え」 「……何の話だ?」何も隠し事の無い徒華はきょとんと黒目がちな瞳を丸くする。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:36:15
不可村 @nowhere_7

これは自覚がないな、というより隠していないのか、と一文字は徒華の様子を見て肩をすくめた。一文字には正直彼女の考えていることなど分からない。何故自分を追いかけてきたのかなど知らない。 ただ、予想がつく、胸騒ぎがする、それだけである。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 15:38:08
不可村 @nowhere_7

まあ予想が当たっていようが今考えても詮無きことだ。一文字は紅の襟巻きをまた直すと、廃屋の壁に背を凭せかけた。 「まあいいさ。ただ約束してくれ給え。俺は素直にここに来た訳を言おう。だからお前様も何故俺を捜していたか、素直に言い給えよ」 徒華の肩が僅かに揺れた。 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 15:41:33
不可村 @nowhere_7

そういうことかと徒華は内心溜息をつく。後ろめたいことは何もしていないが、こうして全て見透かされているような一文字との対話は心臓に悪い。「分かった。言うよ。でも町を出て行く姿が見えて心配になったのも本当なんだ」何しろ今の徒華には不安定になる理由が山とあるのだ。 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 15:44:29
不可村 @nowhere_7

約束したはいいが口が重くなった徒華を、一文字は数分黙って見守っていた。彼女が沈思黙考するのは今に始まったことではない。それはこの数年の友人付合いで学んだ。待つのは苦ではないのだ。苦しんでいるのは、徒華である。一文字はそれをよく知っている。 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 16:00:46
不可村 @nowhere_7

「分かった。無理に言うな。友とはいえご婦人に足を運ばせた俺から謝罪をこめて明かそう」冬は日暮れが早い。暗くなる前に彼女をどこかにやらねばならない。一文字は見切りをつけ、口を割る。徒華がゆるゆると不安そうな顔をあげてきた。 #赤風車 #空想の街

2014-12-12 16:01:02
不可村 @nowhere_7

何も不安そうにされる話ではないのだが。「俺の場合話は簡単だ、ただ河岸変えをしようと思っているだけだ。この街に来たのは、まあ、昔来たことがあってな、印象がよかったからだな」 対する徒華は話を聞いてますます不安げになる。「本当にそれだけか?」 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 16:03:49
不可村 @nowhere_7

本当にそれだけだが何かいけなかったろうか。 徒華は目を伏せ、長い睫で頬に影を作りながら続ける。「君にはやはり、あの町は居心地が悪かったんだろうかと思って。数年前、ふらりと君は現れて、色んな商売をやっていたが、あの町は、住みづらいだろう? 私でさえ、そうだ」 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 16:06:42
不可村 @nowhere_7

確かに今までいた町、つまり徒華が家族で暮している場所だが、あそこは余所者には厳しい上身分だのなんだのとやたら差別のある場所だった。だが好きで選んであの場所に今までいたのだ。そしてあの場所に辿り着くまでだって好きに放浪していた。特別あそこが悪いわけでもない。 #空想の街 #赤風車

2014-12-12 16:14:26
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