【第三部-十一】冬の海の上で #見つめる時雨

時雨 夕立 由良 夕張 五月雨 龍鳳 磯風 浜風 山城 扶桑
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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「ん?目を覚ましたか。色々聞きたいことはあるが、後だ。浜風、行くぞ」 「ええ」 空を仰ぎ見る。あれは…深海棲艦の艦載機…。そうだ、僕は…。 「対空射撃、撃て!!」

2014-12-24 21:40:08
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磯風と浜風が、急降下してくる艦載機を次々に迎撃していく。 「ヲ級の改型にしては艦載機がいやに少ないな。なぁ、浜風」 「そうね。きっと誰かが先に多くを撃墜してくれたんでしょう」

2014-12-24 21:45:09
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「時雨、輸送船と他の護衛隊は何処だ?よもや壊滅したわけではないだろう」 「それは…」 その時、海面が盛り上がり、重巡リ級が姿を現した。右腕がない。僕が戦いの末に単装砲で撃ち抜いた痕だ。そのリ級が磯風に襲い掛かる。

2014-12-24 21:50:09
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「手負いでこの磯風を屠れると思ったか。侮るな!!」 磯風がリ級の顎を蹴り上げる。そしてすかさず高角砲を放った。…リ級は沈黙し、海へと沈んでいった。 「…さっきから手負いの深海棲艦ばかりね」 「ああ。手練れと交戦した後だったのだろう」 磯風が僕を見て小さく笑う。

2014-12-24 21:55:09
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「時雨、近くで未確認の深海棲艦の泊地を見つけた。この深海棲艦達も恐らくそこから来ている。増援が来る前に撤退するぞ」 「…あのヲ級は今ここで仕留めておきたかったけど、仕方がないですね」 浜風が遠方のヲ級を見つめる。ヲ級もまた撤退を始めていた。

2014-12-24 22:00:11
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「どうして磯風達がここに…?」 「ん?お前には通信を飛ばしたはずだが、聞いてなかったのか」 え…?あ…もしかしてあのぶつ切りの通信は、磯風だったのか…。 「まさかお前、私達のことを知らずに僚艦を逃がし一人で残ったのか。死ぬ気か。あれほど言っただろう!?」 うう…。

2014-12-24 22:05:09
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「…磯風」 「む…」 浜風が磯風を睨む。…磯風が頬を人差し指で掻きながら、僕から視線を逸らせた。 「…だが、最後まで戦い抜いたようだな。深海棲艦達の状態を見ればわかる。…よく戦ったな、時雨」 磯風が手を伸ばしてきた。…これは。…僕は磯風と、握手を交わした。

2014-12-24 22:10:09
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「…私はまだ許してませんから」 龍鳳がふーんだ、といった様子で頬を膨らませている。そういえば、さっきからずっと龍鳳に抱えられている。恥ずかしいから下ろして欲しいのだけれど、体に力が入らない。 「罰としてこのまま鎮守府まで連れて帰ります」 あはは…ごめんね、龍鳳…。

2014-12-24 22:15:09
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…龍鳳の頬に手を伸ばす。しっとりしていて、ほんのりと温かい。 「時雨…?」 「…今度は、僕が護衛してもらう側だね」 「…そうだね」 一瞬、龍鳳の表情が緩んだけれど、すぐにハッとなってまたむくれた顔になった。

2014-12-24 22:20:09
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「ん…通信か。……。…わかった。すぐに合流する」 「磯風?」 「時雨、安心しろ。輸送船や夕張達は無事だそうだ。今比叡と榛名が護衛を継続している。それから扶桑と山城がこちらへ向かっているそうだ。このまま合流しよう」 夕張…皆…無事だったんだ…良かった…。

2014-12-24 22:25:09
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ふと、龍鳳の着物に僕の血が染みついてしまっているのに気がついた。綺麗な桜色の着物が、赤黒く染まってしまっている…。 「り…龍鳳…ごめん…キミの着物…」 「え?…いいってば。時雨が無事だったんだもん。でも、責任感じてるんだったら、後で何かお詫びが欲しいな」

2014-12-24 22:30:11
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「お詫び?」 「うん、お詫び。…ねぇ、時雨。良かったら私とクリス…」 「見えたぞ、扶桑達だ」 磯風の一言で龍鳳は言葉を途切れさせた。…龍鳳? 「…ううん。…うん!何か美味しいお菓子、ご馳走してくれると嬉しいな」 そして、盛大にため息をついた。 「うう…がっくし…」

2014-12-24 22:35:08
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「時雨っ!!」 「山城…」 山城が海の上を滑りながら僕のところまで来る。 「ああもう、こんなに血が…。ホントに無茶して…」 「…ごめん、山城」

2014-12-24 22:40:09
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山城の顔を見て、僕はあることを思い出した。慌てて自分の頭を手で触る。あ…やっぱり…。 「…?どうしたの、時雨」 「山城…ごめん…」 「それならさっき聞いたわよ。…本当に大丈夫?」 「…髪飾りが…」 僕の大切な髪飾りが、ぼろぼろになっていた…。山城から貰ったマフラーも…。

2014-12-24 22:45:10
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「…ごめん…ごめんなさい…」 涙が溢れて止まらない。胸が苦しくて堪らない。これは…本当に大切なものだったのに…。 「…髪飾りはともかく、そんなに泣くんだったら何でそのマフラーしていったのよ」 「…寒かったから」 「…はぁぁ…」 大きな溜息。そうだ、僕が馬鹿だった…。

2014-12-24 22:50:09
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「…たまにあんたがすっっっごい子どもに見えるわ。…全く、しょうがないわね」 こつん、と山城のでこぴんが額に当たる。 「…髪飾りならまたあげるわ。マフラーだって。あんたが帰って来てくれるなら、何度でも…」

2014-12-24 22:55:09
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「龍鳳、ありがとう。時雨運ぶの代わるわ」 そう言って山城が両手を差し出してきた。…ああ、皆に迷惑かけっぱなしだ…。 「え?あっ…だ、大丈夫です!!」 龍鳳が僕を抱えたまま山城に背を向ける。…え?山城が目を点にして僕たちを見ている。行き場をなくした手が宙に浮いていた。

2014-12-24 23:00:14
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「あっ…えっと、その…」 龍鳳の顔が見る見るうちに真っ赤になっていった。 「…ぷっ…ふふ…。…龍鳳」 「は、はいぃ!?」 山城に名前を呼ばれ、龍鳳の背筋が伸びた。 「じゃあ、お願いするわ。頼んだわよ」 「はい!!………え?」

2014-12-24 23:05:09
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龍鳳の手がぷるぷる震えているのが伝わってきた。だ、大丈夫…? 「………時雨」 「う、うん…」 「このまま運ばさせて頂きます…」 「よ、よろしく…龍鳳…」 …何だろう、顔が熱いや…はは…。

2014-12-24 23:10:09
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「あまりここに長居するのもよくありません。早く帰投しましょう」 浜風がそうみんなに促す。…そうだ、深海棲艦の泊地が近くにあることを考えるとここはもう危険海域。早く出ないと…。 「…時雨、出発するね」 「うん」 一呼吸おいて、龍鳳が水面を滑り始める。危なげなく、軽やかに。

2014-12-24 23:15:09
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ゆらゆらと、龍鳳が重心をコントロールするのに合わせて僕の体が揺れる。まるで揺り籠の中にいるみたいにゆったりとした優しい揺れだった。…段々と、眠たくなってきた。 「…龍鳳。僕、少し眠くなってきちゃったみたいだ…」 「…うん、眠ってていいよ。着いたら、起こしてあげるから」

2014-12-24 23:20:10
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前を走る山城が一瞬、僕を見ながら穏やかに微笑んだ。…見守ってくれるひとたちがいるって、こんなにも安心できるものなんだ。…みんな、ありがとう。ごめんね、少しだけ…おやすみ…。――

2014-12-24 23:25:08
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