五月雨ちゃんは艦の記憶に苦しみ、崩壊寸前にまでなった。夕立にはそうなって欲しくなかった。つらい記憶を抱えて欲しくなかった。でも、それがここにきて一気に壊れた。私が夕立に向き合ってこなかったせい?どうしよう、このまま夕立が戻ってこれなくなったら。私のせい。私の…。
2014-12-23 21:30:22夕立のおかげで皆は助かった。それは事実。だけど、夕立はどうなるの?それじゃあ意味ないよ。どうしよう、夕張。私、夕立を壊しちゃった。お願い、戻って。もとの夕立に。今度は向き合うから。だから…。
2014-12-23 21:35:22肉が引き千切れる音がした。瞬間、私の肩から大量の血が噴き出す。私は声にならない悲鳴をあげた。でも、夕立を抱き締めることはやめなかった。お願い…お願い…! 「ァ…ぁ…あ…!?」 夕立の目から次第に炎が消える。よかった…元に…。
2014-12-23 21:40:22「由良…?由良ぁ…!?」 崩れ落ちた私を、夕立は受け止めてくれた。夕立の手に、安心できる温かさを感じた。 「そんな…由良…!?あたし…あたし…」 「…いいのよ。夕立は何にもいけないことはしてないわ。だから…気に病まないで…」 夕立の涙が零れる。…熱い。本物の、涙だ。
2014-12-23 21:45:20「水上電探に感…あり!?」 五月雨ちゃんが驚いた声で言う。え…?やめてよ…。私、もうそんな気力ない…。もう…好きにして…。 「わ…私が皆さんを守り…守ります!」 …五月雨ちゃん…。ほら夕張、五月雨ちゃんだけに行かせないで。しっかり…。
2014-12-23 21:50:22「痛い!?痛いってば!!五月雨ちゃん、落ち着いて!?」 あれ…?この声は…比叡さん? 「皆さん、助けに来ました!大丈夫ですか?被害状況は!?」 榛名さんも…。よかった、援軍が到着したんだ…。
2014-12-23 21:55:20「ちょっと、時雨は?夕張、あのコはどこ!?」 「時雨は…私達を逃がすために、一人で囮に…」 「あのバカ…。姉様、行きましょう。比叡、榛名。ここの護衛は任せたわ」 「まっかせてー!」 …時雨を、お願いします。このコの大好きな、時雨を…――
2014-12-23 22:00:31 *
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あれから何時間経ったんだろう。もう腕に力が入らないや。血もどれくらい流れたのかな。ああ、意識が朦朧とするよ。いや、意識なんてとうになくなっているのかもしれない。視界が真っ暗だ。自分が目を開いているのかどうかさえ、定かじゃない。僕は、どうなったのだろう。
2014-12-23 23:05:09体が軽い。まるで宙に浮いているみたい。海の上なのに?違う、ここは海の上じゃない。…とても、温かい。まるで誰かに抱かれているような、そんな温かさ。…僕はどこにいるんだろう。もしかしたら、もう沈んでるのかもしれない。海の中って、意外に温かいんだ。
2014-12-23 23:10:09皆、ごめんね。山城、ごめんね。龍鳳も、ごめんね。後悔はないけれど、色々置いてきてしまった気がする。夕立達は上手く撤退できたかな。それだけ知りたいな。…ふふ、磯風の言った通りだ。僕が知ることはできない。…そうだよね。
2014-12-23 23:15:09でも磯風。僕は出来る限り足掻いたつもりだよ。だから、胸を張っていいかな。今度また会う機会があったなら、笑顔で会いたいな。…会いたかったな。
2014-12-23 23:20:09…龍鳳にも結局、何も言えないままだ。でも、何て言えばよかったんだろう。僕は今でも山城への気持ちを引き摺ったまま。山城もそれを許してくれた。僕はそれでよかった。だけど、それで龍鳳を苦しませてしまった。…夕立も。
2014-12-23 23:25:09気持ちを捨てられない、そんなどうしようもない僕は、このまま沈んで正解なのかもしれない。そうすれば誰も苦しませずに済む。皆を泣かせずに済む。…それで、おしまい。
2014-12-23 23:30:10…違う。それは最低な行いだ。僕が苦しいから逃げ出すことに他ならない。…正直に言おう。また泣かせてしまうかもしれない。でも、自分の気持ちに嘘をつくことは龍鳳にも失礼だ。…龍鳳は僕の大切なひと。僕があの時最後に守ることができた、大切なお姫様…。
2014-12-23 23:35:09龍鳳…。再会してから、キミはいつも僕のことを気にかけてくれていたね。龍鳳の料理、とっても美味しかった。花のように舞いながら戦うキミは、とっても綺麗だった。僕が怪我をして帰ってきたとき、真っ先に駆けつけてきてくれたね。…ありがとう、龍鳳。
2014-12-23 23:40:09…せめて、せめてそれだけでもキミに伝えたかった。…ああ、でも…それを伝える機会さえ、もうないんだった。…ダメだ。会いたいよ。皆に会いたい。会いたい…。誰か…助けて…――
2014-12-23 23:50:10「あっ…時雨…目を覚ましたの…?良かった…」 「龍鳳…?」 視界が開けたその先に、今にも泣きそうな龍鳳の顔があった。
2014-12-24 21:35:09