【魔法少女まどか☆マギカSS】叛逆のグルメ -群馬県風見野市のチャーハン-

GammaRay @sizuoka074

叛逆のグルメ

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群馬県風見野市のチャーハン

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（完全に食事時を逃してしまったわ……）ほむらは物憂げに天を仰いだ。ここは見滝原からほどなく離れた風見野の商店街だ。曜日は水曜、時間は十五時。押しも押されもせぬ平日だったが、見滝原中学校は今日が開校記念日で、杏子の家で遊んでいたのだ。

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（お腹が空いたわ……なんでもいいから食べないと……）コートのポケットに両手を突っ込み、きょろきょろと辺りを見渡す。とにかく腹が減っていた。最後に腹に入れたのはカルビーのポテトチップス。それも杏子と分けて食べた程度だったし、小一時間も前のことだ。

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ゲームに夢中になりすぎていると人は空腹すら忘れるらしい。その結果がこのざまだった。午後の三時。真っ当な食い物屋がやっているような時間ではない。ぐるりと辺りを見渡しても、飲食店らしきものはどこもまったく人気がなく、入り口には『準備中』の札が掛けられている。

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（これは本格的に兵糧攻めね…）自然と眉間に皺が寄る。自分の見てくれなど気にしている余裕がなかった。空腹なのだから仕方がない。たまには運動不足を解消しようという思いつきで、徒歩で帰ろうとしたのも良くなかった。元々風見野の住人ではないほむらにはここいらの土地勘がない。

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せめてコンビニでも見つかればと思っても、場所がさっぱりわからなかった。スマホは電池切れ。踏んだり蹴ったりだ。もうこうなったらバス停まで行き、駅前の適当なファーストフードで済ませるしかない。だがマック。いいや、マックか。正直言って気分が乗らない。なんともはやだ。

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最近すっかり目つきが悪くなったと言われる目元をさらに剣呑な形に変え、早足で商店街を歩き去る。しかし、そこで天啓があった。開いている店があったのだ。商店街からやや離れ、国道沿いの道に『松竹園』と書かれた看板がある。脇にはメニュー。ランチタイムは14:30まで。

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（ワオ。今日限りで悪魔はやめね…）神に感謝して十字を切り、ほむらはことさら早足で店のドアの前に立った。（自動ドア。こぢんまりとした見た目の割にやるじゃない）どうでもいいこと考えながら店内へ。あまり明るくはなかったが、それなりに広さがあるようだ。奧には厨房、円卓もある。

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（しめた。まさか中華とは）持ち前の仏頂面をぴくりとも動かさず、ほむらはひとしおの手応えを感じる。「いらっしゃいませー。お一人様ですカー？」チャイナドレスを着た40代の女性がやってくる。「はい」「お好きな席どうぞ」やや片言の日本語。（これはひょっとしたら大当たりかも）

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中国人の店は味がいい。杏子に連れ回されてそこら中で飲み食いするうち、ほむらが学んだことだった。見れば店の一角を声の大きい集団が占領している。中華料理屋にはよくある光景だ。（ああいう常連が付いてる店は味もまあまあいけるはず…）勝手に頷ぎながら席に腰掛け、用意されていてメニューを開く

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（ここは定食が中心みたいね）一枚目のメニューは定食だけが載ったメニューだった。鶏肉のカシューナッツ炒め、バンバンジー、堅焼きそば、酢豚、ホイコーロー。定番メニューがずらりと並んでいる。セット内容はスープとサラダ、デザートの杏仁豆腐。ランチセットならドリンクもつく。

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（そうそう。こういうのを待ってたのよ）再びしめしめと何度も頷き、先ほど店員の持ってきたおしぼりで手と顔を拭く。いかにも昼間、サラリーマンでごった返してそうなラインナップだ。胃が踊る。ラーメンのメニューも豊富だった。（よし。せっかくだからガッツリ行こう。ガッツリと）

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舐めるようにメニューを見る。だがまずは、そうだ。飲み物だ。テーブルの上を見る。だがお冷やがなかった。（…妙ね）おしぼりが来たなら普通はお冷やも来るはずだ。セルフサービスなのかと思って店内を見渡すが、厨房の入り口にビールサーバーがあるぐらいで、それらしいものは見当たらない。

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「アイヤー！フーチョンシーハウラー！」奧の席から大きすぎる声。常連と見られる中国人客の集まりだ。あちらにはお冷やの入ったプラスチックボトルと紹興酒がある。そこでピンと来た。「すみません、お冷やいただけますか」手を上げて店員を呼ぶと、彼女はすぐにグラスを持ってきた。思った通りだ。

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（なるほど。商魂たくましい……）若干呆れてため息をつく。店員が気を利かせてお冷やを出せば、食事だけして帰ってもらうことになるかもしれない。なのでいっそお冷やを出さずに、向こうがドリンクを注文するまで待とうというのだ。

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（なんだか少しだけ損した気分ね…）どうせお店に入るなら十分なサービスを受けたいものだ。一人ごちながらグラスを空ける。しかしちょっとした収穫もあった。向こうの席で紹興酒を開けている客の食べていた餃子が見事な焼け具合だったのだ。大陸系の中華店では水餃子がでてくることも多い。

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（でも中華はやっぱり焼き餃子でしょ）「すみません。餃子二人前」「かしこまりましたー」取りあえず餃子を頼む。豪勢に10枚だ。（餃子に合うメニューを頼む必要がある）ううむ難題だ。口元に手を当ててメニューとにらみ合う。だが頼むべきはライスだ。ほむらは餃子はご飯で食べるものと決めている。

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（となれば…）「すみません、それと玉子チャーハン一つ」（思いっきりオーソドックスなのがいいんだ）だが餃子とチャーハンだけでこの食欲が満たされるだろうか？（難しいわね…）向こうの席を見る。竹の蒸籠。（小籠包！まさかこれを忘れるなんて！）「それと小籠包」「ハイー」

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「それと…」また見る。片付きかけたラーメンのどんぶり。メニューの端に見かけた文字を思い切ってそのまま読む。「麻婆ラーメン」「ハイー」「それと…」「ハイ」そこでふと冷静になる。餃子十枚とラーメン、チャーハン、小籠包。かなりの量だ。食べきれるのか？「いえ、以上で」「ハイー」危なかった

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（調子に乗って頼みすぎると後で痛い目を見るのよね…）自分の英断に感心しながら、またなんとなく隣の席に目が行く。レバー炒めを食べていた。クソッ、あれも頼んでおけばよかった。人は空きっ腹でいる限り、ことごとく誘惑に弱くなるのだ。

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厨房では小太りの中年男性が皿を用意し始めていた。湯気がもうもうと立っている。鍋に油のようなものを入れたようだ。（セオリーから行けばまずは餃子ね）予想通り、一分と経たないうちに油の跳ねる音が聞こえる。きつい。空腹にこの音はこの上ない拷問だ。ダークオーブですら濁りかねない。

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それにしても良い店だ。食事処っていうのはこういう雰囲気がなくてはいけない。頬杖をついて店内を見渡す。ちょっと薄暗い感じで、中華風の屏風や掛け軸が飾られ、宴会メニューの案内やお品書きの書かれた紙がそこら中にべたべたと貼り付けられている。（誰がどうみても下町の良き飯屋。実にいいわ）

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感心してるうちに餃子が来た。大きめの皿にどっと十枚。ぱりぱりに焦げた下皮が一枚に張り付き、香ばしい匂いを放っている。（ううん……たまらないわねこういうの）うなりながら小皿を手に取り、醤油とラー油、お酢を数滴。（餃子にはお酢よね、やっぱり）箸で一枚切り分けて、小皿につけて、食べる。

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（うまい）肉がたっぷりとジューシーで、ニラとニンニクのにおいがする。（これぞ餃子ってやつよ）はふはふと湯気を吹きながら噛みしめる。お酢の酸っぱさがいいアクセントになる。だが熱すぎる。お冷やを……いいや、お冷やなんてもったいなさすぎる。「すみません、ウーロン茶ください」「ハイー」